日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS06] Natural hazards impacts on the society, economics and technological systems

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 101A (1F)

コンビーナ:*PETROVA ELENA(Lomonosov Moscow State University, Faculty of Geography)、松島 肇(北海道大学大学院農学研究院)、座長:PETROVA ELENA(Lomonosov Moscow State University, Faculty of Geography)、松島 肇(北海道大学大学院農学研究院)

09:40 〜 09:55

[HDS06-03] Ecosystem service of coastal sand dune, the change of sake brewery environment with social situation

*金子 是久1 (1.北総生き物研究会)

キーワード:Ecosystem Service, Coastal Sand Dune, Development, Disaster

海岸砂丘は、海と陸との間の緩衝帯であり、その地下10m前後には、淡水層が存在している。淡水層の水は、農業用水・飲料水などの生活用水、酒蔵の仕込み水等に使用され、生態系サービスとしての役割を果たしている(金子ら2012,Kaneko et al 2013)。本研究の調査地である千葉県は、三方を海に囲まれ、潜在環境として海岸砂丘が帯状に分布している。特に、東京湾側は、大正時代に多くの酒蔵が海岸付近に存在しており、その当時、海岸砂丘の生態系サービスの恩恵を受けていたと考えられる。しかし、これらの生態系サービスについて検証した例はないことから、本研究では、大正時代に千葉県東京湾側において酒蔵のあった場所の環境(地形、土壌、土地利用、地下水深度とその水質)および社会情勢について調査し、海岸砂丘のもつ生態系サービスについて検証する。
千葉県内の酒蔵の記録については、ちばの酒物語(1997)から引用した。酒蔵の立地環境(土壌、地下水水質)については、表層地質図、地形分類図、土壌図(5万分の1都道府県土地分類基本調査 千葉)、千葉県地下水水質資料集(1983)から引用した。また、大正時代に酒蔵を営んでいた家の末裔の方に、廃業理由、酒蔵運営時の自然環境について聞き取り調査を行った。大正時代に存在していた酒蔵およびその付近の立地環境(土壌、地下水位、水質)および土地利用変化を調べた結果、潜在土壌については、地形分類では砂洲、砂堆・自然堤防、表層地質は、砂がち堆積物、砂地と砂丘上に存在していた。また、多くの酒蔵は、標高10m以下、海から1km以内であり、井戸水の深度は3-10mで、その水質は中硬水~強硬水であった。これらのことから、これらの酒蔵は、海岸砂丘から形成された自然素材を利用しており、海岸砂丘の生態系サービスの恩恵を受けていたと考えられる。さらに、これらの酒蔵の廃業要因を調べた結果、1923年の関東大地震で建物が倒壊し、再建のための財源不足により、経営が困難となり、廃業した。企業整備令(1942年公布)又は米不足による廃業、沿岸開発(工業化のための埋め立て)により仕込み水の確保が困難となり、廃業、道路、鉄道等のインフラ整備の進行で物流が発達し、洋酒(ビール、ワイン等)が簡単に入手できるようになり、嗜好が変化した。特に、調査地である千葉県内房側は、東京湾に面しており、早くから開発が進められ、その影響を受けたと考えられる。