15:00 〜 15:15
[G02-06] 大学生による沿岸集落における防災・減災活動の成果と今後の課題
キーワード:自然災害、ボランティア、ステークホルダー
1.はじめに
大分大学教育学部地理学研究室は住居学研究室と共同で,2013年度以来,大分県佐伯市鶴見吹浦地区(以下,吹浦地区)において,地区自治会と協力し,学生が主体となって,集落における暮らしと防災・減災のあり方を考えるための活動を継続的に行ってきた。2015年度で3年を経て,活動の節目を迎えたので,これまでの活動の概要と成果を整理するとともに,今後の課題についても検討したい。
発表者らは地理学と住居学と,異なる学問分野に基礎を置いているため,地域の防災・減災活動に対するスタンスも基本的に異なっている。つまり,地理学においては,地域の持つ諸条件との関わりの中で現象の特質を探ることに重点を置くのに対して,住居学では,よりよい暮らしのあり方の追求に重きを置く。このような背景的な違いを踏まえて,大学生にあっては防災・減災意識や技能の向上を,地域にあっては防災・減災意識や備えの向上を目標として設定し,地区自治会と協議のうえで活動を行った。
なお,吹浦地区は大分県南東部の豊後水道に面した,世帯数約230の沿岸集落である。発生が危惧される南海トラフ巨大地震では,吹浦地区には5メートルを超える津波の襲来が想定されているほか,山地に囲まれ,土石流等の斜面災害の危険性も有する。
2.活動の経過と特徴
2013年度には地区の全世帯に対して,防災・減災に対する意識や備えなどを問うアンケート調査を実施した。調査票の配布,回収,基礎的な集計作業等を学生が担当した。その結果,各種自然災害に対する認識の地域的な実態や,自力で防災・減災対策を行うことが困難な世帯が多く存在することなどが明らかとなった。
2014年度は,この意識調査の成果と発災時の迅速な避難経路の確保という同地区の課題を考慮して,自力で防災・減災対策を行うことが困難な世帯を対象として,地震時に転倒の危険性がある居室内の家具等の固定作業を,学生の主体的活動として行うボランティアプログラムを実施した。家具固定という技能を要するため,学部の技術分野の教員の助力を仰ぎ,技能実習を行ったうえでプログラムを実施した。また,参加学生は関係教員の講義等で募集したため,ほぼ該当分野の学生が参加した(工学部都市計画研究室を含む)。プログラムにおいては,分野横断的なグループを構成し,事前調査や家具固定実施作業などを共同作業として行った。
2015年度は,当初2014年度と同様の活動計画を立てたが,家具固定を希望する世帯が少数であったことから,2014年度の活動に加えて,自然災害の可能性を現地で直に確認する能力の育成を追加した。グループ単位で,ハザードマップを持参して,地区住民とともにフィールドワークを行い,地区内の防災・安全といった観点から意味のある場所を確認し,その後,それを地図に整理した。
3.活動の成果と今後の課題
地区内の防災・減災意識や備えの社会的,地域的特徴や防災・減災上の課題を抽出したうえで(2013年度),2014年度と2015年度には,大学生によるボランティア活動プログラムを実施した。実施後の評価として,家具固定を実施した世帯から高い評価を得たほか,参加学生の評価も概ね高く,知識や技能等の習得に結びついたと評価できる。
将来,社会の中核を担う大学生が,自然災害の可能性のある地域において,各自の防災・減災の意識や知識・技能を高めたことは大きな成果である。また,その活動に自治会役員を中心にして,地元住民も参加し,共に考え,活動したことは,地域にとっても少なからぬインパクトを与えることになったと考える。
ただ,このような活動を継続的に実施していくには課題がある。例えば,2015年度に家具固定実施世帯数が少数であったように,同一内容のプログラムを同一地区で継続することは難しく,他地区への展開が必要となる。その場合,行政機関との連携や地域との関係構築を新たに始める必要がある。同一地区で継続する場合には,活動内容の再検討と新基軸の追加が必要となろう。また,予算的な裏付けとともに,参加学生の継続性も課題である。本活動の永続性を考えるならば,活動の軸となる学生の育成が望まれる。
大分大学教育学部地理学研究室は住居学研究室と共同で,2013年度以来,大分県佐伯市鶴見吹浦地区(以下,吹浦地区)において,地区自治会と協力し,学生が主体となって,集落における暮らしと防災・減災のあり方を考えるための活動を継続的に行ってきた。2015年度で3年を経て,活動の節目を迎えたので,これまでの活動の概要と成果を整理するとともに,今後の課題についても検討したい。
発表者らは地理学と住居学と,異なる学問分野に基礎を置いているため,地域の防災・減災活動に対するスタンスも基本的に異なっている。つまり,地理学においては,地域の持つ諸条件との関わりの中で現象の特質を探ることに重点を置くのに対して,住居学では,よりよい暮らしのあり方の追求に重きを置く。このような背景的な違いを踏まえて,大学生にあっては防災・減災意識や技能の向上を,地域にあっては防災・減災意識や備えの向上を目標として設定し,地区自治会と協議のうえで活動を行った。
なお,吹浦地区は大分県南東部の豊後水道に面した,世帯数約230の沿岸集落である。発生が危惧される南海トラフ巨大地震では,吹浦地区には5メートルを超える津波の襲来が想定されているほか,山地に囲まれ,土石流等の斜面災害の危険性も有する。
2.活動の経過と特徴
2013年度には地区の全世帯に対して,防災・減災に対する意識や備えなどを問うアンケート調査を実施した。調査票の配布,回収,基礎的な集計作業等を学生が担当した。その結果,各種自然災害に対する認識の地域的な実態や,自力で防災・減災対策を行うことが困難な世帯が多く存在することなどが明らかとなった。
2014年度は,この意識調査の成果と発災時の迅速な避難経路の確保という同地区の課題を考慮して,自力で防災・減災対策を行うことが困難な世帯を対象として,地震時に転倒の危険性がある居室内の家具等の固定作業を,学生の主体的活動として行うボランティアプログラムを実施した。家具固定という技能を要するため,学部の技術分野の教員の助力を仰ぎ,技能実習を行ったうえでプログラムを実施した。また,参加学生は関係教員の講義等で募集したため,ほぼ該当分野の学生が参加した(工学部都市計画研究室を含む)。プログラムにおいては,分野横断的なグループを構成し,事前調査や家具固定実施作業などを共同作業として行った。
2015年度は,当初2014年度と同様の活動計画を立てたが,家具固定を希望する世帯が少数であったことから,2014年度の活動に加えて,自然災害の可能性を現地で直に確認する能力の育成を追加した。グループ単位で,ハザードマップを持参して,地区住民とともにフィールドワークを行い,地区内の防災・安全といった観点から意味のある場所を確認し,その後,それを地図に整理した。
3.活動の成果と今後の課題
地区内の防災・減災意識や備えの社会的,地域的特徴や防災・減災上の課題を抽出したうえで(2013年度),2014年度と2015年度には,大学生によるボランティア活動プログラムを実施した。実施後の評価として,家具固定を実施した世帯から高い評価を得たほか,参加学生の評価も概ね高く,知識や技能等の習得に結びついたと評価できる。
将来,社会の中核を担う大学生が,自然災害の可能性のある地域において,各自の防災・減災の意識や知識・技能を高めたことは大きな成果である。また,その活動に自治会役員を中心にして,地元住民も参加し,共に考え,活動したことは,地域にとっても少なからぬインパクトを与えることになったと考える。
ただ,このような活動を継続的に実施していくには課題がある。例えば,2015年度に家具固定実施世帯数が少数であったように,同一内容のプログラムを同一地区で継続することは難しく,他地区への展開が必要となる。その場合,行政機関との連携や地域との関係構築を新たに始める必要がある。同一地区で継続する場合には,活動内容の再検討と新基軸の追加が必要となろう。また,予算的な裏付けとともに,参加学生の継続性も課題である。本活動の永続性を考えるならば,活動の軸となる学生の育成が望まれる。