日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL38] 上総層群における下部ー中部更新統境界GSSP

2015年5月25日(月) 10:00 〜 10:45 102B (1F)

コンビーナ:*岡田 誠(茨城大学理学部理学科)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、風岡 修(千葉県環境研究センター地質環境研究室)、座長:岡田 誠(茨城大学理学部理学科)

10:15 〜 10:30

[SGL38-02] 更新統前期-中期境界を含む田淵セクションにおける上総層群国本層上部のシルト岩層の詳細層序と堆積環境

*風岡 修1西田 尚央2岡田 誠3菅沼 悠介4亀山 瞬5吉田 剛1森崎 正昭1香川 淳1荻津 達1泉 賢太郎6中里 裕臣7熊井 久雄8楡井 久9 (1.千葉県地質環境研究室、2.産業技術総合研究所地質情報研究部門、3.茨城大学、4.国立極地研究所、5.千葉県環境生活部、6.東京大学、7.農業総合研究機構、8.大阪市立大学、9.Japan Branch of Geoscience for Environmental Management, IUGS)

キーワード:GSSP, 更新統前期-中期境界, 国本層, 上総層群, 田渕セクション

房総半島中部に広く分布する上総層群は,更新世前期~中期に,かつての太平洋の深海~浅海に連続的に堆積した.上総層群の模式ルートである養老川付近では,国本層は,厚さ約350mあり,厚いシルト岩層と砂優勢の砂岩泥岩互層との交互層である.本層基底より約60m部分はシルト岩層(最下部)で厚さ数cmのごく薄い砂岩層を挟み,Ku6とKu5火山灰層を挟む.この上位の厚さ約120mは,砂優勢の砂岩シルト岩互層(下部)である.大局的には,砂岩層の厚さは上方へ薄層化している.この上位は厚さ約80mのシルト岩層(上部)で,厚さ数㎝程度のごく薄い砂岩層を1~3m間隔に挟み,Byk zone,Tap,Tas,Ku2の他,軽石層,スコリア層,白色ガラス質細粒火山灰層などが厚さ5~10m間隔に挟む.最上部の約90mは,砂優勢の砂岩シルト岩互層(最上部)である.古地磁気層序の松山逆磁極期-ブリュンヌ正磁極期の境界(以後「M/B境界」と略す)はこのシルト岩層の下部にあることが(中川ほか,1969;新妻,1976)によって見出され,Suganuma et al(in reviewin press)によってByk zone中にあることが明らかにされた.更新世前期-中期境界は,M/B境界付近にすることがICS(2009)により定義されたことから,わかりやすい岩相境界であるByk-Eの基底を提案している(Kazaoka et al, submitted).
この境界付近の厚いシルト岩層の堆積の安定性を検討するため,Bykの下位約10mよりKu2において詳しい露頭観察を行い,Byk-Eの下位約10mからByk-Eの上位約5mについてほぼ連続的に厚さ1cm,幅5cm,長さ25cmのスラブ試料を露頭から採取し,昼光色,軟X線,X線CTによる画像を撮影し,シルト岩中の内部構造を検討した.また,0.5mおきにシルト岩の粒度分析を行い,代表的なシルト岩試料の剥片を作成し顕微鏡観察を行った.これらの結果明らかになってきたことを以下に示す.
①Byk-EからKu2の間に,Byk-D, Byk-C, Byk-B, Byk-A, Tap-B, Tap-A, Tas-C, Tas-B, Tas-Aの9枚のテフラの連続性が養老川を中心に確認され,これらテフラ間の厚さが側方に大きな変化はない.すなわち安定的にシルトが堆積したと考えられる.
②スランプ堆積物が挟まれていない.また,厚い泥流堆積物や砂層は挟まれていない.
③スラブ試料の観察から,シルト岩中に多数の生痕化石を含んでおり,これにより火山灰層や薄い砂岩層が擾乱を受けている.すなわち流水が卓越するような環境ではなく,静かな環境下に堆積したといえる.
④シルト岩中に,厚さ1~3cmの砂岩を数m間隔に挟む.また,シルト岩中に厚さ1~5cmの砂混じり部分が4~10層/m挟まれている.これらは,静かな環境下であるものの,しばしば薄い砂が供給されることがあることを示している.
⑤粒度分析の結果,主体は細粒シルトであるが,極細粒砂を少し含む,2峰性の粒度分布を示す.このことは,シルトが堆積するような水流がない環境下で通常は堆積しているものの,まれに砂が供給されるような流れがあることを示している.
 以上のことから,通常時はシルトが堆積するような静穏な環境であるものの,しばしば極細粒砂が供給されるような流れがある環境であるといえる.また供給された薄い砂層は通常時の生物活動で擾乱されるような環境であるといえる.また,産出する底棲有孔虫化石が,bathtalとsub-littoralが混在している(Kamemaru, 1996)こと,生痕化石から深海を示すZoophycosなどがみられる(Nishida et al., submitted; Izumi et al, in press)こともあわせると,この厚いシルト岩層の堆積環境はslopeを想定すると理解しやすい.
なお,軟X線撮影については産業技術総合研究所第7事業所内の宮地良典博士に,CT画像については高知大学海洋コア総合研究センターの村山雅史教授・山本裕二博士・柳本志津氏にご協力いただいた.お礼申し上げる.