日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 同位体水文学2015

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 301A (3F)

コンビーナ:*安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、高橋 正明(産業技術総合研究所)、鈴木 裕一(立正大学地球環境科学部)、風間 ふたば(山梨大学大学院医学工学総合研究部工学学域社会工学システム系)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、座長:浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)

12:33 〜 12:36

[AHW24-P06] 断層に沿って上昇する深部流体の可視化

ポスター講演3分口頭発表枠

*西山 成哲1田中 和広1鈴木 浩一2 (1.山口大学大学院理工学研究科、2.電力中央研究所)

キーワード:深部流体, CSAMT法, 徳佐-地福断層

1.はじめに
深部流体は一般に高塩濃度でガスを含むことが多く,反応性に富み(産業技術総合研究所,2012),地下深部から地表まで上昇してくることが考えられる.このことから深部地下水環境に大きな影響を与えると考えられる.
山口県北東部から島根県南西部にかけての内陸部の地域において,地化学分析の結果からスラブ起源の深部流体の混入が指摘されている(村上・田中,2009).これらは自然湧出がほとんどだが,山口県の徳佐盆地で報告されている流体はボーリング孔から自噴している箇所のみである.このような深部流体はボーリング調査をしなければ確認することができず,地表踏査ではその存在が確認できない可能性がある.また,地下で深部流体がどのように分布し,流動しているかは不明である.
そこで,本研究では徳佐盆地において電磁探査法(CSAMT法:Controlled Source Audio-frequency Magneto-Telluric method)を用い,地下に潜在している深部流体の分布の可視化を試みた.

2.調査地域の概要
徳佐盆地の基盤岩は白亜紀後期の溶結凝灰岩と流紋岩質溶岩からなる阿武層群が分布している.盆地内では第四紀の堆積物が基盤岩を覆っており,その層厚は重力探査等の結果から最大で200mであると考えられている(竹村ほか,1991).ボーリング孔から自噴する流体の湧出箇所は全部で3ヶ所あり,NE-SW走向に推定されている徳佐-地福断層(佐川ほか,2008)に沿って分布する.

3.調査結果
ボーリング湧水:ボーリング掘削による3ヶ所の湧水の電気伝導度はそれぞれ211 mS/m,426 mS/m,1,310 mS/mを示し,一般的な地下水に比べ非常に高い値である.水質はNaCl型もしくはNaHCO3型を示し,内陸部にも関わらず高塩濃度である.
浅層地下水:浅層地下水の電気伝導度は5.80~22.8mS/mであった.浅層地下水の水質はほとんどがCaSO4型を示すが,断層の北側に分布する浅層地下水はNa+とCl-の含有量が南側地域と比較して,やや高い傾向を示す.また,地下水位の測定結果から浅層地下水は南東方向から断層を横切り北西方向の河川へと流動していることが明らかとなった.
比抵抗構造:図-1Bに図-1A中の断面線X-X’の比抵抗断面図を示す.室内で測定した基盤岩および堆積物の淡水・塩水条件下での比抵抗値と実測値を比較すると,図中のH1は1,000Ωm以上の高比抵抗帯であり,基盤岩の分布をとらえたと考えられる.またL1は100Ωm以下,L2は30Ωm以下の低比抵抗帯である.このような低比抵抗帯には深部流体が混入している可能性が考えられる.

4.考察
比抵抗断面で低比抵抗帯が分布するL1は,地表部で高塩濃度の湧水が確認されており,かつ徳佐-地福断層が分布すると推測されている.このことから,低比抵抗帯L1は断層に沿って上昇する深部流体をとらえたものと考えられる.低比抵抗帯L2は断層の北側にあたり,NaCl型の浅層地下水が分布していることから,断層沿いに上昇してきた深部流体が堆積物中に浸透していると考えられる.すなわち,徳佐地福断層を利用して上昇してきた深部流体(L1)は堆積物中に分布する浅層地下水へ混合するが,その流動は徳佐盆地の南から北へ流れる浅層地下水系に規制されている(L2).徳佐-地福断層を横切る複数の比抵抗分布も,図-1Bと同様の傾向を示す.このことから,ボーリング湧水が確認される場所に限らず,徳佐盆地の地下では断層に沿って少なくとも1.5kmの範囲に深部流体が存在すると考えられる.
このように被覆層が分布する場所において,ボーリング孔からの流体の湧出が確認された場合,その地下では断層などの断裂系に沿った広がりを持って分布している可能性を考慮して評価する必要がある.