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[SVC48-P07] 池月凝灰岩(鬼首池月テフラ)火砕流堆積物の噴火過程
キーワード:池月凝灰岩、鬼首池月テフラ、向町・新庄盆地、鬼首カルデラ
はじめに:宮城県北部には鬼首・鳴子カルデラを起源とした火砕流堆積物が多く分布するが、その中で最大規模のものが0.2~0.3Maに噴出した池月凝灰岩(O-Ik:鬼首池月テフラ)である。池月凝灰岩は、脊梁山脈東側にあたる宮城県側では遺跡との関連から詳細に調査がなされ、鬼首・鳴子起源の他のテフラとの関係も明らかにされている。一方、鬼首カルデラの西側には神室山などの地形的高所が存在するため、その分布は制限されるが、向町盆地・新庄盆地において確認されている(八木・早田,2002;松浦,2003)。脊梁東側の池月凝灰岩は、降下火砕物とその上位の厚い火砕流堆積物(以下、池月火砕流)からなる。複数のフローユニットからなる池月火砕流は岩相の相違により溶結した下部層と、溶結程度が低く軽石に富む上部層の2層に区分される(阪口・山田,1988)。火砕流下部層は、鬼首カルデラから約20km内に分布し、谷埋め部分での層厚は100m以上である。上部層は下部層よりも遠方まで達しており、既存の谷を下部層が埋め尽くし、上部層はその上位を遠方まで流下したと解釈されている(阪口・山田,1988)。上下の2層との対応は不明であるが、池月凝灰岩中では火山ガラスの屈折率の鉛直変化が認められる(松浦,2003)。以上のように脊梁東側の池月凝灰岩について多くの知見が得られているが、脊梁西側に流下した火砕流については、その分布を含め不明瞭な点が多い。そのため本報告では、詳細な野外調査に加え、主に火砕流中の火山ガラス組成を用いて向町から新庄盆地にかけての池月火砕流の分布を明らかにし、それを基に池月火砕流の流下・堆積機構について検討を行う。
池月凝灰岩のガラス組成:池月凝灰岩のすべての層序が保存されている脊梁東側の栗原市小僧の露頭において火砕物試料を採取し、FE-SEM-EDSによる火山ガラスの化学組成分析を行った。その結果、火山ガラス組成は、K2O,FeO,Al2O3で異なる2グループに区分された。この2グループは前述の火砕流上部層(K2O-rich, FeO-poor)と下部層(K2O-poor, FeO-rich)に対応しており、下位の降下火砕物は下部層と同じ傾向を示した。松浦(2003)による火山ガラスの屈折率の鉛直変化もこれに対応すると考えられる。以上のように池月火砕流では上下層で火山ガラス組成が異なることから、この相違を利用して両層の分布を確認することが可能である。
向町盆地:盆地南西側は溶結した総層厚100m以上の火砕流堆積物が台地を形成している。盆地北側には砂礫層からなる段丘があり、段丘最上位を厚さ数mの2層の火砕流堆積物が覆っているのが確認された。南西側の溶結火砕流はすべて池月凝灰岩であり、段丘下位の低地を厚く埋めて堆積したといえる。一方、北側の段丘上の火砕流堆積物は池月凝灰岩とその上位の下山里凝灰岩であった。段丘上の池月凝灰岩の出現高度は南側火砕流台地の表面高度(標高290m)とほぼ一致する。岩相と火砕流中の火山ガラス組成から、向町盆地に分布する池月凝灰岩はすべて下部層に相当し、上部層は認められない。
新庄盆地:盆地中央が地殻変動により沈降しているため、盆地東西の丘陵地において火砕流堆積物が観察され、松浦(2003)と同様に池月凝灰岩以降のものが確認された。新庄盆地に分布する池月凝灰岩は下位の降下火砕物を伴い、層厚は最大で60mに達するが、いずれも非溶結である。火山ガラス組成からは上部層・下部層の両層が認められ、上部と下部の境界が明瞭な地点は少ないが、上部層の方が下部層よりも厚い地点も多く認められる。
池月火砕流の流下・堆積過程:池月凝灰岩の火砕流堆積物は、給源である鬼首カルデラの北西側に地形障壁があるため、地形的に低い南西側から向町盆地へ流入した後に新庄盆地へと達したと推定される。新庄盆地への通り道である向町盆地中では火砕流下部層のみで上部層が存在していない。一方で新庄盆地に上部層が到達していることは、宮城県側と同様に下部層が埋めた表面を上部層が流下したためとも考えられるが、脊梁東側ではその流路には下部層の上に厚い上部層が堆積している。そのため、西側でも同様なプロセスを考えた場合、向町盆地内に上部層が残されていないことの説明が難しい。一方で段丘面状に薄い下部層が載り、堆積面の標高が一致していることを考慮すると、これらは台地を造った下部層の堆積上限を示している可能性が高い。以上の池月火砕流の分布について、上部層は下部層上面を流れたのではなく、下部層中に刻まれたチャネル状の(現在の小国川のような)谷を流下して新庄盆地まで達したとすると説明可能であると考えられる。この場合、大量の上部層が新庄盆地に達していることを考慮すると、ある程度深い谷の形成が必要となることから、池月凝灰岩の噴出時には、上部層と下部層の間に時間間隙が存在した可能性が示唆される。
池月凝灰岩のガラス組成:池月凝灰岩のすべての層序が保存されている脊梁東側の栗原市小僧の露頭において火砕物試料を採取し、FE-SEM-EDSによる火山ガラスの化学組成分析を行った。その結果、火山ガラス組成は、K2O,FeO,Al2O3で異なる2グループに区分された。この2グループは前述の火砕流上部層(K2O-rich, FeO-poor)と下部層(K2O-poor, FeO-rich)に対応しており、下位の降下火砕物は下部層と同じ傾向を示した。松浦(2003)による火山ガラスの屈折率の鉛直変化もこれに対応すると考えられる。以上のように池月火砕流では上下層で火山ガラス組成が異なることから、この相違を利用して両層の分布を確認することが可能である。
向町盆地:盆地南西側は溶結した総層厚100m以上の火砕流堆積物が台地を形成している。盆地北側には砂礫層からなる段丘があり、段丘最上位を厚さ数mの2層の火砕流堆積物が覆っているのが確認された。南西側の溶結火砕流はすべて池月凝灰岩であり、段丘下位の低地を厚く埋めて堆積したといえる。一方、北側の段丘上の火砕流堆積物は池月凝灰岩とその上位の下山里凝灰岩であった。段丘上の池月凝灰岩の出現高度は南側火砕流台地の表面高度(標高290m)とほぼ一致する。岩相と火砕流中の火山ガラス組成から、向町盆地に分布する池月凝灰岩はすべて下部層に相当し、上部層は認められない。
新庄盆地:盆地中央が地殻変動により沈降しているため、盆地東西の丘陵地において火砕流堆積物が観察され、松浦(2003)と同様に池月凝灰岩以降のものが確認された。新庄盆地に分布する池月凝灰岩は下位の降下火砕物を伴い、層厚は最大で60mに達するが、いずれも非溶結である。火山ガラス組成からは上部層・下部層の両層が認められ、上部と下部の境界が明瞭な地点は少ないが、上部層の方が下部層よりも厚い地点も多く認められる。
池月火砕流の流下・堆積過程:池月凝灰岩の火砕流堆積物は、給源である鬼首カルデラの北西側に地形障壁があるため、地形的に低い南西側から向町盆地へ流入した後に新庄盆地へと達したと推定される。新庄盆地への通り道である向町盆地中では火砕流下部層のみで上部層が存在していない。一方で新庄盆地に上部層が到達していることは、宮城県側と同様に下部層が埋めた表面を上部層が流下したためとも考えられるが、脊梁東側ではその流路には下部層の上に厚い上部層が堆積している。そのため、西側でも同様なプロセスを考えた場合、向町盆地内に上部層が残されていないことの説明が難しい。一方で段丘面状に薄い下部層が載り、堆積面の標高が一致していることを考慮すると、これらは台地を造った下部層の堆積上限を示している可能性が高い。以上の池月火砕流の分布について、上部層は下部層上面を流れたのではなく、下部層中に刻まれたチャネル状の(現在の小国川のような)谷を流下して新庄盆地まで達したとすると説明可能であると考えられる。この場合、大量の上部層が新庄盆地に達していることを考慮すると、ある程度深い谷の形成が必要となることから、池月凝灰岩の噴出時には、上部層と下部層の間に時間間隙が存在した可能性が示唆される。