日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)

17:15 〜 18:30

[SVC47-P25] 阿蘇中央火口丘群北西部,完新世火山噴出物の組成変化

*川口 允孝1長谷中 利昭1望月 伸竜1渋谷 秀敏1森 康2 (1.熊本大学大学院自然科学研究科、2.北九州市立自然史・歴史博物館)

キーワード:阿蘇、中央火口丘群、後カルデラ火山活動、完新世、古地磁気方位、化学組成

阿蘇中央火口丘群北西部における完新世火山噴出物の岩石記載とXRFによる化学組成分析を行い,近年の古地磁気学的研究の成果と対比した.また鉱物化学組成,全岩主成分化学組成を基に結晶分化作用のモデル計算を行い,その結果を元に微量元素でレイリーの最大分別結晶作用を仮定したモデル計算を行った.
杵島岳・往生岳・米塚の玄武岩質溶岩は組成に誤差を超えた違いがあり,同時期に活動した溶岩を区別する事ができた.三者の組成は全体として51.0-53.5 wt.% SiO2の範囲に収まり,FeO*/MgOは1.7-2.3,Rbは30-60 ppmの組成幅を持つ.往生岳・米塚溶岩はSiO2の組成幅は同じだが,FeO*/MgOが異なる値を示すため区別可能である.
古地磁気層序区分と対比した結果,杵島岳溶岩の組成は活動時期によって異なるが,往生岳・米塚溶岩の組成はほぼ同じことがわかった.杵島岳・往生岳・米塚溶岩は古地磁気方位の違いから複数回噴火および同時期噴火の可能性が指摘されている(弥頭ほか,2013;玉井,2015MS).2つの噴出期に分けられた杵島岳溶岩は噴出期に対応して明瞭に異なる組織と組成を示す.一方は米塚溶岩とよく似た特徴を示し,組織はインターグラニュラー,他方はインターサータル組織である.化学組成はSiO2 (wt.%) で約1%,FeO*/MgO比で約0.4の違いがある.米塚,往生岳溶岩の組成,斑晶鉱物組合せや岩石組織は全噴出期を通してほとんど変化がない.このことは往生岳・米塚のマグマ溜まりが深部から未分化なマグマの継続的な供給とマグマの流出が釣り合い,長期にわたって定常状態になるモデルで説明可能である.全活動期を通してみると杵島岳,往生岳,米塚の順に少しだけ未分化な組成へ遷移している.
古地磁気方位から同時期噴火の可能性が指摘されている杵島岳・往生岳・米塚の各火山噴出物は化学組成が異なりFeO*/MgO比によって区別できた.完新世において当地域には分化度の異なるマグマ溜まりが存在し,それぞれ異なる火口から同時期に溶岩流出がおきていた可能性がある.
また分別結晶作用のモデル計算の結果,完新世火山噴出物の組成変化は最も未分化な試料の単純な分別結晶作用では説明できないことがわかった.杵島岳溶岩,米塚溶岩はお互いに親子関係にある可能性があるが,往生岳溶岩はどの火山とも親子関係になく,異なるマグマ溜りを有していた可能性がある.また各火山の噴出物には単純な分別結晶作用では説明できないものが存在する.
以上をまとめると中央火口丘群では完新世において異なるマグマ溜まりを有する火山が同時期に活動しながら,活動の中心が杵島岳,往生岳,米塚へと徐々に移っていき,より分化度の低いマグマの活動が卓越していくという活動変遷史が考えられる.また同時期に噴出した往生岳・米塚溶岩の組成が異なり,全噴出期を通して変化していないこと,両火山噴出物間に親子関係がないことから,異なるマグマ溜りを有していた可能性が考えられる.