日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)

17:15 〜 18:30

[SVC46-P08] 阿蘇4大規模火砕流堆積物の分布・体積と流動堆積機構

*宝田 晋治1星住 英夫1 (1.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:阿蘇、火砕流、大規模、流動堆積機構、分布、体積

火砕流は,火山体周辺に多大な災害をもたらす.特に大規模火砕流の場合は,1883年のクラカタウ火砕流による犠牲者数36,400人などで明らかなように被害も甚大となる.国内の大規模火砕流としては,90kaに発生した阿蘇4火砕流は到達距離が 160km以上に達しており,分布・体積の正確な把握や流動堆積機構の解明が重要となってきている.阿蘇4火砕流の詳細な影響範囲の把握のため,既存文献,ボーリングデータを元に,現地調査結果を加え,堆積物の分布を明らかにした上で.噴火当時の復元分布図を作成した.また,5kmのメッシュごとに層厚を復元し,高精度に噴出量を算出した.さらに,現地調査により,大規模火砕流堆積物の岩相変化.軽石及び岩片の最大粒径の変化に基づく,流動堆積機構の検討を行った.
現存する堆積物の分布については,産総研の5万分の1地質図幅を基本とし,刊行されていない地域に関しては20万分の1地質図幅や表層地質図の他,出版済みの文献を参照した.これらから阿蘇4火砕流堆積物の分布をGIS上でトレースし,現存分布図を作成した.また,噴火直後の推定分布図は.地形状況と噴火時点での地質を考慮した上で,文献情報,ボーリング情報を元に再現した.現存堆積物の分布は,火砕流が全方向に広がり,給源から北北東160km以上の萩市周辺にも到達し,南は,人吉盆地,宮崎市周辺まで到達したことを示している.現存堆積物の面積は,約2,500km2となった.層厚については,地質図,露頭データ.ボーリング柱状図を用いて,火砕流堆積物の上端高度,下端高度を5kmメッシュ毎に数点以上読み取った上で,メッシュごとの平均層厚を算出した.平均層厚は,カルデラリム周辺で最大約100mを示し,中流域では,0.2〜50m前後,下流域では0.01〜10m程度となった.GISソフトウェア上で,メッシュ毎の分布面積を算出し.層厚を乗じてメッシュ毎の見かけ体積を算出した.その上で,溶結,非溶結の量比などを勘案した上で,メッシュ毎の堆積物の平均密度を算出し,火砕流堆積物の体積(DRE)を算出した.その結果,降下テフラ分を除く阿蘇4火砕流堆積物の体積は,20-60km3 (現存体積),50-140km3(復元体積)となった.
阿蘇4火砕流の流動堆積機構の解明のため,火口近傍から160km遠方の露頭まで,カルデラから東方向と北北東方向の流域で現地調査を行い,岩相変化,軽石と岩片の最大粒径の変化を明らかにした.最大粒径は,ラグブレッチャ以外の火砕流本体に対して,各露頭毎に軽石と岩片についてそれぞれ10個長径と短径を測定し,最大と最小のサンプルを除いた8サンプルの算術平均から,各地点での最大粒径を求めた.流走距離ごとに,軽石の最大粒径をプロットする(図)と,給源(カルデラの中心付近, 中岳第1火口を仮定)から16kmまでの地点では,3〜9cmと比較的小さく,17〜20km地点では約28cm,26km地点の火砕流到達前の原地形の傾斜変換点付近(小国町周辺)では47cmと最大値を示し,その後,72km地点まで次第に減少し,3cmとなる.海を渡った山口県内では,最大粒径は,132〜162km地点で0.4〜0.9cmと非常に小さくなる.岩片の最大粒径は給源から6.5km地点では1〜2.5cmと比較的小さく,16km付近で11.2cmと最大になり,その後は単調に減少し,72km地点で0.6-0.9cmとなり,北九州の117km地点の折尾の露頭では,0.3cmと非常に小さくなる.山口県内の露頭では,肉眼で測定可能な岩片はほとんど含まれていない.これらの結果は予察であり,今後より詳細なユニット対比,岩相変化,粒径変化等の現地調査を予定している.
給源付近で軽石や岩片の最大粒径がやや小さいことは,大規模火砕流発生時に,この付近は噴煙柱の内部もしくは近傍で,乱流度が高く.火砕流の運搬能力が十分高かったことを示唆している.軽石の最大粒径が傾斜変換点の26km地点付近で最大となっていることは,火砕流が傾斜変換点に達し,ハイドローリックジャンプ等の現象で急激に運搬能力が落ちたため,運びきれなくなった軽石を多量に落としたことが原因である可能性が高い.軽石や岩片の最大粒径が単調に減少することも,乱流状態の火砕流の基底部から順次より大きい軽石や岩片が堆積したと考えることが可能である.堆積物の内部構造として,火砕流の内部には,逆級化した層厚20〜70cm程度の弱い層理構造が見られる場合がある.このことは,軽石同士の堆積時の相互作用を示唆し,火砕流の基底部に比較的高濃度な密度流が形成され,堆積サブユニットを形成しつつ順次堆積したモデルでうまく説明できる.海を渡った山口県内の火砕流は層厚10cm〜6m程度であり,軽石の最大粒径は1cm以下で非常に小さく,肉眼で認識できる岩片はほとんど含まれていない.部分的にやや高度の高い部分では,サージ状の岩相を示す.このことは,遠方まで運ばれた火砕流は,最後まで残った比較的低密度で細粒部分のみが160km以上の地点まで到達したことを示唆する.