日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

18:15 〜 19:30

[PPS21-P09] 原始太陽系星雲における同位体比均質化の可能性

*竹石 陽1中本 泰史1 (1.東京工業大学)

序論
星・惑星系は、分子雲コアの重力崩壊で形成される。分子雲は多数の超新星爆発や赤色巨星から放出された物質からなるので、分子雲コア中に存在する固体物質の同位体比はさまざまであると考えられる。一方、太陽系の地球や月、火星や隕石などの固体物質の同位体比は、第一近似ではほぼ均質であることが知られている。同位体比が均質となるためには原子レベルでよく混合されることが必要だが、このことは、過去の太陽系において、すべての固体物質が気化するほどの高温(たとえば2000K以上)を経験したことを示唆している。しかし、原始太陽系星雲でそのような高温現象がどのように起こり得るのかは、まだよくわかっていない。

目的
本研究では、分子雲コアの重力崩壊に始まる原始太陽系星雲の形成と進化を考え、原始太陽系星雲内のほとんど全ての固体物質が一度は蒸発・再凝結を経験するような進化経路があるかどうかを調べる。

モデル
初期状態として、1太陽質量を持ち、剛体回転している分子雲コアを考える。分子雲コアにはガスと固体微粒子が含まれるが、個々の固体微粒子は異なる同位体比を持つとする。一方で、固体微粒子は分子雲コア内では機械的によく混合されているとする。分子雲コアの重力崩壊とそれに続く原始太陽系星雲形成と進化は、Cassen & Moosman (1981)に基づきモデル化する。すなわち、分子雲コアの重力崩壊による質量降着率は時間的に一定とし、落下場所は初期角運動量に応じた遠心力半径で決まるとする。また、原始太陽系星雲内には乱流が生じており、乱流粘性が作用してガスの円盤降着が起こるとする。さらには、原始太陽系星雲の自己重力による重力トルクも考慮する (Nakamoto & Nakagawa 1995)。固体微粒子はガスと一緒に動くとともにガスに対して相対的に拡散するが、その様子は乱流拡散モデル (Wehrstedt & Gail 2002) を用いて計算する。原始太陽系星雲の温度は、乱流粘性加熱と円盤表面から外部に放出される輻射冷却の釣り合いにより求める。このモデルにおけるモデルパラメータは、初期分子雲コアの温度と剛体回転角速度の2つである。固体微粒子の温度が一定温度(2000K)以上になった場合は気化するとし、その温度を再度下回った場合は同位体比が均質化した固体微粒子が凝結するとする。そして、同位体比が均質化した固体微粒子の空間分布の時間変化を計算し、十分時間が経った時(微惑星形成の直前期)の固体微粒子同位体比が、太陽系全体にわたって均質化しているかどうかを調べる。

結果
原始太陽系星雲の温度は、太陽に近いほど高温の分布となる。このため、初期分子雲コアの温度が高い方が、また、回転角速度が小さい方が、半径の小さい原始太陽系星雲が形成されることとなり、蒸発・再凝結を経験する固体微粒子の割合が高くなった。たとえば、初期分子雲コアの温度が15K、回転角速度が (2-3)×10^-14 s^-1 の場合、原始太陽系星雲内のすべての固体微粒子の同位体が均質となった。すなわち、形成される原始太陽系星雲の半径が小さければ、現在の太陽系で見られるような均質な同位体比をもつ惑星系が形成され得ることがわかった。

議論
観測によれば、分子雲コアの回転角速度は 10^-14 s^-1 から 10^-13 s^-1 程度のものが多い (Goodman et al. 1993)。したがって、現在の太陽系に見られる均質な同位体比分布が本研究で考えたようなモデルで作られたとすれば、太陽系を作った分子雲コアは平均値よりも小さい回転角速度を持っていたと推定される。このことは、回転角運動量が小さい分子雲コアからは連星よりも単独星が形成されやすい (Matsumoto & Hanawa 2003) という傾向と調和的である。

結論
分子雲コアの重力崩壊に続く原始太陽系星雲の形成と進化を調べた結果、原始太陽系星雲内のほとんど全ての固体微粒子が蒸発と再凝結を経験し、同位体比が均質化するような進化経路が存在することがわかった。すなわち、形成される原始太陽系星雲の半径が小さければよく、それは、分子雲コアの温度が高い場合、もしくは分子雲コアの回転角速度が小さい場合に対応する。