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[SVC47-09] 水蒸気噴火で発生する低温火砕流 ‐焼岳大正池噴火(1915)とその類例‐
キーワード:焼岳, 水蒸気噴火, 大正池, 低温火砕流, 火砕物重力流, 1915
水蒸気噴火に伴って発生する低温な火砕流は,それほど珍しい噴火現象ではない.19世紀末以降の我が国においても,磐梯山1888年噴火,安達太良山1990年噴火,十勝岳大正泥流噴火(1926年),焼岳大正池噴火(1915年),御嶽山2014噴火と少なからずの噴火が知られている.そのうち,焼岳大正池噴火の推移を記録や新たに発見した古写真などから復元を行う.
焼岳大正池噴火は,焼岳火山の1907-39年にかけての一連の水蒸気噴火の活動中盤ごろに発生した噴火である.1907-39年の噴火は,山頂部の複数の火口から度々水蒸気噴火を発生したが,大正池噴火は新たに山腹に割れ目火口を開裂して発生した噴火である.噴火は,1915年6月6日の7時35分頃発生した.噴火前,30分くらい地震動が上高地で感じられた.その後7時33分頃に上高地,白骨で特別強い振動を感じ,7時35分頃噴火が発生した.噴火は,南東側山腹に新たに開裂した長さ1㎞ばかりの割れ目火口から噴煙が横殴りに噴出し,その後上方へ上昇した.横殴りの噴煙が通過した範囲は,樹木の幹枝が折れた激しい損木域となっており,横殴りの火砕サージが発生したのは明らかである.ただし,写真や文字記録から樹木の燃えた痕や炭化は認められないため,比較的低温の火砕サージ(低温火砕流)であると判断される.この火砕サージは,火口から1㎞ほど走り下り,山麓の梓川まで達した.噴火は、30~40分間続いて段々弱くなり1時間続いた.火砕サージの発生とほぼ同時に,火口からラハールが発生し山腹の各沢を流れ下った.噴火時には降雨などが認められないことから,このラハールは火口からあふれ出た熱水などを起源とするラハールと考えられる.このラハールうち,中堀沢,下堀沢を流れ下ったラハールは,梓川沿いに1㎞ほどの長さでせき止め,その上流1.9㎞ほどの長さに達する堰止湖を形成した.ラハールの一部は梓川を流れくだり,島々(約30km下流)に9時半に達した.約29km下流の梓川用水の堰堤には粉砕された大小(大:径1尺5~6寸,長さ9尺,小:屋根埃くらい)さまざまの樹木片が6日午前10時から午後にかけて多量に流れ着いた.上高地(五千尺ホテル)にて小豆大の火山礫(ラピリ)が降下.上高地に1寸(3cm)ほど降灰.細池尻に3~4寸(9~12cm)降灰したが,遠方への降灰はそれほど顕著でない.同様に低温の火砕流が発生した御嶽山2014年噴火も,テフラの分布は火砕流堆積物を含む火口近傍で厚く,遠方の降下テフラが薄い(少ない)といった傾向が認められる.そのため,火口付近で特異的に厚く分布する水蒸気噴火堆積物は,その噴火の際,低温火砕流が発生した可能性がある.
19世紀末以降に低温火砕流が発生した水蒸気噴火は,噴火の初期にそれが発生している.また,山体崩壊を伴うものとそうでないものに大別される.山体崩壊を伴わないものは,新たな火口形成を伴う爆発的な噴火に伴って発生している.これらの傾向から,低温火砕流の発生は,新たな火口形成に伴い多量の低温の岩片が含まれることで浮力を獲得できない噴煙が重力に引きずられて流れ下ったモデルが想起される.
焼岳大正池噴火は,焼岳火山の1907-39年にかけての一連の水蒸気噴火の活動中盤ごろに発生した噴火である.1907-39年の噴火は,山頂部の複数の火口から度々水蒸気噴火を発生したが,大正池噴火は新たに山腹に割れ目火口を開裂して発生した噴火である.噴火は,1915年6月6日の7時35分頃発生した.噴火前,30分くらい地震動が上高地で感じられた.その後7時33分頃に上高地,白骨で特別強い振動を感じ,7時35分頃噴火が発生した.噴火は,南東側山腹に新たに開裂した長さ1㎞ばかりの割れ目火口から噴煙が横殴りに噴出し,その後上方へ上昇した.横殴りの噴煙が通過した範囲は,樹木の幹枝が折れた激しい損木域となっており,横殴りの火砕サージが発生したのは明らかである.ただし,写真や文字記録から樹木の燃えた痕や炭化は認められないため,比較的低温の火砕サージ(低温火砕流)であると判断される.この火砕サージは,火口から1㎞ほど走り下り,山麓の梓川まで達した.噴火は、30~40分間続いて段々弱くなり1時間続いた.火砕サージの発生とほぼ同時に,火口からラハールが発生し山腹の各沢を流れ下った.噴火時には降雨などが認められないことから,このラハールは火口からあふれ出た熱水などを起源とするラハールと考えられる.このラハールうち,中堀沢,下堀沢を流れ下ったラハールは,梓川沿いに1㎞ほどの長さでせき止め,その上流1.9㎞ほどの長さに達する堰止湖を形成した.ラハールの一部は梓川を流れくだり,島々(約30km下流)に9時半に達した.約29km下流の梓川用水の堰堤には粉砕された大小(大:径1尺5~6寸,長さ9尺,小:屋根埃くらい)さまざまの樹木片が6日午前10時から午後にかけて多量に流れ着いた.上高地(五千尺ホテル)にて小豆大の火山礫(ラピリ)が降下.上高地に1寸(3cm)ほど降灰.細池尻に3~4寸(9~12cm)降灰したが,遠方への降灰はそれほど顕著でない.同様に低温の火砕流が発生した御嶽山2014年噴火も,テフラの分布は火砕流堆積物を含む火口近傍で厚く,遠方の降下テフラが薄い(少ない)といった傾向が認められる.そのため,火口付近で特異的に厚く分布する水蒸気噴火堆積物は,その噴火の際,低温火砕流が発生した可能性がある.
19世紀末以降に低温火砕流が発生した水蒸気噴火は,噴火の初期にそれが発生している.また,山体崩壊を伴うものとそうでないものに大別される.山体崩壊を伴わないものは,新たな火口形成を伴う爆発的な噴火に伴って発生している.これらの傾向から,低温火砕流の発生は,新たな火口形成に伴い多量の低温の岩片が含まれることで浮力を獲得できない噴煙が重力に引きずられて流れ下ったモデルが想起される.