14:30 〜 14:45
[G02-04] 防災教育における法教育の現状
キーワード:防災教育、法教育
甚大な被害をもたらした東日本大震災を経て、わが国においては、防災活動の推進が、一層声高に求められている。災害に対して防災を行うにあたって、合理的な行動、あるいは活動を促進するために、知識を獲得するという面での防災教育のあり方を検討することは非常に重要である。
災害多発国であるわが国において、災害から生き残ることはもはや最低条件であり、より重要なことは、災害が起こったあと、どのようにして生きていくか、という観点であろう。そうした観点を養うものとして、災害に関する法制度を知ることが挙げられよう。
東日本大震災において、行政職員が「災害救助法」に関して熟知していなかったために、十分な給付・サービスを行うことができなかったという事例がある。これはまさに災害に関する法知識がなかったことで起きた問題であり、“知っていれば”防ぐことのできた事態でもある。また、ここで問題は、支援者や被災者も“知らなかった”ことも含まれる。そのため事態は一層深刻なものとなってしまったのである。
「気象義務法」を根拠として気象庁は災害に関する予報・警報を出し、さらには「災害対策基本法」によって市町村長は避難準備情報・避難勧告・避難指示を出す。建物の耐震性に関しては「建築基準法」の新耐震基準が適用される。このように、生命に直結する法知識は身近に多々ある。
しかしながら、こうした災害に関する知識を知ることのできる機会は、そうそうあるものではない。一般市民向けの防災教育の場面においても、体系的に法知識の会得を目的としたカリキュラムが組まれることもまずない。
ここで、学校教育においては、実際にどのような防災に関する学習が展開されているのであろうか。災害法制度に関する学習は行われているのであろうか。さらに、災害復興段階を考えさせるような学習はあるのであろうか。東日本大震災を経て、そうした学習の機会は多くもたれるようになっているのであろうか。
本稿においては、小学校の教科書を取り上げて見ていくことにする。法知識の学習は、特に公民科で行われる。小学校で公民分野の学習は、社会科6年生下巻に見ることができる。小学校の社会科を発行している出版社は5社あるが、ここでは特に採択率の高い、東京書籍2013年度改訂分を取り上げる。
6年生下巻 第2章に、「わたしたちの生活と政治」という、政治を学習する分野がある。そこでは、まず、「災害が起きたときには、だれが、どのようにして人を助けたり、こわれた建物や道路などをなおしたりするのかな。」という問題提起がなされる。そして第1節に「震災復興の願いを実現する政治」という節が設けられ、特に東日本大震災の発生によって政治がどのように機能したか、あるいはどのような復興の取り組みがなされているのかを学習する頁があるが、それが実に12頁にも及ぶ。12頁という分量は、教科書全体の10%に相当する。目を引くのは、最初に掲げられる問題提起である。「被災した人たちは、どのような願いをもったのだろう。それを実現するには、どうしたらよいのかな。」さらに、学習問題として、「災害にあった人々の願いは、政治の働きによって、どのように実現されるのでしょうか。」という文章がある。明らかに、災害後の復旧・復興過程を意識している内容であろう。東日本大震災が起こり、緊急対応として「災害救助法」が適用され、自衛隊への災害時派遣要請、物資の支援などを進めることができたと記載されている。また、「災害救助法」そのものに関して、「国が応急的に必要な救助を行い、被災者の保護や社会秩序の保全を行うための法律で」あることが、そもそも説明されている。さらに「東日本大震災復興基金法」を成立させたこと、被災者への生活支援のために補正予算を何度も成立させたことなどの記載があり、被災地の支援を行うための、必要な法律が紹介されている。
以上、非常に簡単ではあるが、小学校での災害法制度に関する学習の内容を見てきた。そこでは、東日本大震災という社会的にインパクトの大きかった災害を取り上げて、具体的に政治がどのように機能したのか、あるいは被災者を支援するためにどのような法制度があったかが記載されていた。つまり、わが国では小学校の段階で、さわり程度かもしれないが、すでに災害法制度の学習が行われ、またそれは、実際どのように機能しているかという内容にまで踏み込むものであることがわかった。今後は、現状における災害法制度の学習をベースに、どのような展開が望ましいかといった十分な議論が必要であろう。
〔参考文献〕
山崎栄一『自然災害と被災者支援』日本評論社(2013年)
災害多発国であるわが国において、災害から生き残ることはもはや最低条件であり、より重要なことは、災害が起こったあと、どのようにして生きていくか、という観点であろう。そうした観点を養うものとして、災害に関する法制度を知ることが挙げられよう。
東日本大震災において、行政職員が「災害救助法」に関して熟知していなかったために、十分な給付・サービスを行うことができなかったという事例がある。これはまさに災害に関する法知識がなかったことで起きた問題であり、“知っていれば”防ぐことのできた事態でもある。また、ここで問題は、支援者や被災者も“知らなかった”ことも含まれる。そのため事態は一層深刻なものとなってしまったのである。
「気象義務法」を根拠として気象庁は災害に関する予報・警報を出し、さらには「災害対策基本法」によって市町村長は避難準備情報・避難勧告・避難指示を出す。建物の耐震性に関しては「建築基準法」の新耐震基準が適用される。このように、生命に直結する法知識は身近に多々ある。
しかしながら、こうした災害に関する知識を知ることのできる機会は、そうそうあるものではない。一般市民向けの防災教育の場面においても、体系的に法知識の会得を目的としたカリキュラムが組まれることもまずない。
ここで、学校教育においては、実際にどのような防災に関する学習が展開されているのであろうか。災害法制度に関する学習は行われているのであろうか。さらに、災害復興段階を考えさせるような学習はあるのであろうか。東日本大震災を経て、そうした学習の機会は多くもたれるようになっているのであろうか。
本稿においては、小学校の教科書を取り上げて見ていくことにする。法知識の学習は、特に公民科で行われる。小学校で公民分野の学習は、社会科6年生下巻に見ることができる。小学校の社会科を発行している出版社は5社あるが、ここでは特に採択率の高い、東京書籍2013年度改訂分を取り上げる。
6年生下巻 第2章に、「わたしたちの生活と政治」という、政治を学習する分野がある。そこでは、まず、「災害が起きたときには、だれが、どのようにして人を助けたり、こわれた建物や道路などをなおしたりするのかな。」という問題提起がなされる。そして第1節に「震災復興の願いを実現する政治」という節が設けられ、特に東日本大震災の発生によって政治がどのように機能したか、あるいはどのような復興の取り組みがなされているのかを学習する頁があるが、それが実に12頁にも及ぶ。12頁という分量は、教科書全体の10%に相当する。目を引くのは、最初に掲げられる問題提起である。「被災した人たちは、どのような願いをもったのだろう。それを実現するには、どうしたらよいのかな。」さらに、学習問題として、「災害にあった人々の願いは、政治の働きによって、どのように実現されるのでしょうか。」という文章がある。明らかに、災害後の復旧・復興過程を意識している内容であろう。東日本大震災が起こり、緊急対応として「災害救助法」が適用され、自衛隊への災害時派遣要請、物資の支援などを進めることができたと記載されている。また、「災害救助法」そのものに関して、「国が応急的に必要な救助を行い、被災者の保護や社会秩序の保全を行うための法律で」あることが、そもそも説明されている。さらに「東日本大震災復興基金法」を成立させたこと、被災者への生活支援のために補正予算を何度も成立させたことなどの記載があり、被災地の支援を行うための、必要な法律が紹介されている。
以上、非常に簡単ではあるが、小学校での災害法制度に関する学習の内容を見てきた。そこでは、東日本大震災という社会的にインパクトの大きかった災害を取り上げて、具体的に政治がどのように機能したのか、あるいは被災者を支援するためにどのような法制度があったかが記載されていた。つまり、わが国では小学校の段階で、さわり程度かもしれないが、すでに災害法制度の学習が行われ、またそれは、実際どのように機能しているかという内容にまで踏み込むものであることがわかった。今後は、現状における災害法制度の学習をベースに、どのような展開が望ましいかといった十分な議論が必要であろう。
〔参考文献〕
山崎栄一『自然災害と被災者支援』日本評論社(2013年)