日本地球惑星科学連合2014年大会

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[U-06_28AM2] 太陽系小天体研究の新展開

2014年4月28日(月) 11:00 〜 12:45 503 (5F)

コンビーナ:*荒川 政彦(神戸大学大学院理学研究科)、中本 泰史(東京工業大学)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、座長:中本 泰史(東京工業大学)

12:00 〜 12:15

[U06-11] ラブルパイル天体の内部構造がクレーター形成過程に及ぼす影響

*巽 瑛理1杉田 精司1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:ラブルパイル天体, クレーター形成, 質量損失, 破壊

背景と研究の目的:Hayabusaによって探査が行われた小惑星イトカワの表層には,他の天体には見られない地形が多く観測される.その象徴的な地形の一つに,ボールダーの豊富な表層でのほぼ円形の窪地が挙げられる(Hirata et al. 2009).本稿では以下,この窪地をQCD(Quasi-Circular Depression)と呼ぶ.QCDは衝突で形成した可能性が高いが,QCDを衝突クレーターであるとしてイトカワの表面年代を推定すると,75Myr-1Gyrと非常に大きな不確定性が出てしまう(Michel et al., 2009).この大きな不確定性は,主にラブルパイル天体表面でのクレーター則の不確定性による.小天体でのクレーター形成は,大天体で起こっている衝突エネルギーに比べると非常に小さな衝突エネルギーで起こっているはずである(Benz and Asphaug, 1999).そのような衝突エネルギーでは,従来のクレーター形成過程で議論されてきた材料強度スケールと重力スケールの中間的なプロセスが卓越すると考えられる.つまり,ラブルパイル天体は重力的に相互結合して形作られているので,全体としては物質強度を持たないが,個々の岩塊は強度を持つため,表層ボールダーの破壊による衝突エネルギーの散逸を無視できないのである(Armoring効果).また,クレーター形成過程において重要なのが,質量損失である.脱出速度の小さい小天体では高速イジェクタの質量は質量損失そのものであり,小惑星の消滅のタイムスケールに直接的に関係する.イトカワはボールダーが豊富な表層を持ち,密度も低いことからラブルパイル天体とされている(Abe et al., 2006; Saito et al.,2006).しかし,その内部構造の直接的な観測はなく,表層の下の基層構造は不明である.先行研究からは,粉体層でのクレーター形成が容器の影響を受けることや,ターゲットの背面の物質の有無によってターゲットの破壊の程度が変わることが分かっている(荒川ほか,2012).このことから,基層がボールダーかレゴリス層かよって,表面ボールダーの破壊やクレーター形成過程は大きく変化すると推論できる.本研究では,同じラブルパイル天体であっても内部が材料強度を持ったボールダーか,材料強度を持たないレゴリスのような物質かがクレーター形成に大きく影響する可能性に着目した.このような内部の材料強度の有無が表面のクレーター形成にどれほどの影響を与えるかを実験的に検証した.また,小天体のタイムスケールを決める上で重要となる,クレーターの大きさ,エジェクタ質量に着目し,計測を行った.衝突実験:実験では,ガラスビーズを模擬レゴリスとし,ガラスビーズ焼結体を8~15mm程度に破砕することで模擬ボールダーを作成した.ターゲットの表層は模擬ボールダーで作り,基層は模擬レゴリスのケースと模擬ボールダーのケースの両方を用意した.インパクターはポリカ弾丸(φ10mm)を160~180m/sで衝突させ,高速度カメラでクレーター形成過程を観察した.実験結果:予備的な実験では,基層がボールダー層であるときには,イジェクタ質量はレゴリス層であるときの1/5以下であり,最終的なクレーター直径も2割程度小さくなることが観察された.また,基層がボールダーであるとき,表層のボールダーの破壊の程度が高くなることが確認された.この2つの観察結果から,基層がボールダーであるときには,衝突エネルギーがボールダーの破壊により多く使われ,クレーター形成に使われるエネルギーが減少したと考えられる.この理由としては,ボールダーの力学的インピーダンスがレゴリスの10倍程度と大きいため,基層がボールダーの場合は強い反射波が表面に戻り,表層のボールダーが効率的に破壊されたという可能性が挙げられる.一方,基層がレゴリス層の場合には,インパクターとボールダーの衝突で発生した応力波はボールダーからインピーダンスの小さいレゴリス層へと効率的に透過し,強度を持たないレゴリス層の運動エネルギーに変換される.結果として,レゴリス層の運動により,表層でのボールダーの破壊はほとんど起こらず,イジェクタの質量が大きくなったと説明できる.小惑星進化への影響:上記のように,内部がボールダーのように材料強度を持つ場合にはクレーター直径がレゴリス層に形成される直径に比べて2割程度変化するため,イトカワのようなラブルパイル天体の表面年代は単純には決定できない.しかし,本研究で得られたクレーター直径が強度スケーリングよりも重力スケーリングに近いという観測事実から,表面年代について先行研究で示された範囲を低年代側(~108年)へシフトさせることが予想される.また,小天体内部もボールダーである場合には,衝突に伴う質量損失が大幅に減る可能性があることが分かった.このことから,小天体の内部構造の違いによって小天体の消滅時間が5倍程度変わりうることが示唆された.