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[SSS29-P02] 炭質物のラマンスペクトルを用いた断層における摩擦発熱の検出
キーワード:炭質物, ラマンスペクトル, シュードタキライト, カタクレーサイト, チャート-砕屑岩シーケンス
炭質物のラマンスペクトルは、温度上昇に伴って炭質物の構造が変化することにより系統的に変化する。この炭質物の構造変化は圧力に依存せず不可逆的に進行するとされており、炭質物のラマンスペクトルを用いて堆積岩や変成岩が被った最高到達温度を見積もる試みがなされてきた。我々は炭質物のラマンスペクトルが断層における摩擦発熱のような短時間急速加熱の証拠検出に適用できるか探るべく、犬山地域に分布するジュラ紀付加体チャート-砕屑岩シーケンスのスラストシート境界断層を対象に炭質物のラマン分光分析を行った。この断層では、ジュラ系珪質泥岩の上位に三畳系チャートが衝上しており、断層中軸部には厚さ数ミリの暗色層と厚さ5センチのカタクレーサイトが発達する。このうち前者では、断層脈とそこから派生する注入脈、融食・湾入構造、非晶質マトリックス中に晶出した白雲母マイクロライトが認められることから、摩擦熔融物が固化して出来たシュードタキライトであると考えられる。一方、後者は炭素質の黒色粘土マトリックス中に黒色チャートの破砕岩片を含むことで特徴付けられる。炭質物のラマン分光分析は、シュードタキライトとカタクレーサイトを対象に励起光514.5 nmで行った。その結果、シュードタキライトとその近傍2 mmの母岩(チャート)においてD1とD2ラマンバンドの強度比(ID1/ID2)の減少とD1バンドの半値幅の減少が認められ、炭質物の熟成度の増加が検出された。一方、シュードタキライトから2 mm以上離れたチャート及びカタクレーサイトとその周囲ではID1/ID2・D1バンドの半値幅の変化は認められなかった。シュードタキライトとその近傍2 mmのチャートから見出された炭質物の熟成度増加は、摩擦発熱に伴う温度上昇を反映している可能性があり、熱モデリング結果とも調和的であった。以上のことから、炭質物のラマンスペクトルは断層における摩擦発熱の検出に有効であると考えられる。