[MIS17-P13] 日本海東縁, 上越沖ガスチムニー周辺堆積物の蛍光X線分析結果
キーワード:表層型ガスハイドレート、ガスチムニー構造、海底堆積物、蛍光X線分析、バリウムフロント
日本海東縁の表層型メタンハイドレートを胚胎するガスチムニー構造周辺で採取された泥質堆積物の基本特性を解明する目的で表層堆積物の元素分析を実施した。日本海東縁のメタンハイドレートは, 海底下数十m程度の比較的浅部の泥質堆積物中に塊状に産する表層型であり, ホストとなる泥質堆積物の元素組成は, 周辺陸域・供給源地の地質や風化条件,日本海海底の堆積環境, さらにメタンハイドレートの生成に関わる初期続成環境の変化を反映している。本研究では, 2017年夏の学術調査航海(1K17)で上越沖海域の海鷹海脚と鳥が首海脚において採取された泥質堆積物の主成分及び微量成分組成を調べ,特に泥質堆積物に含まれるバリウムと硫酸-メタン境界(SMT)の関係と上越海域における元素の供給源について考察する。
試料は, 1K17航海において上越海域の海鷹海脚(ポックマークサイト)と鳥が首海脚(ガスチムニーマウンド周辺)から得られた4本のピストン・コア(PC1704, PC1706,PC1709, PC1713)から採取された104個の泥質試料を使用した。元素分析は, ガラスビード(試料:融剤=1:2)法によって作成した試料を蛍光X線装置 RIGAKU製 Supermini200で測定し, 検量線法によって主成分10元素(Si, Ti, Al, Fe, Mn, Mg, Ca, Na, K, P),微量成分20元素 (Sc, V, Cr, Co, Ni, Cu, Zn, As, Rb, Sr, Y, Zr, Nb, Mo, Cs, Ba, Nd, Pb, Th, U)の定量分析をおこなった。前処理として, 海水に含まれる塩の影響を取り除くため脱塩処理と強熱減量をおこなった。強熱減量は, Heiri (2001)の方法に従い550℃で4時間加熱し有機物を燃焼させ, さらに950℃で2時間加熱することで, 含水量, 炭酸塩などの揮発成分量を見積もった。これら成分の層序変化から,周辺地質と日本海の環境変化を明らかにする。
海底堆積物試料の蛍光X線分析の結果, 最も多い成分であるSiO2の含有量は55.9~63.5%の範囲を示し, TiO2は0.54~0.68%, Al2O3は13.6~16.5%, Fe2O3は4.6~8.2%, MnOは0.05~0.14%, MgOは2.6~3.3%, CaOは1.3~5.6%, K2Oは2.4~2.9%, Na2Oは2.1~3.3%, P2O5は0.12~0.27%, 強熱減量は550℃で2.8~8.0%, 950℃では5.6~10.0%の範囲であった。元素相互の相関係数に基づく解析, 因子分析により, MgO-Cr-Ni成分, SiO2-Zn成分, TiO2-Al2O3-K2O成分, CaO-Sr成分, Fe2O3-MnO 成分はそれぞれ良い正の相関を示し,同様の地質過程,変動メカニズムを示唆する。MgO-Cr-Ni成分は糸魚川地域に分布する超塩基性岩を供給源とする陸源砕屑物由来, SiO2-Zn成分は珪藻・放散虫など海洋の生物源オパール起源と海洋生物の栄養塩として重要な微量元素であるZnとの組み合わせと考えられる。さらに, TiO2-Al2O3-K2Oは風化が進み斜長石が失われた陸源砕屑物, CaO-Sr成分は有孔虫などの石灰質微化石やメタンに由来する自生炭酸塩鉱物を反映すると考えられる。 Fe2O3-MnO成分は海底表層において溶存酸素に富む海水と表層堆積物の接触による酸化沈殿によるなどによる可能性が示唆される。海鷹海脚のポックマークサイト (PC1709) において,間隙水の硫酸イオン濃度変化から見積もった硫酸-メタン境界(SMT)の直上でバリウム濃度の極大値(約590 ppm, 2.6 mbsf付近)が認められた。鳥が首海脚のガスチムニーマウンド(PC1706)ではSMTの上部数十cmの深度にバリウムの濃集帯(最大約750 ppm,0.6 mbsf付近)が認められた。海底堆積物中でのバリウムの分布と挙動はメタンハイドレートの存在や間隙水の硫酸イオン濃度などと密接な関係をもつことが知られている(Dicken et al., 2001; Riedinger et al., 2006; Glen et al., 2007)。海底堆積物の間隙水に溶存した状態で存在するバリウムイオン(Ba2+)は硫酸イオン(SO42-)の影響によりSMTの直上でBaSO4として沈殿するが, 埋没が進むと硫酸イオンが消滅するため分解する。分解によって生成したBaイオンはSMTより上位に拡散・移動し,再びBaSO4として再沈殿し, BaSO4を濃縮したバリウムフロントを形成する。本研究海域のPC1709のポックマークサイトでは, SMT直上に認められるバリウムの濃集帯は現在のバリウムフロントが形成されていることが予想され, SMTよりも数十cm上部にあるPC1706は過去のバリウムフロントの可能性がある。PC1709下部に認められる弱いピーク(4.6, 6.2 mbsfなど)も, 過去のバリウムフロントに存在したBaSO4の溶け残りかもしれない。
試料は, 1K17航海において上越海域の海鷹海脚(ポックマークサイト)と鳥が首海脚(ガスチムニーマウンド周辺)から得られた4本のピストン・コア(PC1704, PC1706,PC1709, PC1713)から採取された104個の泥質試料を使用した。元素分析は, ガラスビード(試料:融剤=1:2)法によって作成した試料を蛍光X線装置 RIGAKU製 Supermini200で測定し, 検量線法によって主成分10元素(Si, Ti, Al, Fe, Mn, Mg, Ca, Na, K, P),微量成分20元素 (Sc, V, Cr, Co, Ni, Cu, Zn, As, Rb, Sr, Y, Zr, Nb, Mo, Cs, Ba, Nd, Pb, Th, U)の定量分析をおこなった。前処理として, 海水に含まれる塩の影響を取り除くため脱塩処理と強熱減量をおこなった。強熱減量は, Heiri (2001)の方法に従い550℃で4時間加熱し有機物を燃焼させ, さらに950℃で2時間加熱することで, 含水量, 炭酸塩などの揮発成分量を見積もった。これら成分の層序変化から,周辺地質と日本海の環境変化を明らかにする。
海底堆積物試料の蛍光X線分析の結果, 最も多い成分であるSiO2の含有量は55.9~63.5%の範囲を示し, TiO2は0.54~0.68%, Al2O3は13.6~16.5%, Fe2O3は4.6~8.2%, MnOは0.05~0.14%, MgOは2.6~3.3%, CaOは1.3~5.6%, K2Oは2.4~2.9%, Na2Oは2.1~3.3%, P2O5は0.12~0.27%, 強熱減量は550℃で2.8~8.0%, 950℃では5.6~10.0%の範囲であった。元素相互の相関係数に基づく解析, 因子分析により, MgO-Cr-Ni成分, SiO2-Zn成分, TiO2-Al2O3-K2O成分, CaO-Sr成分, Fe2O3-MnO 成分はそれぞれ良い正の相関を示し,同様の地質過程,変動メカニズムを示唆する。MgO-Cr-Ni成分は糸魚川地域に分布する超塩基性岩を供給源とする陸源砕屑物由来, SiO2-Zn成分は珪藻・放散虫など海洋の生物源オパール起源と海洋生物の栄養塩として重要な微量元素であるZnとの組み合わせと考えられる。さらに, TiO2-Al2O3-K2Oは風化が進み斜長石が失われた陸源砕屑物, CaO-Sr成分は有孔虫などの石灰質微化石やメタンに由来する自生炭酸塩鉱物を反映すると考えられる。 Fe2O3-MnO成分は海底表層において溶存酸素に富む海水と表層堆積物の接触による酸化沈殿によるなどによる可能性が示唆される。海鷹海脚のポックマークサイト (PC1709) において,間隙水の硫酸イオン濃度変化から見積もった硫酸-メタン境界(SMT)の直上でバリウム濃度の極大値(約590 ppm, 2.6 mbsf付近)が認められた。鳥が首海脚のガスチムニーマウンド(PC1706)ではSMTの上部数十cmの深度にバリウムの濃集帯(最大約750 ppm,0.6 mbsf付近)が認められた。海底堆積物中でのバリウムの分布と挙動はメタンハイドレートの存在や間隙水の硫酸イオン濃度などと密接な関係をもつことが知られている(Dicken et al., 2001; Riedinger et al., 2006; Glen et al., 2007)。海底堆積物の間隙水に溶存した状態で存在するバリウムイオン(Ba2+)は硫酸イオン(SO42-)の影響によりSMTの直上でBaSO4として沈殿するが, 埋没が進むと硫酸イオンが消滅するため分解する。分解によって生成したBaイオンはSMTより上位に拡散・移動し,再びBaSO4として再沈殿し, BaSO4を濃縮したバリウムフロントを形成する。本研究海域のPC1709のポックマークサイトでは, SMT直上に認められるバリウムの濃集帯は現在のバリウムフロントが形成されていることが予想され, SMTよりも数十cm上部にあるPC1706は過去のバリウムフロントの可能性がある。PC1709下部に認められる弱いピーク(4.6, 6.2 mbsfなど)も, 過去のバリウムフロントに存在したBaSO4の溶け残りかもしれない。