日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT54] 合成開口レーダー

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 201A (2F)

コンビーナ:*山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、小林 知勝(国土交通省国土地理院)、宮城 洋介(防災科学技術研究所)、座長:宮城 洋介(防災科学技術研究所)、磯口 治(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)

16:45 〜 17:00

[STT54-03] 高山地帯を含む北海道の冬季のALOS2-PALSAR2干渉解析: 十勝岳周辺の場合

*村上 亮1 (1.北海道大学地震火山研究観測センター)

キーワード:地殻変動, 干渉SAR, リモートセンシング, 人工衛星, 火山, 積雪

衛星搭載のLバンド合成開口レーダーによるリピートパス干渉観測は,特に植生被覆領域において,良好な干渉性を保持するため,地殻変動など地表の変形を面的破格技術として広く定着している.しかし,積雪や雪氷に覆われる寒冷地では,地表が積雪に覆われている場合,電波の反射条件が時期によって異なる結果,干渉性が極度に低下することが,経験上知られている.
雪や雪氷対するマイクロ波の透過や反射の理論および実験的研究によれば,乾雪の誘電率は比較的大きく,数10cm程度の積雪があると,伝搬速度の変化や屈折による経路変化が起こり,マイクロ波の行路長が有意に変化する.また,反射や散乱のメカニズム毎に,位相変化に差が生じる可能性がある.しかしながら,従来は,積雪による位相変化の詳細や,それらが地殻変動観測に与える影響は,あまり注目されてこなかった.
2014年5月に宇宙研究開発機構(JAXA)によって打ち上げられたALOS2は,Lバンドの次世代センサーであるPALSAR2を搭載したSARの専用衛星である.従来機に比べ様々な改良が施され,広範な観測条件下において高い干渉性の保持が期待されている. PALSAR2によって,寒冷地の冬季観測が可能となれば,冬季のアクセス困難性によって現地観測の実現が絶望的な,寒冷地の火山周辺の地殻変動把握に新たな道を切り開く意義は大きい.
このような可能性を探り,一方,積雪特有のノイズの存在を探索するため,今回は,十勝岳-大雪山系を含む領域について,ALOS2-PALSAR2によって2014年8月14日,12月4日及び18日,並びに2015年1月15日に取得されたデータを用いて干渉解析を実施した.8月と12/18はVV観測で,残りは,HH観測である.なお,十勝岳の活動的火口の一つである62-II火口周辺では,2006年末頃開始し消長を繰り返しながら現在まで膨張性地殻変動が継続している.GPS観測によれば2014年中ごろからこの動きが加速したことが示唆されている.その確認のため,衛星による面的調査を実施することもこの解析の目的であった.
まず,観測期間の短い12月のペア(4日-18日)は,時間間隔も時事かかったためか,極めて良好な干渉が,ほぼ全域にわたって得られている.2回目の観測の直前に,この地域に多量の積雪があったことが記録されており,積雪期であっても,少なくとも期間が短ければ干渉性が保たれることが確認された.また,森林域では干渉度が比較的劣化しているが,森林限界を超えた高高度領域では,干渉性は良好であり,例えば,十勝岳62-II火口周辺では,高いSN比で位相差が得られている.また,平野部では広域にわたって良好な干渉性がみられるが,明らかに土地被覆と相関がある有意な位相差が観察された.この地域における土地区画は碁盤目状であり,各種の利用形態の土地が規則正しく区分けされ,分布している.明らかにこれらの境界を挟んで,位相も明瞭なパッチ上の分布をしている.その成因は今後の検討課題であるが,それぞれの領域で特徴的な反射形態(例えば市街地はダブルバウンスが卓越)ごとに,積雪の位相への影響の様子が異なるためであろう.地殻変動観測にとっては,これらはノイズとなるが,土地分類や積雪の研究には,新たなシグナルとして利用できる可能性もある.また,VV-HH偏波間の組み合わせである12/18-01/15間の干渉も試みた.意外なことに,一部の領域では,明瞭な干渉が得られており,十勝岳連峰の山頂部の連なりにもそれに含まれる.しかし,HH-HH間の干渉度分布とは明らかに違う性状であり,特に,通常良好な干渉が得られる市街地において,極度に干渉性が劣化している.これも,今後の興味深い検討課題である.最後に,地殻変動検出目的で,VVどうしの08/14-01/15の干渉も試みたが,平野部ではかろうじて干渉が成立したものの,全体的に干渉度は悪く,山頂部でもコヒーレンスは劣化していた.一方,08/14-12/04は,VV-HHであるが,予想に反して位相の認識が可能な程度の干渉が得られた.しかし,やはりS/Nは良好とはいえず,認識できる位相には限界があった.簡単なシミュレーションを行い,少なくとも,山頂付近において5㎝を超える程度の膨張性変動が存在したら,かなりの確率で認識できたであろうことが確認できた.一方,今回の実際の干渉データを見る限りにおいてそのような変動は確認できなかった.
詳細は,講演で述べるが,今回の結果は,積雪を伴う寒冷地の地殻変動観測に期待を与えるものであり,条件が整えば,積雪時であっても干渉が成立することを示す実例であると考える.
本解析で用いた,/PALSAR2データについては火山噴火予知連絡会が中心となって進めている防災利用実証実験(火山WG)に基づいて,JAXA にて観測・提供されたものである.