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[SVC46-09] 噴煙や溶岩中への大気取り込みの指標としての磁硫鉄鉱の酸化反応
キーワード:酸化, 大気の取り込み, 磁硫鉄鉱, {i}f{/i}O_{2}, 桜島
火山噴火の地表現象のダイナミクスには,噴煙や火砕流への大気の取り込みで生じる浮力やマグマの冷却が重要な役割を果たしている.我々は,噴霧流や高浸透性マグマへの大気の混合過程を実際の噴出物から定量化する手法を開発している.噴火に際して,マグマは地下の還元的環境から地表の高酸化(高fO2)環境へと急激に上昇し,その過程でマグマに含まれる硫化鉱物は酸化する.その反応は高温(マグマの温度)下で数十秒から数十時間という,噴火の継続時間に対応した時間スケールで進行するため,噴火ダイナミクスを反映している可能性がある.Matsumoto and Nakamura (2012)は,桜島大正噴火のプリニー式噴火降下軽石中に,磁硫鉄鉱(Po)から磁鉄鉱(Mt)への酸化途中の組織を見出し記載した.噴火様式が異なれば,火道浅部~地表でのマグマと大気との混合や冷却の過程にも違いが生じると予想されるため,本研究ではさらに大正噴火の火砕成溶岩(安井ほか,2007)と溢流溶岩中での反応進行度を調べ,酸化反応時間の見積りを行った.
Poにしばしば見られる酸化組織は反射顕微鏡観察とラマン分光分析からMtとHm(赤鉄鉱)と同定した.Poとその酸化組織について,反応進行度を定量化するため,各粒子に占める鉱物相の面積割合を各噴出物あたり約30粒子測定した.軽石では,一粒子中にPoとMtあるいはPo・Mt・Hm三相が存在するのが特徴で,火砕成溶岩ではPoがほとんど残存せず完全にHm化している粒子が大多数であり,溢流溶岩ではPoのみ,Po・Mt,Mt・Hm,Hmのみといった複数の段階の粒子が存在するものの,軽石のように三相同時には存在しなかった.また,Mt・Hm中のTiのEPMAによるX線元素マッピングを行ったところ,軽石と火砕成溶岩試料ではMt・HmともにTiを含有しなかったが,溢流溶岩ではMtにTiの拡散が認められた.
このような,噴火様式によるPo粒子の酸化組織の相違は,「高温・高酸化維持時間」に対する「到達fO2」で整理できる.「到達fO2」は(A)噴火開始前のマグマ (B)PoとMtの平衡 (C)MtとHmの平衡 (D)大気fO2の目盛を与えられる.これらのfO2は,桜島大正噴火の温度範囲950~1050℃において(A)10-7.5~10-9.0 bar(B)10-6.9~10-8.3 bar(C)10-4.7~10-6.2 bar(Matsumoto and Nakamura, 2012; Huebner and Sato, 1970; Eugster and Wones, 1962)(D)10-0.7 bar(地表の酸素分圧)と求められる.一方,「高温・高酸化維持時間」には,(i)PoからMtへの酸化反応時間 (ii)MtからHmへの酸化反応時間 (iii)Mt中のTiの拡散時間 をもとに見積った目盛を与えられる.すると,プリニー式噴火軽石の到達fO2は,酸化組織が無い約半数の粒子では(B)以下,残り約半数はHmが存在したため(C)を超え,まれに存在するHmの無い粒子は(B)と(C)の間となる.酸化反応途中の粒子は多いものの,Hm化が完了した粒子は存在せずMtにTiの拡散も見られなかったことから,軽石の急冷までの時間は3.5時間未満と見積られる(iii).軽石は,マグマ破砕後に火道および噴煙中で様々な程度に大気と接触しつつ冷却すると考えられるので,その程度に応じて個々の粒子の反応度がばらついたと解釈できる.火砕成溶岩中の粒子はほとんどがHm化を完了していたため,到達fO2は(C)以上で,急冷または系の閉鎖により反応が停止するまでに6.3~22時間経過したと解釈できる(ii).火砕成溶岩は,軽石同様に一旦は破砕を経験して効率的に大気fO2環境にさらされた上に,その後噴出物が再溶結したために軽石よりも高温・高酸化状態が長く持続し,酸化反応が十分に進行したと解釈できる.溢流溶岩では,約半数の粒子が(B)以下で残りは(B)~(D)で分散していた.酸化時間は(iii)から3.6~33時間と推定される.溢流溶岩のfO2のばらつきは,開放系脱ガス時の局所的な破砕と溶結や,大気と接触したマグマ表面の内部への巻き込みなどを反映している可能性がある.
以上の結果は,Poの酸化反応が,想定される一連の噴火様式とよく対応づけられ,また斑晶の破砕度や溶結組織などから独立に判定された火砕成溶岩と溢流溶岩の分類とも調和的であることを示す.よって,Poの酸化反応の程度は,噴火時の噴煙や溶岩への大気の取り込みの指標になる可能性がある.
Poにしばしば見られる酸化組織は反射顕微鏡観察とラマン分光分析からMtとHm(赤鉄鉱)と同定した.Poとその酸化組織について,反応進行度を定量化するため,各粒子に占める鉱物相の面積割合を各噴出物あたり約30粒子測定した.軽石では,一粒子中にPoとMtあるいはPo・Mt・Hm三相が存在するのが特徴で,火砕成溶岩ではPoがほとんど残存せず完全にHm化している粒子が大多数であり,溢流溶岩ではPoのみ,Po・Mt,Mt・Hm,Hmのみといった複数の段階の粒子が存在するものの,軽石のように三相同時には存在しなかった.また,Mt・Hm中のTiのEPMAによるX線元素マッピングを行ったところ,軽石と火砕成溶岩試料ではMt・HmともにTiを含有しなかったが,溢流溶岩ではMtにTiの拡散が認められた.
このような,噴火様式によるPo粒子の酸化組織の相違は,「高温・高酸化維持時間」に対する「到達fO2」で整理できる.「到達fO2」は(A)噴火開始前のマグマ (B)PoとMtの平衡 (C)MtとHmの平衡 (D)大気fO2の目盛を与えられる.これらのfO2は,桜島大正噴火の温度範囲950~1050℃において(A)10-7.5~10-9.0 bar(B)10-6.9~10-8.3 bar(C)10-4.7~10-6.2 bar(Matsumoto and Nakamura, 2012; Huebner and Sato, 1970; Eugster and Wones, 1962)(D)10-0.7 bar(地表の酸素分圧)と求められる.一方,「高温・高酸化維持時間」には,(i)PoからMtへの酸化反応時間 (ii)MtからHmへの酸化反応時間 (iii)Mt中のTiの拡散時間 をもとに見積った目盛を与えられる.すると,プリニー式噴火軽石の到達fO2は,酸化組織が無い約半数の粒子では(B)以下,残り約半数はHmが存在したため(C)を超え,まれに存在するHmの無い粒子は(B)と(C)の間となる.酸化反応途中の粒子は多いものの,Hm化が完了した粒子は存在せずMtにTiの拡散も見られなかったことから,軽石の急冷までの時間は3.5時間未満と見積られる(iii).軽石は,マグマ破砕後に火道および噴煙中で様々な程度に大気と接触しつつ冷却すると考えられるので,その程度に応じて個々の粒子の反応度がばらついたと解釈できる.火砕成溶岩中の粒子はほとんどがHm化を完了していたため,到達fO2は(C)以上で,急冷または系の閉鎖により反応が停止するまでに6.3~22時間経過したと解釈できる(ii).火砕成溶岩は,軽石同様に一旦は破砕を経験して効率的に大気fO2環境にさらされた上に,その後噴出物が再溶結したために軽石よりも高温・高酸化状態が長く持続し,酸化反応が十分に進行したと解釈できる.溢流溶岩では,約半数の粒子が(B)以下で残りは(B)~(D)で分散していた.酸化時間は(iii)から3.6~33時間と推定される.溢流溶岩のfO2のばらつきは,開放系脱ガス時の局所的な破砕と溶結や,大気と接触したマグマ表面の内部への巻き込みなどを反映している可能性がある.
以上の結果は,Poの酸化反応が,想定される一連の噴火様式とよく対応づけられ,また斑晶の破砕度や溶結組織などから独立に判定された火砕成溶岩と溢流溶岩の分類とも調和的であることを示す.よって,Poの酸化反応の程度は,噴火時の噴煙や溶岩への大気の取り込みの指標になる可能性がある.