日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT19] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構、共同)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

[HTT19-P10] 秋田県後生掛温泉泥火山地帯における地中レーダー探査

*井上 雄介1筒井 智樹1坂中 伸也1 (1.秋田大学国際資源学研究科)

キーワード:泥火山、地中レーダー、比誘電率

泥火山とは,異常高間隙水圧を持った泥が泥ダイアピルとして上昇し,陸上に噴出したものと定義されている (脇田, 1996).
本研究では,秋田県八幡平の後生掛温泉泥火山地帯をフィールドにし,近い将来に新たに泥火山が地表に噴出してくる場所を推定するために,対象深度を約10 m程度として地中レーダー探査を行った.
 後生掛温泉の泥火山を対処にした先行研究として,松葉谷ほか (1974)により,同位体地球化学的研究が,湯原ほか (1985)により地温観測による地熱異常部のマッピングに関する研究,江原・北村 (1985)により常時微動観測による地熱異常部の巣おい底に関する研究が行われている.しかし,将来噴出する泥火山を予測することを目的とした地球物理学的研究は行われていない.泥火山は,防災という観点でも重要で世界各地で泥火山の噴出で人々の生活に被害を与えている事例がある.2006年インドネシアのシドアルジョの泥噴出事故では,ガス田から高温の泥水が突如噴出し,噴出した泥によって,民家,工場及び主要幹線道路は泥水に埋まった (谷川・嶋本, 2008).このような背景からも今後泥火山が地表に噴出してくる位置を事前に予測できれば泥火山防災に貢献できると考え,本研究を行った.
 本研究では,GSSI社製SIR3000地中レーダー探査装置を用いて探査を行った.使用アンテナは100 MHz, 270 MHz, 400 MHz, 900 MHzの4種類を使用し,測定方法はプロファイル測定によって探査を行った.探査測線は後生掛温泉温泉自然観察路の立ち入り禁止区域を除く全ての歩道を網羅できるように設定した.階段での探査は100 MHz, 270 MHz, 400 MHzアンテナの場合は板で段差を補い,その上にアンテナを走査した.900 MHzアンテナでは,極浅部の精密な情報を調査することを目的としていることを考慮して,階段上の計測は避けることにした.データ解析は地中レーダー探査用解析プログラムRADANを用いて,時間ゼロ補正,FIRフィルター処理,バックグラウンド除去処理を行い,反射断面を作成した.粘度質の地層が周辺に分布していることを考慮して,比誘電率を10.0として深度を決定した.
 100 MHz, 270 MHz, 400 MHzアンテナによる探査結果では,大湯沼南側の測線における白色変質帯の領域で明瞭な反射が現われた.900 MHzアンテナによる探査結果からは,変質帯による異常は見られなかったが,遊歩道脇の空洞による反射を捉えることができた.また,遊歩道下にパイプが通過している位置では双曲線波形の反射パターンが現われ,深さ0.4~0.5 m付近にコンクリートの路体と下層の路床との境界面と見られる連続的な反射断面が現われた.900 MHzアンテナによる探査では歩道のメンテナンスには役立つことが示唆される.
 現在の探査結果からは将来地表に噴出してくる可能性のある泥火山の位置の特定までは至っていない.今後の課題は,反射法地震探査用解析プログラムSeismic Un*xを用いてデコンボリューションフィルター処理,マイグレーション処理などの反射法地震探査データ処理法も適用しながら,反射断面の構造解釈の精度を向上させたい.また,泥火山では高電気伝導度の泥水が上昇してくると考えられているため,地中レーダー探査による反射断面の構造解釈を補完するデータとして電気伝導度分布の情報が有用である.そのため,電磁探査の一種である広帯域周波数電磁センサーGEM-2の適用によって電気伝導度分布を明らかにする必要があると考える.また,将来噴出する可能性のある泥火山を特定するために,フォワードモデリングにより泥火山の異常による理論的な波形を構築する予定である.