日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC27] 雪氷学

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 303 (3F)

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)、座長:縫村 崇行(千葉科学大学)

11:15 〜 11:30

[ACC27-09] 札幌で10冬期間に観測された積雪不純物が放射収支と融雪に与える効果

*広沢 陽一郎1青木 輝夫1,2庭野 匡思2的場 澄人3兒玉 裕二4谷川 朋範2 (1.岡山大学自然科学研究科、2.気象研究所、3.北海道大学低温科学研究所、4.国立極地研究所)

大気中の光吸収性エアロゾルを起源とする積雪不純物は、積雪上に沈着すると積雪アルベドを低下させる効果があるため、雪氷圏の温暖化を加速させる効果を持っている。IPCC第5次報告書では雪氷面上のブラックカーボン(BC)による放射強制力が全球年平均で+0.04 Wm-2と評価されている。しかし、積雪不純物濃度の高い都市域では放射収支や融雪に対してより大きな影響を及ぼす可能性がある。本研究では札幌の積雪アルベド及び融雪に対する積雪不純物(BCと鉱物性ダスト)濃度の効果を、積雪・気象観測データと積雪アルベド物理モデル(PBSAM)(Aoki et al., 2011)を用いて調べた。観測場所は北海道大学低温科学研究所の気象観測露場(43°04'56"N, 141°20' 30"E, 15 m a.s.l.)で、解析期間は2007-2017年の10冬期間である。初めに積雪粒径、積雪不純物濃度、下向き放射の観測データをPBSAMに入力して得られる広波長帯域アルベドの理論計算値を観測値と比較した。次に、積雪不純物によるアルベドの変化に関する数値感度実験を行い、放射強制力(RF)を求めた。さらに、熱収支解析から積雪不純物による融雪量への寄与を見積もった。
 解析期間の各年で時系列の観測値とモデル計算値を比較すると、積雪粒径や積雪不純物濃度の変化に対応したアルベド変動の計算値は観測値とよく一致した。全解析期間において、短波長域(SW)におけるアルベドの観測値と計算値の比較から得られる決定係数(R2)と二乗平均平方根誤差(RMSE)はそれぞれ0.847と0.046で、PBSAMの高い精度が確認された。次に、積雪不純物の有無による、可視域、近赤外域、短波長域のアルベド変化に関する感度実験を行った。全解析期間における積雪不純物(BC+ダスト)によるアルベド変化と放射強制力は短波長域でそれぞれ-0.053と+6.7 Wm-2であった。さらに、融雪量を積雪表面における熱収支解析及び積雪と地面の間の熱流量の観測値からそれぞれ見積もった。その結果、全解析期間を通した全融雪量の平均値は398 mm w.e.であった。このうち、融雪量全体に占める表面融雪量と底面融雪量の割合はそれぞれ76%と24%であった。表面融雪量のうち積雪不純物によるアルベド低下がもたらす融雪エネルギーは、融雪量に換算すると融雪量全体の28%に相当した。この値は無視できない大きさであると共に底面融雪量と同程度である。さらに、BCおよびダストによるこの値への寄与はそれぞれ21%および7%であった。


参考文献
Aoki, T., K. Kuchiki, M. Niwano, Y. Kodama, M. Hosaka and T. Tanaka (2011), Physically based snow albedo model for calculating broadband albedos and the solar heating profile in snowpack for general circulation models. J. Geophys. Res., 116, D11114, doi:10.1029/2010JD015507.