日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋物理学一般

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 104 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:岡 英太郎(東京大学大気海洋研究所)、川合 義美(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:西川 はつみ

11:15 〜 11:30

[AOS18-09] 確率分布関数を導入した海洋モデルによる高解像度モデル開発への指針:北極海の将来予測への応用を例として

*池田 元美1 (1.北海道大学)

キーワード:モデル開発指針、確率分布関数、微小スケール鉛直対流

中規模現象やさらに微小スケールの鉛直対流(プルーム)と相互作用する熱塩循環を表す数値モデルの開発には、膨大な計算機資源と開発研究が必要である。このような高解像度モデルの開発に対する指針を示すために、海水温(T)・塩分濃度(S)座標上の確率分布関数(PDF)を基盤とする新たなモデルを提起する。ここで、PDFはひとつの空間点における水平方向の不均一性を示し、T・S分布の確率のみを表すが、位置は特定しない。PDFの時間変動を基礎方程式として数値的に解く。昨年の発表以降、さらに現実を的確に表す要素を取り入れたので、現在までの進捗を示すこととした。

最初に単純なボックスモデルを基礎として、北極海表層(200m厚)をボックスで表し、高塩分(高密度)の亜表層と鉛直混合すると共に、高温高塩分の大西洋とは海水交換する。ボックスには海氷があり、大気冷却と淡水フラックスを受ける。このモデルは、大西洋から流入する海水を低塩化して戻す塩分駆動解、および亜表層と完全に混合する対流解を持っている。

地球温暖化が進行するに従って、北極海の海氷が減少するが、同時に大西洋から流入する海水は、バレンツ海を経由する際に海氷形成が低下するため塩分追加が減り、北極海表層と亜表層の密度差が小さくなる。その結果、北極海表層と亜表層の鉛直混合が強まる可能性がある。

PDFの不均一性は海水流入と大気などの駆動力による変動によって増幅し、ボックス内の水平混合によって低下する。亜表層との鉛直混合は、PDFをその(T, S)に引き込む。PDFボックスモデルは、外力に伴う不均一性増幅を与えると、簡略ボックスモデルの塩分駆動解に近い解と、対流解に近い解の2つを持つ。他の条件は同じにして、不均一性を2倍にするか、あるいは亜表層塩分を0.1だけ下げると、対流解に近い解のみに収束する。すなわち、近い将来において、北極海表層が亜表層と混合し、プルームが発達して、海氷が顕著に減少する状態が起こりうることが示された。

PDFボックスモデルをより現実的にするため、大西洋からの流入を高塩分の部分に拡散させ、太平洋水からの低塩分水を特定のT・S点に与えた上で、その水は低塩分の部分と混合し、鉛直混合しているT・S点は高塩分の部分と混合するモデルを作成した。太平洋水起源の水塊は存続したまま、大西洋水の多い部分は鉛直混合する解が得られた。亜表層水の低塩化に対する感度は多少弱まり、水平不均一性に対する感度は非常に弱くなった。

本研究ではPDFボックスモデルを用い、大西洋水の多い海域でプルームが発達し、鉛直混合しやすいことを示した。将来予測への示唆としては、海氷リード中の結氷とプルームまで考慮したモデルが必要である。次の試みは中規模渦を解像しない低解像度モデルにPDFを導入することである。さらに、中規模渦を解像する数値モデルの各グリッドにPDFを導入して、サブグリッド現象を表すことも可能な選択肢である。

文献:Ikeda, M., 1997: J. Phys. Oceanogr., 27, 2576-2589.