日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG12] 平成27年9月関東・東北豪雨災害

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 301B (3F)

コンビーナ:*佐藤 浩(日本大学文理学部)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)

16:45 〜 17:00

[HGG12-06] 洪水時の避難確保計画の重要性~2015年関東・東北豪雨で被災した高齢者施設の事例~

★招待講演

*金井 純子1,2 (1.徳島大学工学部創成学習開発センター、2.徳島大学環境防災研究センター)

キーワード:高齢者施設、避難確保計画、連携

本研究は,要援護者施設が避難確保計画を作成し,浸水被害の軽減・回避に備えることを目的とする.これまでにも,2011年紀伊半島豪雨,2013年京都・滋賀豪雨,2013年山口・島根豪雨,2014年台風12号・11号台風災害などで被災した要援護者施設を対象に,避難行動に関する調査を行ってきた.本論文では,2015年9月の関東・東北豪雨で被災した特別養護老人ホームC苑(以下,特養C苑)の避難行動と他機関の支援について調査し,過去の事例と比較した上で,連携の観点から避難確保計画の重要性について述べる.調査は,2015年11月26日と2016年1月14日~16日に,特養C苑と支援機関へのインタビュー調査および現地調査を実施した.茨城県常総市水海道高野町にある特養C苑は,9月11日5時27分に浸水が始まり,床上60cm,施設周辺は60~133cm浸水・孤立した.水海道地区は,溢水のあった若宮戸や破堤地点の三坂町から10km以上離れているが,八間堀川の氾濫や低勾配の地形の影響もあり,氾濫水が水海道地区に到達したのは,破堤から10時間以上経った10日の深夜であった.また,滞留した氾濫水はなかなか引かず,特養C苑の2階に取り残された利用者102名と職員15名が救出されたのは避難から約40時間後の12日18時頃であった.避難中は,利用者の食事提供,トイレや衛生不良,ケア用品の不足,急患対応,職員の過労など様々な問題が発生した.特養C苑の支援には,グループ法人の災害対策本部,近隣の他法人(10事業所),茨城県の長寿福祉課,自衛隊が関わった.グループ法人の災害対策本部は,情報収集・伝達,安否確認,物資調達,救助・出動要請,利用者の受け入れ施設の確保など,重要な役割を果した.近隣の他法人は,特養C苑とふれあいパートナーシップ協定を締結しており,ケアに必要な物資の調達,搬送車両を準備した.長寿福祉課は,県の災害対策本部と共に,自衛隊のヘリコプターを手配した.本事例において,連携の観点から注目すべき点は「重層的な連携」である.具体的には,グループ法人内の連携,近隣の他法人との連携,県との連携,つまり,「3重層の連携」が迅速な避難を可能したと思われる.過去の事例との比較では,2014年台風11号災害で被災した徳島県那賀町の特養S荘は,近隣の他法人との連携体制ができていなかったため,利用者の搬送や受け入れにおいて大きな混乱が生じた.このことから,連携の中でも,特に「近隣の他法人との連携」が鍵になると考える.