日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] ミクロスケール気象の稠密観測・数値モデリングの新展開

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 301A (3F)

コンビーナ:伊藤 純至(東京大学大気海洋研究所)、荒木 健太郎(気象研究所)、古本 淳一(京都大学生存圏研究所)、東 邦昭(京都大学生存圏研究所・メトロウェザー株式会社)、座長:伊藤 純至(東京大学)、荒木 健太郎(気象研究所)

14:15 〜 14:30

[AAS06-03] 地表光ファイバーケーブルとDASテクノロジーを使った稠密気象イベント観測の可能性

*木村 恒久1 (1.シュルンベルジェ)

キーワード:DAS、hDVS、光ファイバー、マイクロスケール気象学、稠密気象観測、台風

DASテクノロジーは、2011年頃から石油・ガス産業において、パイプラインのモニタリングや侵入者を感知する目的で導入されている。近年では “heterodyne Distributed Vibration Sensing”(以下、hDVS)と呼ばれる位相差データを用いる最新の光ファイバーセンシング技術の適用により、Vertical Seismic Profile(以下、VSP)を含むサイスミックデータ取得ができるようになった1)。3DVSPの手法で立体的なイメージングもできる2)。そのhDVS装置を使った自然地震や、津波を目標に据える波の観測ができることを近年のJpGUや地震学会で説明してきた3)

2017年9月、一般財団法人エンジニアリング協会(以下、ENAA)の協力の下、ENAAが深さ約20cmに埋設した光ファイバケーブルを使った地震観測を含むDAS技術の実証実験を行った。400mの長さの光ファイバケーブルのうち、300mを100mの長さの溝の中に往復させて設置し、残りの100mは地表を這わせ、室内に設置してある第三世代のhDVS取得装置につなげた。つまり地表を這わせた約50m区間の光ファイバーケーブルは、気象の変化の影響を受けやすい環境下にあった。4日間の観測期間中の第2日目、雨が降り、時折雨脚が激しい時間帯もあった。特に夜間の時間帯は人工震源を使わない連続観測を行ったので、地表を這わせた光ファイバーケーブルは車の往来等の地表ノイズや自然地震のような偶発的な現象の他に、雨の影響と思われる定常的な現象を記録していた。その一例を図1に示す。

このことは、光ファイバーを振動センサーとして用いるDASテクノロジーが、気象の観測に利用できる可能性を示唆する。hDVS/DASはGPSにシンクロさせて記録を行い、最大観測長はファイバーの種類や状態にも依るが、ロスの少ないシングルモードファイバー(以下、SMF)を使えば40kmに達する。数十kmの範囲の気象状況をを一台の装置で数十m置きに観測することができれば、より詳細な警報を発することが可能であろう。

日本における通信用光ファイバーは大都市部の幹線通信網を除き、電柱や鉄塔等の空気中に設置される場合が多い。そのような光ファイバーは雨や風の影響を直接受けるが、車両、鉄道、工場等の地表で発生するノイズ源の影響が少ない。つまりOPGWと呼ばれる送電線上の光ファイバーにhDVS/DAS装置をつなげると、瞬くうちに気象観測網を構築することができる可能性がある。雨の場合、雨脚が穏やかなときは雨がOPGWに当たる率が低くなり振動、つまり光ファイバーの動的歪が少なく現れ、hDVS/DASの信号が小さい。雨脚が激しくなると雨がOPGWに当たる率が高くなり、振動(光ファイバーの動的歪)が大きく現れ、hDVS/DASの信号が大きい。なので局地的な雨量を数十m間隔に定量的に観測することができる可能性がある。さらに雨粒の大きさや、雨か雹なのかの違いを把握することができる可能性もある。

風の影響も同じように扱うことができる。風速が低い場合は、光ファイバーの振動が小さくhDVS/DASの信号が小さく現れる。風速が高い場合は、光ファイバーの振動が大きくhDVS/DASの信号が大きく現れる。この現象は、井戸内での液体の流れの観測に酷似しており、同じような手法で風速を定量的に観測できるであろう。

台風のように雨量も風量も大きく同時に変化する場合は、それぞれの事象を分離する手法を取ることができるであろう。雨の場合、雨粒が光ファイバーケーブルに衝突することによって振動が起き、よりミクロな振動で、振動の周波数領域が高いと思われる。一方、風の場合は、鉄塔間の光ファイバーケーブル全体に影響を及ぼすマクロな振動で、周波数領域が低いと思われる。このことは、JAMSTEC所有の海底光ファイバーケーブルを使って海底地震を観測した際、波も同時に観測したが、ゲージ長を変化させる再処理を行うことによって2つの異なる事象を分離することができることを2018年の地震学会で述べた4)。ゲージ長を変化させる再処理は、様々なDAS装置の中でhDVSのみが持つユニークな特徴である。雨量と風速のリアルタイムでの同時観測は、hDVS装置を改良することで可能になるであろう。

hDVSを地中、海底、そして地上の光ファイバー網につなげることにより、地震、火山、津波、そして台風やゲリラ豪雨の観測という、総括的な防災の観測網を構築することができる可能性が見えてきた。

謝辞:2017年に行った一般財団法人エンジニアリング協会との共同実験のデータを用いました。感謝の意を表します。

引用文献:

1) Kimura, T., Lees, G., and Hartog, A., Optical Fiber Vertical Seismic Profile using DAS Technology, JpGU 2016 (RAEG 2016, STT17-12) Extended Abstract.

2) Kimura, T. et al, Hybrid 3D VSP Using Fiber-Optic Technology and a Conventional Borehole Seismic Array Tool, EAGE Copenhagen 2018 (Th H 10) Extended Abstract.

3) Kimura, T., Kobayashi, Y., Naruse, R., and Xue, Z., Earthquake events monitoring in a well using Optical Fiber and DAS Technology, JpGU 2018 (STT50-04), Kimura, T., Summary of Earthquake Events Recorded in Japan using DAS Technology, and Future Vision, SSJ 2018 (S02-P12).

4) Kimura, T., Araki, E., and Yokobiki, T., Separation of Events from DAS Data Recorded from Submarine Fiber Cable using Different Gauge Length, SSJ 2018 (S02-03)