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[SSS30-05] 地震波効率から見た気象庁マグニチュードとモーメント・マグニチュードとの差
キーワード:地震波効率、モーメントマグニチュード、気象庁マグニチュード、スロースリップ、破壊伝播速度、破砕帯震源模型
1.はじめに:日本海溝沿いに発生する大きな地震について、気象庁マグニチュードMjとモーメントマグニチュードMwの差を見ると、宮城県沖の地震では小さいが、それ以外ではMwはMjよりも0.4程度大きい。例えば、気象庁マグニチュードMjは、地震波エネルギーの対数に比例し、モーメントマグニチュードMwは断層面での食い違い変位量の対数に比例する。地震波エネルギーは地震波効率に直接依存するが、モーメントの地震波効率依存性は小さい。したがって、地震波効率は MjとMwの差の成因の一つと考えられる。
地震波効率は破壊伝播速度の関数であり、破壊伝播速度が小さくなると、小さくなる。ここでは、MjとMwの差を地震波効率と破壊伝播速度との関係の観点から東北地方太平洋沖地震(2011/3/11、Mw9)を例に検討する。
2.理論:破砕帯震源模型*では、破砕帯は破砕岩で構成される領域(破砕岩領域)とアスペリティー領域からなる。また、破砕帯と母岩の境界面を断層面と呼ぶ。破砕岩領域の歪みは前の地震からの時間経過によって完全に解放されている。一方、アスペリティーは母体に等しい弾性を持つ。
アスペリティーの歪、すなわち、断層面間の変位が臨界値に達した時、断層の破壊が起こる。この時のエネルギー収支は、
Pa+Pb=Es+W、Es=f x Pb (1)
で表される。ここで、PaとPbはそれぞれアスペリティーと破砕帯を挟む母岩に蓄えられていた歪エネルギーであり、EsとWは地震波エネルギーと見かけの破壊エネルギーである。また、fは地震波効率である。
アスペリティーが破壊し、破砕岩領域に破壊が進行してすべり面が形成されるとき、その領域には回転が生じる。Wはこの回転で生じる断層面の法線方向の変位が母岩になす仕事にほぼ相当する。Pbは、平均応力降下量に等しい応力が働いている無限媒質に円形割れ目が生じたときのエネルギー解放量として計算される。
プロセスゾーン(広義の断層破砕帯)の厚さは断層長に比例する(Vermilye, J. M., and C. H. Scholz, 1998)。この関係を用いて破砕帯厚と断層長の関係が得られている*。Sato and Hirasawa (1973) は地震波効率と破壊伝播速度の関係を円形割れ目の場合について導出した。以下の断層の寸法と地震の規模やモーメントとの関係やマグニチュードと破壊伝播速度の関係に関する議論には、これらの関係を利用する。
3.結果:(1)から得られる結果は地震の規模に依存しない。f = 1の場合、歪エネルギーPbは全てEsになり、Paのみを消費してすべり面が拡大する。このとき、アスペリティーが断層面に占める面積の割合は2%で、最大である。また、破壊伝播速度はおよそ母体のS波速度である。
地震波効率がゼロ(f=0)に近い場合、Pbもすべり面の拡大に使われ、地震波は発生しない。また、破壊伝播速度はゼロに近づく。いわゆるスロースリップ・イヴェントを意味していると推察される。アスペリティーが断層面に占める割合は約0.74 %、したがって、応力降下量と断層の食い違い変位量もf = 1の場合の約0.37倍である。
EsとM、MoとMwの関係として、それぞれ、
logEs = 1.5M + 4.8(2)
LogMo = 1.5Mw + 9.1(3)
が使われる。ここで、Moはモーメント解放量である。断層面積を一定としたとき、MoとEsは地震波効率fの関数である。これからMw = M になるfを求めると約0.8になる。これは、多くの地震でfが 0.8 程度であることの反映であろう。
気象庁によれば**東北地方太平洋沖地震のMは8.4、Mwは9.0、Mo=4.3x10^22であり、破壊伝播速度は約1.8km/sでS波速度(約3.4km/s)の約0.53倍で小さい。これから地震波効率が約0.3と推定される。この場合のMwとMの差は約0.4であるから、Mjは約8.6に推定される. これはMwとMの差の一部はこの地震の地震波効率が小さいことに起因していることを示唆している。
注:*Yamamoto and Yabe, 2009; http://kynmt.in.coocan.jp/ ;(REFERENCE/23)
**http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/gizyutu/133/ALL.pdf
地震波効率は破壊伝播速度の関数であり、破壊伝播速度が小さくなると、小さくなる。ここでは、MjとMwの差を地震波効率と破壊伝播速度との関係の観点から東北地方太平洋沖地震(2011/3/11、Mw9)を例に検討する。
2.理論:破砕帯震源模型*では、破砕帯は破砕岩で構成される領域(破砕岩領域)とアスペリティー領域からなる。また、破砕帯と母岩の境界面を断層面と呼ぶ。破砕岩領域の歪みは前の地震からの時間経過によって完全に解放されている。一方、アスペリティーは母体に等しい弾性を持つ。
アスペリティーの歪、すなわち、断層面間の変位が臨界値に達した時、断層の破壊が起こる。この時のエネルギー収支は、
Pa+Pb=Es+W、Es=f x Pb (1)
で表される。ここで、PaとPbはそれぞれアスペリティーと破砕帯を挟む母岩に蓄えられていた歪エネルギーであり、EsとWは地震波エネルギーと見かけの破壊エネルギーである。また、fは地震波効率である。
アスペリティーが破壊し、破砕岩領域に破壊が進行してすべり面が形成されるとき、その領域には回転が生じる。Wはこの回転で生じる断層面の法線方向の変位が母岩になす仕事にほぼ相当する。Pbは、平均応力降下量に等しい応力が働いている無限媒質に円形割れ目が生じたときのエネルギー解放量として計算される。
プロセスゾーン(広義の断層破砕帯)の厚さは断層長に比例する(Vermilye, J. M., and C. H. Scholz, 1998)。この関係を用いて破砕帯厚と断層長の関係が得られている*。Sato and Hirasawa (1973) は地震波効率と破壊伝播速度の関係を円形割れ目の場合について導出した。以下の断層の寸法と地震の規模やモーメントとの関係やマグニチュードと破壊伝播速度の関係に関する議論には、これらの関係を利用する。
3.結果:(1)から得られる結果は地震の規模に依存しない。f = 1の場合、歪エネルギーPbは全てEsになり、Paのみを消費してすべり面が拡大する。このとき、アスペリティーが断層面に占める面積の割合は2%で、最大である。また、破壊伝播速度はおよそ母体のS波速度である。
地震波効率がゼロ(f=0)に近い場合、Pbもすべり面の拡大に使われ、地震波は発生しない。また、破壊伝播速度はゼロに近づく。いわゆるスロースリップ・イヴェントを意味していると推察される。アスペリティーが断層面に占める割合は約0.74 %、したがって、応力降下量と断層の食い違い変位量もf = 1の場合の約0.37倍である。
EsとM、MoとMwの関係として、それぞれ、
logEs = 1.5M + 4.8(2)
LogMo = 1.5Mw + 9.1(3)
が使われる。ここで、Moはモーメント解放量である。断層面積を一定としたとき、MoとEsは地震波効率fの関数である。これからMw = M になるfを求めると約0.8になる。これは、多くの地震でfが 0.8 程度であることの反映であろう。
気象庁によれば**東北地方太平洋沖地震のMは8.4、Mwは9.0、Mo=4.3x10^22であり、破壊伝播速度は約1.8km/sでS波速度(約3.4km/s)の約0.53倍で小さい。これから地震波効率が約0.3と推定される。この場合のMwとMの差は約0.4であるから、Mjは約8.6に推定される. これはMwとMの差の一部はこの地震の地震波効率が小さいことに起因していることを示唆している。
注:*Yamamoto and Yabe, 2009; http://kynmt.in.coocan.jp/ ;(REFERENCE/23)
**http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/gizyutu/133/ALL.pdf