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[SVC46-12] 降下火砕堆積物の分布から供給源を推定する逆解析手法の確立:鉛直拡散と噴煙形状の影響
キーワード:噴煙, 降下火砕堆積物, 移流拡散モデル, 逆解析
降下火砕堆積物からその供給源の情報を得ることは,過去の爆発的噴火の噴煙ダイナミックスの再現や,それに基づく噴火時の降灰予測などのため,火山学上重要な意義がある.本研究は,火山灰の移流拡散モデルに基づいて,降下火砕堆積物から噴煙における火砕物供給源の性質(高さ,供給量,火砕物粒径)を正しく求める逆解析手法を確立することを目的とする.
移流拡散モデルを用いて降下火砕堆積物から供給源のパラメータを推定する逆解析については,これまでにKlawonn et al., (2012)や,Mannen (2014)などの研究例が報告されている.これらの逆解析では,鉛直方向の粒子の拡散を無視したり,風による噴煙の湾曲を無視するという仮定がなされている.本研究では,火口上の一点から放出された単一粒径からなる複数の粒子が一様風速の大気中で移流・拡散する様子と、その地表における堆積量分布を見積もることによって,これらの仮定の妥当性について検討した.
一様風速の大気中で火口上の一点から放出された単一粒径の粒子は,拡散によって時間とともに拡大する「粒子群」を形成する.粒子群の中心は風速の大きさで水平方向へ移動し,粒子の終端速度の大きさで降下する.鉛直方向の粒子の拡散を無視した場合,粒子群は水平円盤状に拡大し,地表において堆積量が二次元正規分布となる.一方,鉛直方向に粒子が拡散する場合,粒子群は楕球状の形態を持つ.鉛直方向へ厚みを持った粒子群では,底部の粒子と頂部の粒子の堆積に時間差が生じる.また,粒子群の底部の粒子が着地した後も,頂部の粒子が着地するまで粒子群は風によって水平方向に移動し続ける.その結果,堆積量分布は,二次元正規分布から,(1)分布のピークの先鋭化,(2)ピーク位置の非対称化,(3)風と平行方向への分布の伸びの3通りのズレが生じる.これらのズレのうち,(1)と(2)は,粒子群が堆積しつつさらに鉛直に拡散し続けることに起因し,(Dz/vtz)1/2≥0.2の場合に顕著になる.ここでDzは鉛直拡散係数,vtは終端速度,zは給源高度である.また,(3)のズレは,厚さを持った粒子群が堆積しつつ風に流されることに起因し,風速をW,水平拡散係数をDhとした時,Dz1/2Dh-1/2Wvt-1≥3の場合に顕著になる.
一般に,風の影響下において,噴煙は風下に向かって湾曲する.噴煙の湾曲量が堆積物分布に与える影響について,噴煙の湾曲量と降下中の粒子の移流量を比較することによって評価した.次元解析および風の影響を考慮した噴煙モデル(例えば,BENTモデル;Bursik 2001)によると,風速Wの下で湾曲した,浮力を原動力とする弱い噴煙の高度zと湾曲量xの関係は,z=CB1/3W-1x2/3という近似式で表すことができる(Wright 1971).ここでCは定数,Bは有効浮力フラックス(Sparks et al., 1997)である.一方,降下中の粒子の移流量bは給源高度zとその粒子の終端速度vt,風速Wからb=zW/vtと計算される.噴煙の湾曲量xの値が粒子の移流量bの値に比べて十分小さい場合(x/b-1のオーダーの定数),噴煙の湾曲による影響は無視できる.しかし,xがbと比べて大きい場合(x/b>n),湾曲の影響は無視できない.この場合,噴煙の湾曲量の近似式と移流量の式の比較から,C-3B-1zWvt2≥n2となることがわかる.
以上の結果は,大きな風速に加え,細かい粒子が低い高度から放出されたときに鉛直拡散の影響(二次元正規分布からのズレ)が大きく,逆に粗い粒子が高い高度から放出された場合に噴煙形状の影響(堆積距離のズレ)が大きくなることを示す.上で導いた鉛直拡散と噴煙形状の影響評価の関係式より,いずれの影響も少ない粒子の終端速度は限られた範囲にあることがわかり,その範囲はWz(DzDh)-1/2<75の時にDz/0.04z≤vt≤nC3/2B1/2z-1/2W-1/2であり,Wz(DzDh)-1/2>75の時にはWDz1/2/3Dh1/2≤vt≤nC3/2B1/2z-1/2W-1/2である.こうした粒径と堆積物分布の特性は,火砕堆積物分布から噴煙の高さ等を求める逆解析において注意されなければならない.
移流拡散モデルを用いて降下火砕堆積物から供給源のパラメータを推定する逆解析については,これまでにKlawonn et al., (2012)や,Mannen (2014)などの研究例が報告されている.これらの逆解析では,鉛直方向の粒子の拡散を無視したり,風による噴煙の湾曲を無視するという仮定がなされている.本研究では,火口上の一点から放出された単一粒径からなる複数の粒子が一様風速の大気中で移流・拡散する様子と、その地表における堆積量分布を見積もることによって,これらの仮定の妥当性について検討した.
一様風速の大気中で火口上の一点から放出された単一粒径の粒子は,拡散によって時間とともに拡大する「粒子群」を形成する.粒子群の中心は風速の大きさで水平方向へ移動し,粒子の終端速度の大きさで降下する.鉛直方向の粒子の拡散を無視した場合,粒子群は水平円盤状に拡大し,地表において堆積量が二次元正規分布となる.一方,鉛直方向に粒子が拡散する場合,粒子群は楕球状の形態を持つ.鉛直方向へ厚みを持った粒子群では,底部の粒子と頂部の粒子の堆積に時間差が生じる.また,粒子群の底部の粒子が着地した後も,頂部の粒子が着地するまで粒子群は風によって水平方向に移動し続ける.その結果,堆積量分布は,二次元正規分布から,(1)分布のピークの先鋭化,(2)ピーク位置の非対称化,(3)風と平行方向への分布の伸びの3通りのズレが生じる.これらのズレのうち,(1)と(2)は,粒子群が堆積しつつさらに鉛直に拡散し続けることに起因し,(Dz/vtz)1/2≥0.2の場合に顕著になる.ここでDzは鉛直拡散係数,vtは終端速度,zは給源高度である.また,(3)のズレは,厚さを持った粒子群が堆積しつつ風に流されることに起因し,風速をW,水平拡散係数をDhとした時,Dz1/2Dh-1/2Wvt-1≥3の場合に顕著になる.
一般に,風の影響下において,噴煙は風下に向かって湾曲する.噴煙の湾曲量が堆積物分布に与える影響について,噴煙の湾曲量と降下中の粒子の移流量を比較することによって評価した.次元解析および風の影響を考慮した噴煙モデル(例えば,BENTモデル;Bursik 2001)によると,風速Wの下で湾曲した,浮力を原動力とする弱い噴煙の高度zと湾曲量xの関係は,z=CB1/3W-1x2/3という近似式で表すことができる(Wright 1971).ここでCは定数,Bは有効浮力フラックス(Sparks et al., 1997)である.一方,降下中の粒子の移流量bは給源高度zとその粒子の終端速度vt,風速Wからb=zW/vtと計算される.噴煙の湾曲量xの値が粒子の移流量bの値に比べて十分小さい場合(x/b
以上の結果は,大きな風速に加え,細かい粒子が低い高度から放出されたときに鉛直拡散の影響(二次元正規分布からのズレ)が大きく,逆に粗い粒子が高い高度から放出された場合に噴煙形状の影響(堆積距離のズレ)が大きくなることを示す.上で導いた鉛直拡散と噴煙形状の影響評価の関係式より,いずれの影響も少ない粒子の終端速度は限られた範囲にあることがわかり,その範囲はWz(DzDh)-1/2<75の時にDz/0.04z≤vt≤nC3/2B1/2z-1/2W-1/2であり,Wz(DzDh)-1/2>75の時にはWDz1/2/3Dh1/2≤vt≤nC3/2B1/2z-1/2W-1/2である.こうした粒径と堆積物分布の特性は,火砕堆積物分布から噴煙の高さ等を求める逆解析において注意されなければならない.