日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC24] 人間環境と災害リスク

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 101B (1F)

コンビーナ:*青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、鈴木 康弘(名古屋大学)、小荒井 衛(国土交通大学校測量部)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、宇根 寛(国土地理院)、中村 洋一(宇都宮大学教育学部地学教室)、松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、原 慶太郎(東京情報大学総合情報学部)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

17:39 〜 17:42

[HSC24-P04] 九州南部のシラス分布域における開析谷と崩壊地形の特徴

ポスター講演3分口頭発表枠

*五十嵐 隆亮1須貝 俊彦1井村 隆介2西澤 文勝3 (1.東京大学 大学院新領域創成科学研究科、2.鹿児島大学 大学院理工学研究科、3.首都大学東京 大学院都市環境科学研究科)

キーワード:シラス, 開析谷, 斜面崩壊, 履歴, 地形発達, 九州南部

九州南部は“シラス”と呼ばれる火砕流堆積物に覆われており, 斜面崩壊による土砂災害が降雨時や台風季節の間に繰り返し発生している.とくに九州南部に位置する鹿児島県のシラス堆積物が分布する崖は, 数十年という極めて短い周期で崩壊を繰り返すことが報告されている(塚本, 1993). シラス堆積物のなかでも入戸火砕流堆積物は, 約29,000 年前(町田・新井, 2003)に, 姶良カルデラを給源として, 約90km離れた地域まで広がった巨大火砕流の堆積物である(横山,2000).
本研究では,シラス分布域における斜面崩壊と侵食地形の長期的発達過程の関係について検討した. とくに, 崩壊の繰り返しに伴って生じたシラス台地を縁取る急崖や崖下部に着目した. シュミットハンマーによる堆積物の強度測定, および,変水位法による透水実験を行った. 対象は, シラス台地の内部まで伸長した現開析谷ぞいの谷壁斜面や東シナ海に面している急崖斜面(海食崖), 流水で運搬され再堆積した二次シラスが認められる露頭とした. その結果, シラスの岩盤強度は比較的均一で, 非固結礫岩や非固結砂岩に匹敵する弱さであった. 透水性は極めて高く(0.02-0.05 mm/s 程度),開析谷の密度が小さいことと整合的であることが確認された. これは,シラスの堆積面が台地化して間もなく台地上に発生した表成谷群が, 開析谷として成長する初期段階で集水面積の争奪が生じる結果,成長を停止する表成谷が生じやすいことを示唆する. 化石化している浅い谷である旧開析谷(横山,2003)は,こうしたプロセスで発生したと推定される. 生き残った開析谷は深く, また低密度になる. 崩壊地は急斜面に分布しやすく, その斜面型は主に等斉直線斜面である(五十嵐ほか, 2014:第7回土砂災害に関するシンポジウム論文集). シラス分布域における開析谷の発生・発達過程は, 降雨により一時的に上昇した地下水位の影響を受けて,谷壁斜面の崩壊が発生することが寄与していることが示唆される. さらに, この等斉直線型の斜面が平行後退し, 細粒・低密度な崩壊物質は河川によって容易に除去されてきたと考えられる. このため, 谷壁斜面の傾斜が急な状態で, 斜面が後退することによって, 谷幅が広がり続けてきたと考えられる. 長期的には, 現開析谷の谷幅拡大プロセスが卓越する場所において崩壊ポテンシャルが高いといえる.