日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 201B (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部、共同)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:小嶋 智

14:45 〜 15:00

[HDS11-03] 湿潤変動火山帯に位置する日本列島の地震時流動性地すべりポテンシャル評価に向けた地形・地質学的データの整備

*鈴木 毅彦1千木良 雅弘2 (1.首都大学東京都市環境学部、2.京都大学防災研究所)

キーワード:湿潤変動火山帯、地震時流動性地すべり、地形・地質学的データ整備、火山灰土

1.はじめに
湿潤変動火山帯に位置する日本列島においては斜面崩壊が頻繁に発生し,時には甚大な災害となる.崩壊様式には様々なものがあり,また崩壊発生の素因と誘因にも多数の組み合わせがある.したがってこうした斜面災害の可能性を評価するには,素因と誘因の組合せ毎にそれぞれの発生可能域や切迫度を把握し,最終的にそれらを重ね合わせる必要がある.
崩壊発生の素因と誘因の組み合わせのうち,未固結な火山砕屑物分布域における地震動による崩壊がある.その事例として,1949年今市地震(M6.4)時における流動性地すべりや,2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)の際に発生した福島県白河市葉ノ木平における流動性地すべりがあげられる.現在,こうした火山灰地域における地震時流動性地すべりのポテンシャル評価をめざし,地形・地質学的データの整備を試みているが,本講演ではその中間報告を示す.

2.素因となるロームとその分布について
国内の代表的な未固結火山砕屑物として,火山山麓から遠方に分布する降下火砕物とそれを含む風成堆積物があげられ,いわゆる「ローム(層)」とよばれ日本列島各地に分布する.ロームは明瞭な層構造を呈す降下テフラ(降下軽石や降下スコリアなど)と,塊状の風成堆積物からなる.前者は爆発的噴火によりもたらされたものであり,地質学的瞬時に形成される.後者は土壌化作用を受けながら堆積したものであり,ローム,赤土,(褐色風化)火山灰土,レスなど様々によばれる.
ロームを崩壊性地すべりが発生する素因の一つと考え,崩壊性地すべりの発生ポテンシャルとしてのローム(過去約9万年間分)の分布とその層厚変化について日本列島全域を対象に図化した.

3.素因としての地形と誘因としての地震動
実際に流動性地すべりが発生するにはその地点でどの程度のローム層が堆積しているかに依存する.ローム層は,急勾配の山地斜面や現在も侵食・堆積作用が及ぶ沖積面(低地)にはみられず,丘陵や段丘(台地)を被覆して存在する.そしてその層厚は丘陵・段丘の形成年代と強い相関をもつ.ローム層の厚い地域においても低地や若い段丘上にはローム層は認められないか薄い.したがって崩壊性地すべりの発生ポテンシャルを検討するには,ローム層の層厚分布と地形の形成年代(離水年代など)を考慮する必要がある.
日本全国をカバーした地形区分として国交省より「50万分の1土地分類基本調査地形分類図」「20万分の1土地分類基本調査」のGISデータが公表されており重ね合わせができる.このうち後者ではローム台地(上位・中位・下位),火山性丘陵地,小起伏火山地,小起伏丘陵地,小起伏山地の区分が示されており,ローム層の層厚分布と重ね合わせることで崩壊性地すべり発生ポテンシャルの概要がつかめる.ただしそれらの地形を被覆するローム層の正確な層厚を知るには,現地での調査や詳細な地形区分が必要である.なお「5万分の1土地分類基本調査」「土地履歴調査」もデータが公開されており詳細な地形区分が示されているが日本全国はカバーされていない.

4.素因としての地形と誘因としての地震動
流動性地すべりの誘因としての地震動の確率も考慮の対象となる.防災科学技術研究所より「確率論的地震動予測地図」がGISデータとして公表されており,流動性地すべりが発生する震度がわかれば確率的にその可能性を検討できる.
5.特定地域における流動性地すべりの発生頻度
小起伏な丘陵・山地かつローム層が厚く堆積している地域は流動性地すべりの発生頻度が高いことが予想される.とくにテフラをもたらす爆発的な噴火を繰り返している火山の東側においては,地すべりの発生によりローム層の一部が除去されてもその後の降下堆積により,地すべり発生の素因となるローム層が引き続き累重する.国内でローム層が顕著に厚い地域として阿蘇カルデラ東側,富士山東側,伊豆大島などがあげられる.これら地域では厚いローム層中に複数の不整合面(斜交ともよばれている)が存在することが知られている.かつてはこの不整合を海面変動や地殻変動,火山活動などと関連させる見方があった(上杉ほか,1983など)が,本研究では不整合を崩壊性地すべりに起因すると考え,その層準解明により地すべりの頻度や発生の地学的条件を明らかにすることを試みる.その一つの事例として伊豆大島の地層大切断面を検討対象とする.