日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 地球化学の最前線:高度分析装置と地球惑星科学

2018年5月20日(日) 10:45 〜 12:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)、座長:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学)

11:45 〜 12:00

[MTT37-11] 1980年代の地球化学の最前線研究を展開した研究室の一例

★招待講演

*日高 洋1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:増田彰正

増田彰正先生は1981年5月から1992年3月までの約11年にわたり、東京大学理学部化学教室に教授として在籍し、分析化学講座を主宰され、宇宙・地球化学分野の研究教育に従事された。当時、研究室専用の分析機器として、表面電離型質量分析計(TIMS)5台、ICP質量分析計(ICP-MS)1台、安定同位体比質量分析計(IRMS)1台、電子線マイクロプローブ(EPMA)1台、イオンマイクロプローブ(IMA)1台を保有し、宇宙・地球化学研究を幅広く展開していた。増田先生が神戸大学から異動された当初(1981年5月)は、国産TIMS2台のみであり、これらは主に同位体希釈法による一連の希土類元素の精密定量分析のために使用されていた。その後、まもなく民間財団の研究助成等の競争的資金により国産EPMAが導入され、惑星物質試料中の鉱物の定量分析に用いられた。引き続き、大型科研費(特別推進研究、研究期間1983~1986年)により、英国製TIMS2台、英国製ICP-MS1台、国産IMA1台が導入され、同位体測定研究を幅広く展開するに至った。特に、当時の主要研究課題として、希土類元素のひとつであるCeの精密同位体測定があった。これは138La-138Ce壊変系に基づく年代学および放射壊変起源138Ceをトレーサーとした物質循環研究への展開を期待したものである。また、負イオン同位体測定がほとんど手法として確立していなかった1980年代当時、正イオン同位体測定を主流としていたTIMSでは非効率ゆえにほとんどおこなわれていなかったOs、Mo、Ru等の同位体測定について試みることを計画し、市販化されて間もないICP-MSの日本国内一号機を1985年にいち早く導入した。並行して、固体物質中の局所領域における同位体不均一を検出する目的でEPMAとIMAが活用されていた。さらに数年後、科研費(第二回目の特別推進研究、研究期間1989~1991年)により英国製IRMS1台、英国製TIMS1台が追加導入され、特に後者は、酸化物負イオン検出に基づくOs、Mo、Ru等の精密同位体測定を主目的として利用された。
 これほどの専用の研究設備を一研究室で保有している例は世界的にも稀であると思われる。上記の通り、これらの主要研究設備はすべて増田先生が研究代表となる科研費を中心とした競争的資金獲得によるものである。
 本講演では、先端研究を展開するにあたり、必要とする分析機器等を専用できることのメリットやデメリット、多くの専用機器を保有できた当時の時代背景等について昨今の教育研究機関がおかれている状況との比較などを解説する予定である。