日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 変動帯の構造・進化とダイナミクス

2015年5月27日(水) 14:15 〜 16:00 A06 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、佐藤 比呂志(東京大学地震研究所地震予知研究センター)、尾鼻 浩一郎(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、加藤 愛太郎(名古屋大学大学院環境学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、佐藤 活志(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、小平 秀一(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、石山 達也(東京大学地震研究所)、松原 誠(防災科学技術研究所)、池田 安隆(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:蔵下 英司(東京大学地震研究所)

15:36 〜 15:39

[SCG57-P05] 下部地殻剪断帯の初期過程:ノルウェーHasvik斑れい岩体を例として

*木村 皐史1奥平 敬元2 (1.大阪市立大学 理学部 地球学科、2.大阪市立大学大学院 理学研究科)

キーワード:斑れい岩, 下部地殻, 脆性破壊, 粒径減少, 粒径依存型クリープ

地殻は全体として平均的に変形しているのではなく,局所的に歪み速度の速い領域(剪断帯)で主に変形している.よって剪断帯の形成・発達過程は,地殻の変形にとって重要である.Scholzの断層強度モデルで示されるような構造は,成熟した断層(剪断帯)に対して成立するものであり,形成初期の剪断帯では,その変形機構が大きく異なる可能性が高く,強度モデルも異なるはずである.
斑れい岩類は下部地殻の主要構成岩であり,それらは主に斜長石と輝石からなっている.下部地殻のレオロジーはこれまで,斜長石の粒径非依存型(転位)クリープによりモデル化されてきた.しかし,これまでの変形実験の結果によれば,粒径が十分小さければ,下部地殻条件では粒径依存型(拡散・粒界すべり)クリープが卓越する可能性が高い.本研究では,下部地殻剪断帯の初期過程を明らかにする目的で,北部ノルウェー,Seiland火成岩区におけるHasvik斑れい岩体(e.g. Tegner et al. 1999)に発達する小規模剪断帯の解析を行った.
Hasvik斑れい岩体には,数ミリ∼数センチ程度の剪断帯がネットワーク上に発達しており,これら剪断帯は細粒の斜長石や角閃石,輝石により構成されている.火成作用起源の斜長石や輝石に破砕帯が観察されるのに対して,細粒鉱物は等粒状であり,顕著な結晶内塑性組織を示さない.角閃石は火成作用起源の輝石と斜長石の境界や破砕帯内部および周縁において観察される.破砕帯を構成している細粒の斜長石と斜方・単斜輝石は,火成作用起源のものとは化学組成が異なる.これは,破砕作用後導入された流体による加水反応による変成再結晶の結果であると考えられる.斜長石-角閃石温度計・圧力計(Holland and Blundy, 1994; Bhadra and Bhattacharya, 2007)を用いた結果,750-800 ℃,0.8±0.2 GPaの温度圧力条件が見積もられ,これは加水作用期における温度圧力条件を示していると考えられる.破砕作用は加水作用に先行するため,これは破砕作用の温度圧力条件の下限を示している.よって,Hasvik斑れい岩体における剪断帯は下部地殻条件における破砕作用を示しており,下部地殻岩石の強度が高かったことを示唆する.細粒斜長石と輝石の格子定向配列はランダムであり(Okudaira et al., submitted),これらが粒径依存型クリープで変形したことを示す.以上の観察結果から,Hasvik斑れい岩体における剪断帯は,破砕作用とその後の加水作用,加水作用期における鉱物の溶解沈殿を伴う粒径依存型クリープによる変形によって形成されたと結論される.