日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC24] 人間環境と災害リスク

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 101B (1F)

コンビーナ:*青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、鈴木 康弘(名古屋大学)、小荒井 衛(国土交通大学校測量部)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、宇根 寛(国土地理院)、中村 洋一(宇都宮大学教育学部地学教室)、松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、原 慶太郎(東京情報大学総合情報学部)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

17:36 〜 17:39

[HSC24-P03] 大正関東地震で寺社被害をもたらした要因の検討 -藤沢市中南部の事例-

ポスター講演3分口頭発表枠

*柴山 愛1山崎 晴雄1 (1.首都大学東京大学院地理学教室)

キーワード:大正関東地震, 藤沢, 寺社, 常時微動

はじめに
 日本では現在までに多くの地震災害が発生している.近年では首都機能に甚大な被害をもたらす地震の発生が危惧されており,地震災害に対する社会的関心は高まっている.地震によって起こる建物被害を軽減するには,どのような場所がより強く揺れるかを把握する必要がある.建物被害と地形・地質に密接な関係があることは,従来多く議論されている.しかし,従来の研究では建物被害が卓越するとされている軟弱地盤上でも建物被害の程度が分かれる要因が検討されていない.それらは,被害を生じやすい条件を地域ごとに一括りに示したものであり,被害の有無を分けた要因を建物1つ1つで検討するものはなかった.また,地盤と建物被害との関係を,物理探査を用いて明らかにする研究もされてきた.しかし,地形・地質学的な要素,工学的な要素,土地利用など,考えられる全ての要素を考慮して議論された研究はない.そこで,本研究では,1923年の大正関東地震の際に,神奈川県藤沢市中南部の沖積低地で発生した建物被害の有無を分けた要因を,寺社を対象として検討する.
             
調査地域・手法
 大正関東地震は,1923(大正12)年9月1日11時58分に発生したマグニチュード(M)7.9,最大震度は6,深さ25kmと推定される地震である.地震による被害は1府9県にも及び,火災による焼失家屋数が多いことが特徴的である.本研究では,家屋の損失要因を地震動に絞って調査を行うために,倒壊家屋数が多いが焼失数が少ない地域で,かつ様々な地盤条件を含むとして,相模湾沿岸地域の中でも藤沢地域を選定した.本研究では,建物の構造が類似していること,被害の記録が残っていたこと等の理由から,寺院と神社を対象とした.藤沢市中南部の寺社については,被害記録が県によってまとめられており,記録の乏しい寺社に関して,現地調査でデータを補足した.そこで,被害の有無に加えて建築年代調査,寺社周辺の地形面区分,微地形区分,および地下構造の推定を行った.

結果・考察
 結果,それぞれの寺社ごとに複数の要因が重なることにより,被害の有無が分かれていることがわかった.被害をもたらす要因としては,マクロスケールの地形(凹地になっていること),表層地盤層厚が厚いこと,沖積層厚が厚いこと,地下水高が高いこと,建物の築年数が長いこと,地質(砂層が厚く堆積している,砂泥層が見られる)が挙げられる.また,被害もたらさない要因としては,微地形区分(微高地),丘陵からの距離が近いこと(工学的基盤層厚が薄いこと),地質(浅部に礫層や硬岩が見られる)が挙げられる.                  
 以上の検討より,表層地盤層厚や丘陵からの距離をはじめとする,地形・地質学的な要因と工学的な要因が複数組み合わさることで,被害の有無が分かれることを示した.この研究を今後発展させていくことで,防災対策を個人レベルで行う上で有意なデータになることが期待される.また,建物被害を生じる要因として考えられる要素をビッグデータとして収集し分析することで,将来個々の建物ごとの揺れやすさを評価することが容易になり,より有効な防災対策を行うことができるようになると考える.