16:15 〜 16:30
[HDS10-04] スペクトル解析を用いた津波地震(スロー地震)の震度及び気象庁マグニチュードの考察
キーワード:スペクトル、津波地震、震度、マグニチュード
1.はじめに
通常の地震に比べて1~20秒の周期帯で地震波エネルギーが極端に小さく、かつ大きな津波を発生させる津波地震(スロー地震)が知られている(Polet and Kanamori,2000)。2万人を超える死者を出した1896年明治三陸地震は、巨大な津波が来襲する一方揺れは小さく、津波地震(スロー地震)の特徴と整合する。津波避難に充てられる時間をできるだけ確保しつつ続報が伝わらない可能性があることも踏まえて安全サイドに立った津波警報第1報を迅速に発表(気象庁,2011)するため気象庁は、通常、周期6秒程度までの地震波の解析により速やかに気象庁マグニチュード(MJ)を計算して津波予測を行う。このため、津波地震(スロー地震)についてはMJが過小となって津波予測も過小となる可能性がある。
津波地震(スロー地震)について、どのような監視解析が有効かを検討することが重要であるが、震源に近い地域での地震波形記録は見当たらない。そこで遠地の波形記録があり、津波地震(スロー地震)とされる1992年9月2日のニカラグアの地震(Mw7.6,GlobalCMTによる)について、遠地記録をもとに震源スペクトルを推定し、それをもとにMJの決定、震度について考察した。
2.データ及び方法
震央距離30~100°の遠地の地震波形のP相(PP相が出現するよりも前までの区間)の上下動の変位記録から震源スペクトルを推定する方法が知られている(例えばHouston and Kanamori,1986)。また、震源破壊過程の解析では、P相の上下動のみならずS相(SS相が出現するよりも前までの区間)の水平動のTransverse成分の変位も用いられる(例えばKikuchi et al.,1993)。そこで、P相、S相それぞれを用いて震源スペクトルを推定した。
使用した波形は、できるだけ長周期側の解析ができるよう、STS-1による震央距離70~90°の記録を、IRIS(Incorporated Research Institutions for Seismology)のWebサイトからダウンロードした。短周期側については、比較的震源に近くS/N比がよい35~55°の記録を使用した。
解析に必要な走向やすべり角の断層パラメータ等はGlobal CMT Project による値を入手、速度構造にIASP91及びcrust2.0を利用し、放射特性や幾何減衰等の計算は Kikuchi and Kanamori のTeleseismic Body-Wave Inversion Programのサブルーチンを用いて行った。
1992年ニカラグア地震について震源スペクトルを推定した。また比較のため、概ねマグニチュードが6.5以上であり、計測震度の観測値が得られていて、東北地方太平洋沖のプレート境界で発生した海溝型地震についても推定した。
3.結果
1992年ニカラグア地震の震源スペクトルについて、概ね200秒~1秒の間のスペクトル振幅を推定した。Polet and Kanamori(2000)の震源スペクトルの結果で検証し、よく一致していることを確認した。一般にω2モデルでMw7.6の地震ではコーナー周波数は0.039Hz(周期で26秒)程度と見積もられる。しかし、ニカラグア地震では0.005Hz(周期で200秒)程度の可能性がある。そして、全体的に解析できた周期帯でスペクトル振幅は通常のMw7.6よりも小さい。1~20秒の周期帯の地震波をあまり出さずに長時間にわたって破壊が継続したことがあらためて示唆される。
震度に関係のある周期2~1秒の間のスペクトル振幅の大きさについて考察したところ、2005年12月2日の宮城県沖の地震(MJ 6.6)と同程度であった。この地震の最大震度は3であり、仮に1992年ニカラグア地震と同じ地震が東北地方太平洋沖で発生した場合、最大震度も同程度にとどまる可能性がある。
気象庁が地震を監視しMJの計算に用いている地震計の周期特性が概ね6秒程度までであることから、周期6~3秒の間についてのスペクトル振幅の大きさについて考察したところ、MJと関係性がよいことを確認した。この関係性によれば、仮に1992年ニカラグア地震と同じ地震が東北地方太平洋沖で発生した場合、MJが6.9程度に求まり、マグニチュードをかなり過小に評価する可能性がある。
通常の地震に比べて1~20秒の周期帯で地震波エネルギーが極端に小さく、かつ大きな津波を発生させる津波地震(スロー地震)が知られている(Polet and Kanamori,2000)。2万人を超える死者を出した1896年明治三陸地震は、巨大な津波が来襲する一方揺れは小さく、津波地震(スロー地震)の特徴と整合する。津波避難に充てられる時間をできるだけ確保しつつ続報が伝わらない可能性があることも踏まえて安全サイドに立った津波警報第1報を迅速に発表(気象庁,2011)するため気象庁は、通常、周期6秒程度までの地震波の解析により速やかに気象庁マグニチュード(MJ)を計算して津波予測を行う。このため、津波地震(スロー地震)についてはMJが過小となって津波予測も過小となる可能性がある。
津波地震(スロー地震)について、どのような監視解析が有効かを検討することが重要であるが、震源に近い地域での地震波形記録は見当たらない。そこで遠地の波形記録があり、津波地震(スロー地震)とされる1992年9月2日のニカラグアの地震(Mw7.6,GlobalCMTによる)について、遠地記録をもとに震源スペクトルを推定し、それをもとにMJの決定、震度について考察した。
2.データ及び方法
震央距離30~100°の遠地の地震波形のP相(PP相が出現するよりも前までの区間)の上下動の変位記録から震源スペクトルを推定する方法が知られている(例えばHouston and Kanamori,1986)。また、震源破壊過程の解析では、P相の上下動のみならずS相(SS相が出現するよりも前までの区間)の水平動のTransverse成分の変位も用いられる(例えばKikuchi et al.,1993)。そこで、P相、S相それぞれを用いて震源スペクトルを推定した。
使用した波形は、できるだけ長周期側の解析ができるよう、STS-1による震央距離70~90°の記録を、IRIS(Incorporated Research Institutions for Seismology)のWebサイトからダウンロードした。短周期側については、比較的震源に近くS/N比がよい35~55°の記録を使用した。
解析に必要な走向やすべり角の断層パラメータ等はGlobal CMT Project による値を入手、速度構造にIASP91及びcrust2.0を利用し、放射特性や幾何減衰等の計算は Kikuchi and Kanamori のTeleseismic Body-Wave Inversion Programのサブルーチンを用いて行った。
1992年ニカラグア地震について震源スペクトルを推定した。また比較のため、概ねマグニチュードが6.5以上であり、計測震度の観測値が得られていて、東北地方太平洋沖のプレート境界で発生した海溝型地震についても推定した。
3.結果
1992年ニカラグア地震の震源スペクトルについて、概ね200秒~1秒の間のスペクトル振幅を推定した。Polet and Kanamori(2000)の震源スペクトルの結果で検証し、よく一致していることを確認した。一般にω2モデルでMw7.6の地震ではコーナー周波数は0.039Hz(周期で26秒)程度と見積もられる。しかし、ニカラグア地震では0.005Hz(周期で200秒)程度の可能性がある。そして、全体的に解析できた周期帯でスペクトル振幅は通常のMw7.6よりも小さい。1~20秒の周期帯の地震波をあまり出さずに長時間にわたって破壊が継続したことがあらためて示唆される。
震度に関係のある周期2~1秒の間のスペクトル振幅の大きさについて考察したところ、2005年12月2日の宮城県沖の地震(MJ 6.6)と同程度であった。この地震の最大震度は3であり、仮に1992年ニカラグア地震と同じ地震が東北地方太平洋沖で発生した場合、最大震度も同程度にとどまる可能性がある。
気象庁が地震を監視しMJの計算に用いている地震計の周期特性が概ね6秒程度までであることから、周期6~3秒の間についてのスペクトル振幅の大きさについて考察したところ、MJと関係性がよいことを確認した。この関係性によれば、仮に1992年ニカラグア地震と同じ地震が東北地方太平洋沖で発生した場合、MJが6.9程度に求まり、マグニチュードをかなり過小に評価する可能性がある。