日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG30] 陸域生態系における水・炭素・窒素などの循環に関する研究

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*加藤 知道(北海道大学農学研究院)、平野 高司(北海道大学大学院農学研究院)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、平田 竜一(独立行政法人国立環境研究所)

18:15 〜 19:30

[ACG30-P02] プロットスケールと生態系スケールのフラックス測定によって明らかになった温帯林におけるメタン動態

*坂部 綾香1小杉 緑子1高橋 けんし2伊藤 雅之3植山 雅仁4岩田 拓記5安宅 未央子1 (1.京都大学農学研究科、2.京都大学生存圏研究所、3.京都大学東南アジア研究所、4.大阪府立大学大学院生命科学研究科、5.信州大学理学部)

メタン(CH4)は二酸化炭素(CO2)に次ぐ温室効果ガスである。地球温暖化問題が深刻化している中、土壌によるCH4の放出源、吸収源としての両面の役割を定量評価する必要がある。湛水した嫌気的土壌では、CH4生成菌によるCH4生成が、水分不飽和な酸化的土壌では、CH4酸化菌によるCH4酸化が起こる。森林土壌の大部分は酸化的土壌から成るため、主要なCH4の吸収源と考えられてきた。しかし、アジアモンスーン気候の下では、CH4生成菌、CH4酸化菌両方の活性が盛んな夏に多雨を迎え、流域内に湿地が多く存在するため、森林地帯全体として見た場合に、CH4吸収源とは限らない可能性がある。そこで本研究では、滋賀県南部に位置するアジアモンスーン気候下の温帯ヒノキ林(桐生水文試験地: 35°N, 136°E)において、チャンバー法によるプロットスケールと、微気象学的手法である簡易渦集積法(REA法)による生態系スケールのCH4フラックス測定に取り組むことで、CH4動態の解明を目指した。
まず、湿地と水分不飽和な林床それぞれ60点において行ったマニュアルチャンバー法による土壌CH4フラックス測定の結果から、湿地におけるCH4放出は、水分不飽和な林床土壌におけるCH4吸収に比べて量的に大きく、また時空間変動性が大きいことが明らかになった。そのため、森林におけるCH4動態の理解には、湿地におけるCH4動態の理解が重要であることが分かった。さらに、湿地と林床それぞれ9点において、2週間ごとに継続して行ったマニュアルチャンバー観測の結果から、湿地では、降雨が続いた夏から秋にかけて著しく大きなCH4放出が観測された。一方、林床におけるCH4吸収の季節変化は、単純に温度変化に付随したものではなく、集中的な降雨の前の春に大きなCH4吸収が観測された。さらに、林床3点において、自動連続チャンバー測定によるCH4フラックスの環境応答性を調べた結果、CH4吸収は、夏の集中的な降雨によって、著しく弱まったが、降雨後、土壌含水率が低下するにつれて回復し、夏に最大となるといった時間的に詳細な季節変化の様子が捉えられた。CH4フラックスの降雨応答性は、プロットによって異なった。土壌含水率が低く腐植層の厚いプロットでは、降雨強度がピークに達したときにCH4吸収が急激に減少し、降雨後吸収は徐々に回復した。土壌含水率が高いプロットと、土壌含水率が低いが腐植層のほとんどないプロットでは、そのようなCH4吸収の急激な減少は観測されず、吸収は徐々にゼロ付近になった。また、CO2フラックスを同時に測定し、それとCH4フラックスの挙動との比較によって、ガス拡散性や微生物活性の観点からみたCH4フラックスの変動要因の評価情報が得られた。
次に、生態系スケールのCH4フラックスの測定によって、アジアモンスーン気候下の温帯ヒノキ林が生態系スケールで、CH4放出源、CH4吸収源として、季節ごとに切り替わる様子が明らかになった。そして、その変化パターンは、年によって異なっていた。夏から秋にかけてCH4放出源となる傾向があり、乾燥した時期にはCH4吸収源に転じた。また、数時間単位、数日単位で、CH4フラックスは、降雨に敏感に反応し、降雨後にCH4放出の増加、吸収の減少、吸収から放出へ切り替わる様子が観測された。アジアモンスーン気候下の温帯ヒノキ林におけるCH4フラックスの時間的変化は、プロットスケールでも生態系スケールでも降雨の影響を顕著に受けており、流域内の湿地や林床でCH4フラックスが地温や土壌含水率に敏感に反応した結果、生態系スケールで季節的にCH4の放出源として働くことが示された。