日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG45] 気候変動への適応とその社会実装

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:石川 洋一(海洋研究開発機構)、渡辺 真吾(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、大楽 浩司(防災科学技術研究所)、座長:渡辺 真吾(海洋研究開発機構)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(防災科学技術研究所)

11:00 〜 11:15

[ACG45-08] 吉野川流域における気候変動の影響評価と流域自治体の適応策としての防災政策の展開

*吉村 耕平1那須 清吾1村井 亮介1Sanchez Patricia2 (1.高知工科大学、2.フィリピン大学ロスバニョス校)

キーワード:吉野川、適応策、水文モデル、ダウンスケーリング、ダム運用、氾濫解析

気候変動適応策をより具体的な政策に繋げるためには、地域の特性や特有の災害リスクを把握した上で、気候変動予測データをダウンスケーリングする必要がある。 本研究では、吉野川を対象に洪水リスク・渇水リスクの両面でのより具体的な気候変動の影響評価を行う。吉野川は、吉野川総合開発により、流域内に多数のダムが建設され、洪水制御を行うともに、四国4県に水を供給している。また上流部などの山地河川では土砂災害などが多発し、下流部では流域の低平地で内水氾濫の被害が発生するなど、多様な災害リスクをかかえる。

具体的な流れとしては、全球モデルのアウトプットを統計的ダウンスケーリングしたデータを流出モデルに入力し、河川流量を予測する。その上で、ダムの運用をシミュレーションし、治水・利水の両面でのダムの効果を検証する。吉野川水系において最大のダムである早明浦ダムは、渇水による水位低下がよく報道されるが、利水容量を使い切りダム水位が下がった状況で台風が襲来し、一気に水位を回復するという事例も見られる。この場合、渇水で水位が下がっていなければ、ダムの洪水制御容量だけでは、下流の水位を安全なレベルまで低下させられなかったということでもある。このため、高水・低水の両面で正確なシミュレーションが行えるモデルが重要である。また洪水・渇水の単体での解析だけではなく、降雨の間隔なども考慮した時系列での解析も重要である。流出モデルは高水・低水ともに再現性の高いWEB-DHMを利用した。
またSI-CATで構築された統計的ダウンスケーリングモデルは1kmメッシュの高解像度のものであるが、日データであるため時間的ダウンスケーリングを行う必要がある。吉野川に近年最大の出水をもたらした2004年の台風16号は、同じ降水量でもより強い出水を引き起こしたため、この降雨波形を利用して時空間分布を持つ降雨データを作成した。

流出解析によって得られた流量を利用し、流域内の早明浦ダムなどのシミュレーションを行った。洪水頻度の増大や確率流量はGCM間で共通の傾向が見られた。しかし、渇水リスクについては、平均的な流量や利水補給に必要なダムの容量などいくつかの基準で分析をおこなったが、どのような点に着目するかで傾向が異なった。ダムの運用については、単体での洪水・渇水の規模のみならず、それが1年の間にどのような間隔や組み合わせで発生するのかが重要であることが示唆された。また適応策として、ダムの運用ルールの変更や、取水量の削減の効果などの検証も行った。

さらに、SI-CATで政策協議を行っている吉野川下流域のある自治体を対象に氾濫解析を行った。同自治体は町内に低平地が広がり、内水氾濫のリスクが高い。また、吉野川は東に向いて流れる長大な河川であり、下流部では台風が通過したあとに上流部から洪水が流下してくる。そのため、内水氾濫で避難ルートが途絶し、外水氾濫のリスクにさらされる、といった想定が考えられることから、内水氾濫単体での解析とともに、外水氾濫単体での解析と、統合的な解析を行った。従来の氾濫解析では、標高データの制約などから50mなど比較的大きなメッシュとなるが、このメッシュサイズでは微地形の再現が難しい。また、内水氾濫は数十センチといった小さな浸水深でも避難ルートには影響を及ぼすため、標高データもセンチ単位での精度が求められる。そのため、国土地理院が近年公開を開始しているレーザープロファイラーによって生成された5mメッシュのDEMを活用し、10mメッシュで超高解像度氾濫解析を行った。

その上で内水氾濫の解析結果を自治体と共有し、小河川や河道跡のわずかの標高が低い地点で浸水が発生することを確認し、過去の浸水記録などからその再現性を検証した。同時に、大規模な出水を想定し、堤防が損壊して外水氾濫が発生した場合の浸水情報も動的な形で提示した。また、道路マップと重ねることで、避難ルートの安全性を、避難施設や福祉移設の位置情報と重ね合わせることで、災害弱者の避難誘導などの命を守る施策の基盤となる知見が得られた。