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[SCG63-31] 東北日本の応力不均質と2011年東北沖地震による誘発地震活動
キーワード:2011年東北沖地震、誘発地震活動、応力、摩擦強度
大地震は、多くの場合、余震・誘発地震活動を伴うことが知られている。その発生原因は必ずしもよくわかっているわけではないが、主に次の3つの効果が考えられる。(1) 静的応力変化によるクーロン応力増加、(2) 動的応力変化によるクーロン応力増加、(3) 間隙水圧増加に伴う摩擦強度の減少である。
2011年 M9東北沖地震においては、その規模のため、誘発地震活動の活発化が、大すべり域から数百 km以上離れた内陸部にまで及んだ。この地震の場合、その規模が極めて大きいことから、現象を通常では解像できないような詳細な特徴まで拡大してみることができると期待される。したがって、誘発地震活動の発生メカニズムを理解する上で有用であると考えられる。本研究では、誘発地震活動の発生原因の理解のため、既存研究の結果を整理するとともに、東北沖地震前後の地震活動・メカニズム解・応力場の詳細な特徴を調べた。
東北沖地震による誘発地震活動は、クラスター状に分布し、その発生位置は、東北日本において以前から地震活動が活発であった場所と空間的に異なる場合が多い。メカニズム解としては、東北沖地震発生前に顕著であった東西圧縮の逆断層型とは大きく異なるものが見られる。それらの誘発地震活動に、応力テンソル・インバージョン法を適用すると、東北沖地震による静的応力変化とほぼ一致する応力方向が得られる [Yoshida et al., 2012]。このことは二つの可能性を示唆する;1) 2011年東北沖地震の静的応力変化により、応力の方向が回転。2) 東北日本の中で元々周囲と応力方向が異なる領域が存在し、その応力方向が静的応力変化と一致したことによる地震トリガー。
両者を区別する目的で、東北大学の読み取りデータ (1980-2003年) により新たにメカニズム解を推定し、それをYoshida et al. (2015a)で求められたデータセットと併せて応力推定に用いることで、東北地震前の応力の詳細な空間分布を調べた。東北日本の島弧・背弧域においては、最大水平圧縮方向が、非常に一様に西北西-東南東方向を向くことが知られているが、応力方向がそれと顕著に異なる小領域が複数見つかった。それらの領域は、東北沖地震後に、周囲と異なるメカニズム解で地震が発生した領域に近く、そのメカニズム解と調和的な応力方向を持つ。このことは、(2)の可能性を示唆する。
それらの領域は、1896年陸羽地震や、1904年庄内地震、1913年秋田仙北地震などの過去の大地震の震源域に対応しているように見える。最近発生した2008年岩手・宮城内陸地震や 2011年福島県浜通り地震においては、本震後の応力方向が空間変化を持ち、そのパターンが本震の静的応力変化とよく一致することから、それらの本震の静的応力変化により応力が擾乱した可能性が示唆されている [Yoshida et al., 2014; Yoshida et al., 2015a]。かつての同規模の地震の場合にも、同様の応力の回転が生じて、現在までそれが残っていることを意味しているのかもしれない。そのようなことは、東北日本における応力場と地形の相関から見積もられた差応力の絶対値 ~ 20 MPa [Yoshida et al., 2015b] が正しければ、充分に起こりそうである。あるいは、温度構造による影響 [芝崎・他,2015, SSJ]や、千島スリバーによる影響 (T. Yoshida et al.,2013)も含まれているかもしれない。
関東地方においては、東北沖地震前から活動が活発であった領域で、東北沖地震後に地震活動の活発化がみられる。これらの地域においては、広域応力と静的応力変化と方向が一致していることにより、応力が増加し活発化したと考えることができる [Yoshida et al., 2012].
一方で、静的応力変化では活発化が説明できない領域も存在する。山形-福島県境付近で活発化した顕著なクラスターは、静的応力変化によりクーロン応力が低下する領域に位置する [e.g. Terakawa et al., 2012]。このクラスターでは、地震の活発化が東北沖地震の発生直後ではないこと、地震活動の 明瞭なmigrationが見られること、大峠カルデラの真下に位置することから、間隙流体圧による影響が示唆されている。 吉田・長谷川 [2015, SSJ]では、メカニズム解の多様性を用いて、摩擦強度の時間発展を調べた。その結果、メカニズム解の多様性の変化に伴う、強度の時間的増加傾向が見られた。このことは、この活動が、東北沖地震後に地殻深部から上昇し拡散していった流体に起因すると考えれば理解できる。
以上のことは、地震発生の理解のために、応力・強度両方の理解が不可欠であることを示す。地震発生に至る応力・強度の時間発展について、詳細な情報を得ることは非常に難しいが、今回見つかったおよそ100年前の大地震震源域における空間不均質性の時間発展を追うことが、その重要な手掛かりになり得ると考えられる。
2011年 M9東北沖地震においては、その規模のため、誘発地震活動の活発化が、大すべり域から数百 km以上離れた内陸部にまで及んだ。この地震の場合、その規模が極めて大きいことから、現象を通常では解像できないような詳細な特徴まで拡大してみることができると期待される。したがって、誘発地震活動の発生メカニズムを理解する上で有用であると考えられる。本研究では、誘発地震活動の発生原因の理解のため、既存研究の結果を整理するとともに、東北沖地震前後の地震活動・メカニズム解・応力場の詳細な特徴を調べた。
東北沖地震による誘発地震活動は、クラスター状に分布し、その発生位置は、東北日本において以前から地震活動が活発であった場所と空間的に異なる場合が多い。メカニズム解としては、東北沖地震発生前に顕著であった東西圧縮の逆断層型とは大きく異なるものが見られる。それらの誘発地震活動に、応力テンソル・インバージョン法を適用すると、東北沖地震による静的応力変化とほぼ一致する応力方向が得られる [Yoshida et al., 2012]。このことは二つの可能性を示唆する;1) 2011年東北沖地震の静的応力変化により、応力の方向が回転。2) 東北日本の中で元々周囲と応力方向が異なる領域が存在し、その応力方向が静的応力変化と一致したことによる地震トリガー。
両者を区別する目的で、東北大学の読み取りデータ (1980-2003年) により新たにメカニズム解を推定し、それをYoshida et al. (2015a)で求められたデータセットと併せて応力推定に用いることで、東北地震前の応力の詳細な空間分布を調べた。東北日本の島弧・背弧域においては、最大水平圧縮方向が、非常に一様に西北西-東南東方向を向くことが知られているが、応力方向がそれと顕著に異なる小領域が複数見つかった。それらの領域は、東北沖地震後に、周囲と異なるメカニズム解で地震が発生した領域に近く、そのメカニズム解と調和的な応力方向を持つ。このことは、(2)の可能性を示唆する。
それらの領域は、1896年陸羽地震や、1904年庄内地震、1913年秋田仙北地震などの過去の大地震の震源域に対応しているように見える。最近発生した2008年岩手・宮城内陸地震や 2011年福島県浜通り地震においては、本震後の応力方向が空間変化を持ち、そのパターンが本震の静的応力変化とよく一致することから、それらの本震の静的応力変化により応力が擾乱した可能性が示唆されている [Yoshida et al., 2014; Yoshida et al., 2015a]。かつての同規模の地震の場合にも、同様の応力の回転が生じて、現在までそれが残っていることを意味しているのかもしれない。そのようなことは、東北日本における応力場と地形の相関から見積もられた差応力の絶対値 ~ 20 MPa [Yoshida et al., 2015b] が正しければ、充分に起こりそうである。あるいは、温度構造による影響 [芝崎・他,2015, SSJ]や、千島スリバーによる影響 (T. Yoshida et al.,2013)も含まれているかもしれない。
関東地方においては、東北沖地震前から活動が活発であった領域で、東北沖地震後に地震活動の活発化がみられる。これらの地域においては、広域応力と静的応力変化と方向が一致していることにより、応力が増加し活発化したと考えることができる [Yoshida et al., 2012].
一方で、静的応力変化では活発化が説明できない領域も存在する。山形-福島県境付近で活発化した顕著なクラスターは、静的応力変化によりクーロン応力が低下する領域に位置する [e.g. Terakawa et al., 2012]。このクラスターでは、地震の活発化が東北沖地震の発生直後ではないこと、地震活動の 明瞭なmigrationが見られること、大峠カルデラの真下に位置することから、間隙流体圧による影響が示唆されている。 吉田・長谷川 [2015, SSJ]では、メカニズム解の多様性を用いて、摩擦強度の時間発展を調べた。その結果、メカニズム解の多様性の変化に伴う、強度の時間的増加傾向が見られた。このことは、この活動が、東北沖地震後に地殻深部から上昇し拡散していった流体に起因すると考えれば理解できる。
以上のことは、地震発生の理解のために、応力・強度両方の理解が不可欠であることを示す。地震発生に至る応力・強度の時間発展について、詳細な情報を得ることは非常に難しいが、今回見つかったおよそ100年前の大地震震源域における空間不均質性の時間発展を追うことが、その重要な手掛かりになり得ると考えられる。