日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG30] 陸域生態系における水・炭素・窒素などの循環に関する研究

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 301B (3F)

コンビーナ:*加藤 知道(北海道大学農学研究院)、平野 高司(北海道大学大学院農学研究院)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、平田 竜一(独立行政法人国立環境研究所)、座長:平野 高司(北海道大学大学院農学研究院)

09:15 〜 09:30

[ACG30-02] 大気汚染物の硫酸によるナラの衰退と木炭による再生

*大森 禎子1 (1.元東邦大学)

キーワード:大気汚染, 酸性土壌, ナラ枯れ, タンニン, 金属リン酸塩

化石燃料の燃焼により排出される硫酸は風で移動し、樹木に付着して蓄積し、雨で根元に落とされて土壌が酸性化する。土壌が酸性化すると金属成分は溶解性の金属硫酸化合物になる。水に溶解した金属イオンは水と樹木に吸収される。金属イオンは木の中のリン酸と化合して不溶性の金属リン酸化合物になり(リン酸アルミニウムの溶解度10-9、リン酸鉄溶解度10-10)リン酸不足と同じ現象になり衰退する1)2)3)。その結果、光合成により二酸化炭素を糖に変えるエネルギー源になるアデノシン三リン酸の生成量や松脂の浸出量が減少する。ナラ等に含まれるタンニンはタンパク質と化合して、人間では渋みとなり、防虫効果があるが、金属イオンと化合するとタンパク質と化合できなくなり、防虫効果を失う。その結果、虫は樹木に進入し易くなり大発生して立ち枯れの原因になる。
木炭は樹木の生長のための必須元素のカリウムやその他のアルカリ金属を含み、雨水をアルカリ溶液にする。アルカリ溶液は土壌から溶出した金属イオンと化合して金属水酸化物になる。樹木は金属水酸化物を吸収できないため、リン酸は保護され衰退を免れる。木炭に含まれるその他の元素は生長に必要で吸収した、理想的な割合で含まれる栄養源になる。石灰でも酸性土壌は中和できるが、カルシウム以外の、樹木が必要な元素を含まない。
佐渡島の梢枯れをしたナラの木は*、命をつなぐために根元近くの幹から胴吹きの芽を何本も出していた。1m当たり約1kgの炭を2年続けて撒布した結果、3年目に種子を落とし、幸い佐渡島にはドングリを主食とする動物が少ないために4年目には発芽して、根元の土壌を緑の葉が覆っていた。胴吹きの芽は、梢の回復に従って皆枯れた。樹木の衰退や立ち枯れの原因は土壌の酸性化であることが確認できた。
* 佐渡市小佐渡浜河内・紅葉公園、佐渡市金井町新保乙・ゆずろ公園
謝辞
本研究は元関東森林管理局宮下正次氏のご協力と、佐渡市西津福浦の後藤茂氏から毎年木炭の提供をうけました。心から感謝申し上げます。
参考文献
1)大森禎子(2010)硫黄酸化物と樹木の立ち枯れの関係、河川文化を語る会講演集(その30)p.85-163日本河川協会発行.
2)大森禎子・岩崎真理(2010)大気汚染による樹木の立ち枯れのメカニズムー炭による立ち枯れ予防とCO2削減, 木質炭化学会誌7,p.3-11
3)大森禎子(2013)大気汚染物の硫酸と樹木の立ち枯れの関係―木炭による立ち枯れ防止―日本奥山学会誌,1,p.3-18.