17:48 〜 17:51
[SVC45-P37] アクロスによる桜島火山活動に伴う地震波伝播特性の変化の推定
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:アクロス, 地下構造, 人工震源, 桜島, 火山地震学, 火山モニタリング
1. はじめに
桜島は1年あたり1000回の頻度でブルカノ式噴火を繰り返す日本で最も活発な火山の一つである。噴火に伴う地下構造変化の検出を目的として、アクロスと呼ばれる人工震源が2012年より同火山西麓において稼動している(Yamaoka et al., 2014EPS)。アクロスから常時放射される規則的な変調弾性波を近隣の地震計で観測し、それを震源時間関数(既知)でデコンボリュージョンすることによってグリーン関数を推定できる。そのグリーン関数の時間変化の監視を通じて火山活動に伴う地下構造変化を検出することが同火山におけるアクロスの主要な目的の一つである。しかしながら火山活動に伴ってグリーン関数が変化するか否か、変化するとしたらどのような変化になるのかはこれまでのところ不明であった。
我々はグリーン関数を噴火との時間差を揃えてスタッキングし、噴火に近い時間帯とそれ以外の時間帯での系統的な違いを調べた。その結果、噴火に近い時間帯ほど全期間でスタックしたグリーン関数との波形相関が低下する傾向が見出された(前田他、2014火山学会)。しかしながら、この手法で推定されるグリーン関数は爆発地震や微動等の火山起源のイベントの影響を含んだものであり、波形相関を用いる限りは検出された変化が地下構造に起因するのか火山起源のイベントに由来するのか切り分けが困難であった。
そこで本講演では波形相関を用いるのではなく、グリーン関数のタイムウインドウ毎の波動エネルギーを指標として噴火前後の変化を調べた。その結果、噴火活動とグリーン関数変化との関係がより明瞭になるとともに、火山起源のイベントの影響との切り分けにも成功したのでそれについて報告する。
2. 解析
桜島では周波数帯の異なる2台のアクロス震源装置が稼動しているが、本解析ではS/N比の良好な12.505±2.5 Hz帯の変調波を用いた。震源装置に一番近い春田山観測点(震源距離615 m)における2012年9月19日~2014年7月21日の連続波形記録を用いて400秒毎のグリーン関数を計算し、これらを最寄りの噴火との時間差を揃えてスタックした(ここまで先の火山学会と同様)。次に、得られたグリーン関数の3成分の二乗和(運動エネルギーに比例)の波形を求めたところ、グリーン関数の後続波部分にあたる2-4秒のタイムウインドウにおいて噴火前後にエネルギーが減少する様子が見られた。
このことをより系統的に見るためにタイムウインドウ毎の平均エネルギーを算出し、最寄りの噴火との時間差の関数としてプロットしたところ、2-4秒のタイムウインドウにおいて噴火に向かってエネルギー減少、噴火後にエネルギーが回復する様子が明瞭に見られた。震源装置からやや離れた別の観測点(震源距離1200 m)においては、噴火前後にエネルギーが減少するタイムウインドウがもう少し後ろ(6秒付近)まで広がることも分かった。
3. 考察
アクロス近傍の観測点における地震波形はアクロス起源の波、爆発地震や微動などの火山起源のイベント、その他のノイズの重ね合わせから成る。この重ね合わせを震源時間関数でデコンボリュージョンしたものをもってグリーン関数の推定としているために、地下構造が変化しなくても火山起源のイベントの頻度・振幅等の変化によって見かけ上のグリーン関数変化が生じうる。この影響の評価のため、アクロス震源装置が停止していた2013年8月前半の爆発地震を含むいくつかのタイムウインドウについて、グリーン関数計算に用いたのと同じ処理を形式的に適用した。この処理から得られるのは爆発地震によって生じるグリーン関数の誤差の波形である。得られた誤差波形の多くはグリーン関数のタイムウインドウ全体に満遍なく分布した。噴火のタイミングによってはグリーン関数の前半に誤差が集中するものもあるが、逆に後半に集中するものもあり、重ね合わせれば平坦になるセンスである。すなわち、仮にグリーン関数の噴火前後の時間変化が火山起源のイベントによる見かけ上のものであるとすれば、その影響はグリーン関数のタイムウインドウ全体に一様に現れるはずであり、2-4秒のタイムウインドウのみに集中したエネルギー低下は火山起源のイベントによっては説明し難く、地下構造に起因する地震波伝播特性の変化と考えるのが妥当であろう。
火山活動が地震波伝播特性に与える影響としては、噴火前後の地震活動の活発化によって震源近傍の地震波速度構造が変化し、グリーン関数の火口直下における反射振幅に影響することなどが候補として考えられる。しかしながら本研究は地震波伝播特性の時間変化をようやく確からしい形で検出できた段階であり、変化を生じる具体的なプロセスの解明は今後の課題である。
桜島は1年あたり1000回の頻度でブルカノ式噴火を繰り返す日本で最も活発な火山の一つである。噴火に伴う地下構造変化の検出を目的として、アクロスと呼ばれる人工震源が2012年より同火山西麓において稼動している(Yamaoka et al., 2014EPS)。アクロスから常時放射される規則的な変調弾性波を近隣の地震計で観測し、それを震源時間関数(既知)でデコンボリュージョンすることによってグリーン関数を推定できる。そのグリーン関数の時間変化の監視を通じて火山活動に伴う地下構造変化を検出することが同火山におけるアクロスの主要な目的の一つである。しかしながら火山活動に伴ってグリーン関数が変化するか否か、変化するとしたらどのような変化になるのかはこれまでのところ不明であった。
我々はグリーン関数を噴火との時間差を揃えてスタッキングし、噴火に近い時間帯とそれ以外の時間帯での系統的な違いを調べた。その結果、噴火に近い時間帯ほど全期間でスタックしたグリーン関数との波形相関が低下する傾向が見出された(前田他、2014火山学会)。しかしながら、この手法で推定されるグリーン関数は爆発地震や微動等の火山起源のイベントの影響を含んだものであり、波形相関を用いる限りは検出された変化が地下構造に起因するのか火山起源のイベントに由来するのか切り分けが困難であった。
そこで本講演では波形相関を用いるのではなく、グリーン関数のタイムウインドウ毎の波動エネルギーを指標として噴火前後の変化を調べた。その結果、噴火活動とグリーン関数変化との関係がより明瞭になるとともに、火山起源のイベントの影響との切り分けにも成功したのでそれについて報告する。
2. 解析
桜島では周波数帯の異なる2台のアクロス震源装置が稼動しているが、本解析ではS/N比の良好な12.505±2.5 Hz帯の変調波を用いた。震源装置に一番近い春田山観測点(震源距離615 m)における2012年9月19日~2014年7月21日の連続波形記録を用いて400秒毎のグリーン関数を計算し、これらを最寄りの噴火との時間差を揃えてスタックした(ここまで先の火山学会と同様)。次に、得られたグリーン関数の3成分の二乗和(運動エネルギーに比例)の波形を求めたところ、グリーン関数の後続波部分にあたる2-4秒のタイムウインドウにおいて噴火前後にエネルギーが減少する様子が見られた。
このことをより系統的に見るためにタイムウインドウ毎の平均エネルギーを算出し、最寄りの噴火との時間差の関数としてプロットしたところ、2-4秒のタイムウインドウにおいて噴火に向かってエネルギー減少、噴火後にエネルギーが回復する様子が明瞭に見られた。震源装置からやや離れた別の観測点(震源距離1200 m)においては、噴火前後にエネルギーが減少するタイムウインドウがもう少し後ろ(6秒付近)まで広がることも分かった。
3. 考察
アクロス近傍の観測点における地震波形はアクロス起源の波、爆発地震や微動などの火山起源のイベント、その他のノイズの重ね合わせから成る。この重ね合わせを震源時間関数でデコンボリュージョンしたものをもってグリーン関数の推定としているために、地下構造が変化しなくても火山起源のイベントの頻度・振幅等の変化によって見かけ上のグリーン関数変化が生じうる。この影響の評価のため、アクロス震源装置が停止していた2013年8月前半の爆発地震を含むいくつかのタイムウインドウについて、グリーン関数計算に用いたのと同じ処理を形式的に適用した。この処理から得られるのは爆発地震によって生じるグリーン関数の誤差の波形である。得られた誤差波形の多くはグリーン関数のタイムウインドウ全体に満遍なく分布した。噴火のタイミングによってはグリーン関数の前半に誤差が集中するものもあるが、逆に後半に集中するものもあり、重ね合わせれば平坦になるセンスである。すなわち、仮にグリーン関数の噴火前後の時間変化が火山起源のイベントによる見かけ上のものであるとすれば、その影響はグリーン関数のタイムウインドウ全体に一様に現れるはずであり、2-4秒のタイムウインドウのみに集中したエネルギー低下は火山起源のイベントによっては説明し難く、地下構造に起因する地震波伝播特性の変化と考えるのが妥当であろう。
火山活動が地震波伝播特性に与える影響としては、噴火前後の地震活動の活発化によって震源近傍の地震波速度構造が変化し、グリーン関数の火口直下における反射振幅に影響することなどが候補として考えられる。しかしながら本研究は地震波伝播特性の時間変化をようやく確からしい形で検出できた段階であり、変化を生じる具体的なプロセスの解明は今後の課題である。