日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 気候変動への適応とその社会実装

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 301A (3F)

コンビーナ:石川 洋一(海洋研究開発機構)、渡辺 真吾(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、大楽 浩司(防災科学技術研究所)、座長:石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(防災科学技術研究所)

16:30 〜 16:45

[ACG43-11] アンサンブル気候予測データベースd4PDFを活用した四国での気候変動影響評価

*吉村 耕平1那須 清吾1Sanchez Patricia2 (1.高知工科大学、2.フィリピン⼤学ロス バニョス校)

キーワード:気候変動適応策、d4DPF、河川管理

気候変動適応策としての水防災を検討するには、気候変動予測モデルの活用が不可欠である。しかし、予測モデルは主に時空間解像度・バイアス・不確実性の3点で課題がある。各地域の災害リスクに応じた対策に踏み込んで検討するには、これらのGCMの問題点や特性を考慮しなければならない。

昨年の発表では、気候変動予測モデルのCMIP5に統計的ダウンスケーリングを適用したデータを活用して吉野川流域で影響評価を行ったが、複数の問題点が明らかになった。

一つは親GCMのグリッドサイズが流域スケールよりも大きな四国全域に対してすら大きく、吉野川の上下流・支流での降雨分布を再現出来ず、全域で強い雨を与えることになった点である。早明浦ダムの集水域に限定するなどの小規模で降雨分布が比較的均一な領域では確率流量は妥当な結果となったが、より下流で大きな集水域を持つ池田ダム地点などでは確率流量は過大となった。

もう一つは流出解析で必要となる時間雨量データがないという問題である。与えられた日雨量に対して河川計画手法に倣い過去の降雨の時間降雨波形を与えたが、必ず最大流量になる降雨波形を与えるため、先の問題と合わせて確率流量が過大になる可能性がある。

さらに、各GCMでも1パターンの数十年分のみのデータであり、特異な現象などの予測も困難であった。

このため、適切な影響評価のためには多数のアウトプットを含む力学的ダウンスケーリングの導入が必要になる。

今回はアンサンブル気候予測データベースd4PDFを活用し、吉野川流域での気候変動による影響評価を行った。d4DPFでは60kmと20kmの二種類のグリッドサイズがあるが、今回は20kmグリッドを利用した。まずは四国の吉野川流域部分のグリッドを抜きだし、非温暖化実験と地上観測データの日雨量での比較を行った。四国山地の早明浦ダム付近のグリッドと徳島・高知で比較を行ったが、四国山地では観測値はおおむね降雨の多いメンバーに近く、徳島では降雨の少ないメンバーに近かった。また高知では過去に発生した台風や特殊な要因で発生した豪雨を再現出来ていない。このため、吉野川流域程度の規模・降雨特性であればリスク評価にはバイアス補正なしで活用出来るが、より小規模な河川や局地的な降雨がある河川ではそのままでは活用出来ないことが明らかになった。

吉野川の下流部でほぼ既往最大に近い流量を記録したのは近年では2004年の台風16号である。しかし早明浦ダムへの流入量はより大きい出水が翌年の2005年の台風10号で発生している。2005年は、梅雨期以降少雨が続き渇水状態で早明浦ダムの水位が下がりきった状態となっており、そこに台風で大規模な出水が発生した。このため、洪水調節容量に加え空になっていた利水容量まで利用して洪水を受け止めた。もし、渇水でなければより大きな被害になっていたと考えられる。

また早明浦ダムは、放水路を増設する改造工事の計画が進められている。これにより、ダムの水をより素早く放流することで洪水調節容量を増大させることが出来る。同時に運用ルールを見直して、より洪水への対応能力を増やすことを計画している。

流域内での治水・利水の要となる早明浦ダムを活用した気候変動適応策を検討するために、洪水流量のみならず、長期でのダムの貯水量の推移を予測することで運用ルールを最適化する必要がある。

大規模な洪水が発生した時点での、ダムの貯水量などを検証するため、ダムへの流入量と4~6月の月雨量との関係性を比較した。非温暖化実験に対して、それぞれのGCMでは大きく傾向が異なっており、少雨からの洪水発生が増えるGCMもあれば、洪水が発生する年は降水量が多い傾向があるGCMもあった。このため、ダムの運用ルールを固定的に変更させることは困難であり、気候変動による降雨特性の変化に応じた「順応型」アプローチが必要であると考えられる。

また、下流部の自治体へのヒアリングの結果、内水氾濫・外水氾濫の複合災害のリスクを懸念していることが明らかになった。台風などによる強雨で内水氾濫が発生し、市街地での避難ルートが途絶する可能性がある。その上で、上流部で台風が発生させた降雨時が数時間後に下流部に到達し、外水氾濫のリスクに晒される。このため、下流部での洪水流量と強雨発生から洪水到達までの時間差を分析した。現在再現に比べて、強雨から洪水流下までの時間はばらつきが強くなった。このため複合災害のシナリオの多様化が必要であることが明らかになった。