日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS19] 津波とその予測

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*行谷 佑一(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[HDS19-P04] 明和の大津波の際の宮古地区の被害状況に関する再考察

*松本 剛1 (1.琉球大学理学部)

キーワード:明和の大津波、遡上高、宮古地区

1771年3月10日(新暦4月24日)に南西諸島域で発生した明和の大津波は、八重山地方・宮古地方に死者約12,000人、家屋流出約2,000件と云う甚大な被害をもたらした。2004年スマトラ地震や、2011年東日本大震災以降、長さ数百kmに亘る地震断層の存在が注目され、明和の大津波についても、南西諸島域での同様の地震断層が原因と見られることから、沖縄県では津波浸水予測の再計算を行い、平成27年に最新の成果が公表されている(以下、「津波浸水想定」と云う)。また、石垣島南岸部でのトレンチ掘削による津波堆積物調査も進められている。その一方で、宮古地区での被害状況の検証は進んでいなかった。宮古地区での被害状況の概要は「球陽」に見られるが、1987年に発見された「御問合書(おといあいがき)」にはより詳細な記載があることが明らかとなった(加藤、1989)。本研究では、御問合書の記載をもとに、平成27年度の津波浸水想定の結果と対比することによって、原因となる地震断層の推定の適否について、考察を行った。なお、津波浸水想定では複数の地震断層について評価を行っているが、八重山地方の被害状況を考慮し、最も可能性の高い南西諸島海溝南西端の3断層連動による津波を前提とした。
御問合書には「地震仕一刻程間を置大波続様三度揚・・」との記載がある。「一刻」は30分であることから、津波浸水想定の結果の宮古地方への到達時間である20~40分とほぼ一致する。津波の遡上高が明記されているのは、宮古島の宮国・新里・砂川・友利地区でともに3丈5尺(10.6m)、池間島の池間・前里地区でともに2丈5尺(7.6m)、伊良部島で3丈5尺(10.6m)、下地島で12~13丈(約38m)である。下地島ではこの他、島の南端から高さ10尋(18m)の高台に石が打ち揚げられているとの記載がある。これら4箇所の津波浸水想定結果では、それぞれ、26.5~28.3m、17.3m、13.4m、及び25.9m(但し、佐和田・渡口から侵入した津波のため、一部は伊良部島の方に遡上したものと推定される)である。下地島を除き、全体として津波浸水想定結果の方が高めに出ており、八重山地区での津波被害状況が克明に記された「大波之時各村之形行書」とは逆の傾向が見られる。下地島の最高地点は、西海岸沿いの崖の21.6mであるので、12~13丈と云うのは明らかに過大評価と見られる。実際の遡上高が想定高よりも少ない場合、地震断層の滑り量が八重山沖と宮古沖とでは異なり、宮古沖の方がより滑り量が少ない、或いは、地震断層に沿って八重山から宮古方面に破壊が伝搬し、宮古沖が破壊の終端であったことが推定される。