日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 東アジア‐北西太平洋域高解像度古気候観測網

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 202 (2F)

コンビーナ:*多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、山本 正伸(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、座長:長島 佳菜(海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター)

12:30 〜 12:45

[MIS28-23] TEX86は何を示しているのか:海洋水柱懸濁粒子中のインタクトGDGT研究から言えること

*山本 正伸1大平 深史1山下 洋平1 (1.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

キーワード:TEX86, GDGT, 懸濁粒子, プロキシ

海洋堆積物にはアーキアに由来するグリセロール・ジアルキル・グリセロール・テトラエーテル(GDGTs)が含まれている.このGDGTの環状構造の数は低緯度海域試料で多く,高緯度試料では少ない.この関係を利用して,海水温度指標としてTEX86が提案された(Schouten et al., 2002).しかし,アーキアは表層水だけでなく,中深層水中にも生育している.もし,中深層水で生産されたGDGTの寄与が大きければ,堆積物中のGDGTは中深層水の温度を反映し,緯度方向に違いが生じないはずである.この疑問に対しては,海洋表層で生産されたGDGTは捕食や凝集などの作用により大きな粒子を形成しやすく,優先的に沈降するが,中深層で生産されたGDGTは沈降しにくいという仮説が提案された(Wuchter et al., 2005).しかし,表層水のGDGTが大きな粒子をどのように形成するのか,また本当に表層水のGDGTが優先的に沈降しているのか明確ではない.
 本研究では,海洋水柱の懸濁粒子についてアーキア細胞サイズ(0.2-1.0 μm)とアーキア細胞よりも大きい粒子(1.0 μm)に分けて,それぞれについて易分解性のインタクトGDGTとその分解生成物であるコアGDGTの濃度と組成を調べることにより,GDGT組成と水深,海域の対応関係を明らかにし,GDGTの生産水深,アーキアの生活形,沈降可能なGDGTの分布状況を検討した.
 インタクトGDGTとして, monohexose(MH)型,dihexexose(DH)型,hexose, phosphohexose(HPH)型の3種類の極性頭部を持つものが検出された.このインタクトGDGTは真光層上部で少なく,弱光層上部で濃度極大を示し,それ以深では減少する.真光層ではMH型が卓越するが,弱光層以深ではDH型,HPH型も多い.どの水深においてもインタクトGDGTは0.2-1.0 μmサイズと>1.0 μmサイズの両方に含まれている.真光層や弱光層上部においては >1.0 μmサイズにインタクトGDGTが多く含まれており,付着生活系アーキアによるGDGT生産が示唆された.大きな粒子に付着して生活するアーキアのGDGTは沈降には有利であろう.真光層から弱光層上部にむかい,GDGTのTEX86は上昇し,水温が徐々に低下する傾向とは逆である.弱光層には真光層とは異なるアーキアが生息しており,そのアーキアが作るGDGTのTEX86の水温に対する応答は有光層のものとは異なることが示唆される.GDGT生体膜の流動性はコア脂質の環状構造の数だけではなく極性頭部の種類の違いにも規制されているようにみえる.
 本研究により明らかにされたインタクトGDGTの粒度分布から,真光層だけでなく弱光層で生産されたGDGTも沈降可能であり,沈降粒子や堆積物のGDGTのTEX86は真光層の低めの値と弱光層の高めの値の両方を反映している可能性が高い.低緯度では,1)水温が高いことと,2)中深層で生産されたGDGTの割合が多いことのふたつの原因により,堆積物中TEX86は高い値をとると考えられる.