日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG21] Recent advances and future directions in slow earthquake science

2016年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 A08 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*伊藤 喜宏(京都大学防災研究所)、Brudzinski Michael(Miami University)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、Thomas Amanda(University of Oregon)、座長:安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、伊藤 喜宏(京都大学防災研究所)

16:45 〜 17:00

[SCG21-24] Numerical experiments on estimation method of frictional parameters on the SSE fault -Through Ensemble Kalman Filter-

*奥田 亮介1平原 和朗1宮崎 真一1加納 将行2大谷 真紀子2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.東京大学地震研究所)

キーワード:Ensemble Kalman Filter, slow slip event

海溝型地震震源域の深部プレート境界上で発生する、スロースリップイベント(SSE) の活動は、海溝型大地震発生の前に変動する可能性が指摘されており(Peng and Gomberg, 2010)、SSE を引き起こすプレート境界面の摩擦特性を知ることは、海溝型大地震の発生を知る上でも重要な鍵を握る。我々の最終目標は、GNSSによって得られたSSE発生時の地表での変位データに対して、データ同化の手法の一つであるアンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)を用いることによりSSE断層面上のすべり発展と摩擦パラメータを推定し、海溝型地震の発生の予測に役立てることにある。本研究では、シミュレーション計算によって得られたSSE発生時の断層面上のすべり速度や地表観測データに誤差を加えた模擬データを作成し、EnKFを用いて数値実験を行い、推定可能性について議論した。
まず、均質半無限弾性体中の深さ20-40km のプレート境界上に傾斜断層を設定した。断層面上の摩擦力は速度状態依存構成則に従うものとし、また発展則にはスローネス則を用い、準動的計算ですべり速度の時空間発展を求めた。本研究では、摩擦パラメータA[kPa],B[kPa],L[mm]に対して、A-B<0(速度弱化)かつ摩擦パラメータによって決まる臨界半径に対する断層のアスペリティの半径の比が1より少し小さい領域(条件付安定すべり域)となるように摩擦パラメータを設定することにより、平均発生間隔約6ヶ月のSSEを再現する力学的モデルを作成した。
本研究では、このモデルと設定した真値、観測値(模擬データ)を用いてEnKFを用いた断層面上の摩擦パラメータおよびすべり速度・状態変数の推定についての数値実験を行う。EnKFは、力学的モデルの計算によって得られた値(予報値)を、各タイムステップで観測値とそれらの分散共分散行列を用いて統計的に修正することで、最適な値(解析値)を推定する手法である。この分散共分散行列は初期値に乱数を与えて作った大量のアンサンブルメンバーを計算することで得られる。
まず、断層面上でのすべり速度をデータとした場合の実験結果から、SSE発生前後での断層面上でのすべりの浸透や広がりをとらえる観測点配置が必要であることが分かった。また、実験を行う中で断層モデルの不確実性を表すシステムノイズは可変にする必要があり、第一推定値(初期値)はより安定すべりに対応する摩擦パラメータ値にした方が良いことが分かった。さらに、この結果を基に、実際の場合に対応する地表観測点の場合に必要な観測点密度や、偏った観測点分布に対する推定可能性についての実験を行い、実際に観測されているSSE域での観測データに対して、本手法の適用可能性を議論した。その結果、豊後水道や東海沖SSEの地域には適用できる可能性があり、今後これらの地域について数値実験による検証を行う必要がある。