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[ACG30-04] 東南アジア熱帯生態系における土壌炭素動態のコントロール要因
キーワード:自動開閉チャンバー, 土地利用変化, 土壌水分, 土壌炭素, 熱帯生態系
本研究は、熱帯林における森林経営や伐採過程に伴う地上部、地下部の炭素ストックの変動や施業後の残渣の分解過程を明らかにし、さらに伐採過程及び土地利用変化に伴う熱帯林の劣化メカニズムを解明することを目的とする。そのために、マレーシア半島中央部のネグリセンビラン州にあるパソ低地熱帯雨林、および北部のペラ州の山岳地帯にあるテメンゴール施業区に設置されている調査プロットにおいて、土壌呼吸の連続または集中測定を行った。パソの低地天然林において根切り(トレンチ)処理を行い、大型マルチ自動開閉チャンバーシステムを用いて測定した結果、総土壌呼吸量は約38 tC ha-1 yr-1であった。そのうち、土壌有機炭素分解(微生物呼吸)の寄与は約62.6%と推定された。また、土壌呼吸、特に根呼吸と土壌含水率との間には正の相関が認められ、低地天然林でも一次総生産(光合成)は土壌水分によって制限を受けていることが示唆された。携帯型自動開閉チャンバーシステムを用いたテメンゴール施業区においての測定結果では、伐採直後、根呼吸の停止によって土壌呼吸速度は減少していた。しかし、その後に土壌呼吸速度が顕著に上昇したことから、枯死根の分解が活発に進行していたものと考えられる。また、低地熱帯雨林と山岳地帯熱帯雨林において、択伐施業に伴う林床部炭素放出量を測定したところ、天然林(6.93 μmol CO2 m-2 s-1)に比べて伐採後約7年経過した低インパクト伐採跡地における土壌呼吸速度は6.88 μmol CO2 m-2 s-1であった。対して通常の持続可能な経営システム法(Sustainable Management System: SMS)の伐採跡地での土壌呼吸速度は約19%低下していた事が明らかになった。伐採残渣は伐採後7年の間にほとんど分解され、SMS伐採跡地におけるCO2放出速度の減少は、伐採による生態系レベルの根呼吸(総土壌呼吸の約37.4%を示す)が50~65%減少したことを示した。また、同様の調査を二次林やゴム、オイルパームプランテーションにおいて実施した結果、土地利用変化がバイオマス及び土壌有機炭素を減少させ、熱帯生態系を劣化させていることが示唆された。さらに、施業前後の土壌有機炭素動態(土壌呼吸速度の変化)や残渣の分解過程およびバイオマスの変動から、通常のSMS伐採法と比べ、低インパクト択伐方式(伐採率30%)による施業では、択伐後の初年度に約804-4,368 US$ ha-1のREDDクレジットが得られるものと試算された。