15:45 〜 16:00
[HGG12-02] 鬼怒川の流域平均極値雨量の推定
★招待講演
キーワード：鬼怒川、2015年9月関東・東北豪雨、POT解析
利根川の左支川である鬼怒川は，栃木県から茨城県を流下し，その流域は2015年9月関東・東北豪雨により大規模な豪雨・洪水被害を被った．台風18号から変わった温帯低気圧と台風17号に挟まれる領域で大雨となり，鬼怒川上流部では500mm以上の降水量となった．この豪雨により，2015年9月10日昼過ぎに鬼怒川の左岸堤防が破堤し，鬼怒川と小貝川に挟まれた低地が大規模に浸水した．破堤後，ヘリで多くの人が救出される状況がマスメディアで報道されたことは記憶に新しい．本論文では，鬼怒川の治水計画の基準点である石井地点上流の流域平均時刻雨量を求め，異なる降雨継続時間について，極値解析を行った．極値解析に当たり，従来よく用いられてきた年最大値資料用いるAMS解析のみではなく，閾値超過資料(Peaks Over Threshold, POT)を用いる解析も行う．十分大きな閾値を用いて独立なPOTを抽出する場合，その試料は指数分布(Exp)または一般パレート分布(GP)で当てはめられる．AMS解析に用いられる2母数の分布はグンベル分布(Gumbel)であるが，これに対応するPOT解析に用いられる分布はExpである．なお，GPの形状母数が0の特別な場合がExpである．主にPOTで解析を行うものの，必要に応じてAMS解析との関係を見る際には，閾値を超える事象の発生間隔がポアソン分布に従うとしてPOTの分布関数（経験分布及びExp,GP)を年最大値の分布関数に変換する．用いた降雨資料は鬼怒川流域及びその周辺の国土交通省の水文水質データベースと気象庁の気象官署及びAMeDASから得られる時刻降水量である．なお，極端降雨の解析を目的としているので，冬季において欠測があっても豪雨が発生すると想定される5月から10月に観測が行われている場合は解析対象とした．1979年から2015年の資料を収集した．用いた観測所は15箇所であり，流域平均降水量はThiessen法により求めた．降雨継続時間は，6h,12h，18h，24h，48h，72h，1-day, 2-day, 3-dayである．それぞれの降雨継続時間のAMS資料についてMann-Kendall検定を行った結果，5％の有意水準でトレンドが有意であるとは判断できなかったが，全て増加傾向であった．POTの閾値を設定する方法は幾つか提案されているが，ここでは閾値を超える試料がExpに従う場合に，その平均が閾値を変えても一定となる性質を利用するSample Mean Excess Functionを描いて判断し，それぞれ48,64, 75, 80, 85, 98, 67, 80, 94mmとした．これらの閾値でのSample Sizeは69,77,78,82,96,88,86,95,88であり，AMSに比べて6hを除き2倍以上確保できている．各分布の母数はL積率を用いて推定した．このPOTを用いてAMSと比較評価した結果，2母数のGumbel分布とExpはほぼ同じ外挿値となった．一方，3母数の一般極値分布（GEV）と一般パレート分布（GP）は資料によって異なる外挿となった．Gumbel確率紙にプロットした結果を見る際以下の点に注意する必要がある．まず，POTは閾値以上の値しか用いないので，閾値以上のデータの傾向がAMS同じ場合でもAMSとは閾値以下のデータの影響が異なる．また，3母数のGEV及びGPと2母数のGumbel及びExpとは資料の歪みを考慮するかしないかの違いがありGumbel確率紙上で曲線（上限を有するタイプとTailが厚いタイプ）となるか直線となるかの違いがある．結果を分類すると3つのパターンに分けられる．まず，1）降雨継続時間の短い6hや12hはGumbelとExp，GPがほぼ重なり，GEVが上限を有する分布となっている．2）18hと1-day降水量はGumbel,Exp及びGEVがほぼ重なり，GPのみがTailの厚いフィッティングとなっている．3）他の降雨継続時間では，GumbelとExpがほぼ重なり，GEVとGPがTailの厚い分布となっている．6h，12hを除いて，2015年9月の大雨が1979年以降で最大のイベントとなっている．これらの確率紙へのプロットを見るとこれまでの極値から推定される分布曲線の近くにプロットされており，とんでもなく大きな雨が降ったわけではないと判断され，その確率は概ね1/50～1/100と判断される．なお、2014年までの資料での結果と比較するとGEVの形状母数の符号が変わるものがある．さらにGumbelの100年確率水文量が30mm前後大きくなっている.