日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 A01 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*山下 陽介(国立環境研究所)、秋吉 英治(国立環境研究所)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、冨川 喜弘(国立極地研究所)、座長:山下 陽介(国立環境研究所)

14:30 〜 14:45

[AAS11-10] ユーラシア大陸上空の上部対流圏・下部成層圏における大気中CH4濃度とその炭素・水素同位体比の時空間変動

*藤田 遼1森本 真司1青木 周司1町田 敏暢2澤 庸介3松枝 秀和3丹羽 洋介3坪井 一寛3勝又 啓一2中澤 高清1 (1.東北大学大学院理学研究科大気海洋変動観測研究センター、2.国立環境研究所、3.気象庁気象研究所)

キーワード:メタン、炭素・水素同位体比、上部対流圏・下部成層圏、ユーラシア大陸

北半球高緯度において,温室効果気体の時空間変動やその放出源を明らかにするために,航空機を用いたキャンペーン観測がこれまで複数回行われてきた(Sugawara et al., 1996; Tohjima et al., 1997; Nakazawa et al., 1997; Paris et al., 2008).しかし,航空機による系統的な時系列観測は非常に少なく(Matsueda et al., 2002; Haszpra et al., 2012; Umezawa et al., 2012),これまでに得られた知見は限られていた.特に,CO2に次いで重要な温室効果気体であるCH4について,その放出・消滅過程の情報を含む炭素・水素同位体比(δ13C,δD)とCH4濃度の同時高精度観測を上部対流圏から下部成層圏にかけて実施した例は非常に限られており(Sugawara et al., 1997; Rice et al., 2002; Röckman et al., 2011),北半球高緯度域における系統的な観測例はこれまでに報告されていない.本研究ではCONTRAILプロジェクトの一環で2012年4月より,パリ(モスクワ)-羽田(成田)間において、民間定期旅客機上で月に一度採取された大気試料を用いてCH4濃度,δ13C,δDの同時高精度観測を行い,ユーラシア大陸上空の上部対流圏・下部成層圏におけるそれらの時空間変動を明らかにした.
上部対流圏では明瞭な季節変動がみられなかった.一方で,下部成層圏ではCH4濃度とδ13C,δDは明瞭な逆位相の変動を示し,CH4濃度(δ13C,δD)は11〜1月に極大(極小)を,春に極小(極大)を示した.北半球高緯度域における下部成層圏での季節変動の原因としては,夏から秋にかけて低緯度側から対流圏の空気塊が流入すること,冬から春にかけてブリューワー・ドブソン循環に伴って中・上部成層圏から空気塊が沈降することが考えられた(Sawa et al., 2015).さらに,CH4濃度とδ13C,δDの相関を調べることにより,上部対流圏ではCH4と水酸化ラジカル(OH)との反応による消滅が支配的である一方で,下部成層圏ではOHに加えて,塩素ラジカル(Cl),励起酸素原子(O(1D))との消滅反応が生じている可能性が示唆された.