日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 海洋化学・生物学

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 303 (3F)

コンビーナ:山田 奈海葉(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、安中 さやか(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、齊藤 宏明(東京大学大気海洋研究所)、座長:小埜 恒夫(水産研究・教育機構)、小杉 如央(気象研究所)

15:45 〜 16:00

[AOS16-02] 北太平洋亜寒帯海域におけるCO非平衡量と人為起源CO2の季節的動態

*李 勃豊1宿田 さとり1葛西 広海2黒田 寛2谷内 由貴子2長谷川 大介3渡辺 豊1 (1.北海道大学、2.国立研究開発法人 水産研究・教育機構 北海道区水産研究所、3.国立研究開発法人 水産研究・教育機構 東北区水産研究所)

キーワード:大気海洋CO2の非平衡 、人為起源CO2 、北太平洋亜寒帯海域

【はじめに】
産業革命以降,現在までに人間活動によって大気中に排出された二酸化炭素(CO2)は約40%増加し、これに伴い、海洋表層のpHはおおよそ0.1減少した[IPCC, 2013]。海洋表層のpHの低下は海洋の緩衝能力を弱めるとともに、炭酸カルシウムの殻をもつ海洋生物などに大きな影響を与える[Doney et al., 2009]。

これまでに、化学トレーサーと炭酸系データ両方に基づくΔC*法を用いて、人為的CO2量の測定がされてきた[Gruber et al., 1996; Sabine et al., 2004; Watanabe et al., 2013] 。この方法は化学トレーサーと炭酸系物質を広域的に測定しなければならず、船舶を用いての観測が必須となり、広範囲の海域には不向きで、人為的CO2量を求めるにはCO2非平衡量(Cdiseq)が最大の誤差となる。このため、詳細なCdiseqの時間変動を求めなければならない。さらに、ΔC*法では400m以深にしか使えない窒素・酸素・炭素化学量論比(Anderson and Sarmiento, 1994)を用いて人為起源CO2 (Cant)量が多い400 m以浅を見積もるため、その確度については未だ不明である。

本研究では、水塊が複雑で、北太平洋中層水が形成され、かつ季節による水塊分布の変動も激しく、生物生産が活発な、北太平洋西部海域において、CO2非平衡量の季節的動態を明らかにする。さらに、Cantの見積りのボトルネックとなっている400 m以浅の化学量論比の妥当性を評価し、CO2非平衡量の季節的動態と合わせて、Cantのより詳細な時空間分布を明らかにする。

【方法】
本研究では、表層混合層内(MLD)では大気海洋間のCO2がよく混合されていることを仮定し、Cdiseq は以下の式から求める [Li et al., 2019]。

Cdiseq = DICMLD – Csat, MLD – Csoft, MLD – Ccarb, MLD (1)

ここで、DICMLD : 現在のMLDのDIC、Csat, MLD : MLDにおける飽和CO2量、Csoft, MLD : MLDにおける有機物の再無機化によるDIC量、Ccarb, MLD : MLDにおけるCaCO3 溶解由来のDIC量。

Csoft, MLD、Ccarb, MLDは、窒素・酸素・炭素の化学量論比から求めるが、従来の方法で400m以深にしか使えない窒素・酸素・炭素化学量論比(Anderson and Sarmiento, 1994)を使っており、400m以浅ではその使用の保証はされていない。Csoft, MLDとCcarb, MLDは生物生産と再無機化の影響を補正する項であり、400 m以浅ではその影響は大きい。このため、古典的な生物活動由来の化学量論比であるRedfield比を用いて400m以浅の計算を行い[Chen and Millero, 1979]、従来のΔC*法との比較を行った。DICの観測は、2017年10月・2018年1月北海道区水産研究所の北光丸、2018年5月・7月の東北区水産研究所の若鷹丸に乗船し、各クルーズ4地点12層で採水し、224試料を得た。semi-closed法により高精度かつ高確度な炭酸系物質のデータを測定した[Li et al., 2016]。

【結果と考察】
古典的な化学量論比とAnderson and Sarmiento (1994)の化学量論比でそれぞれ計算したCdiseqの差は5 µmol kg-1以内であり、従来の方法(Sabine et al. 2004)の誤差範囲内であるため、Cdiseqを計算する際に、Anderson and Sarmiento (1994)の化学量論比も使えることがわかった。このため、これを基盤に、北太平洋亜寒帯海域のMLD内のCdiseqの変動を評価したところ、1月冬季には –38.29 μmol kg-1 から−56.93 μmol kg-1、7月夏季では−9.65 μmol kg-1 から1.02 μmol kg-1となり、強い季節変動を見出した。このCdiseqをCantの見積りに適用することで、Cantの強い季節性が明らかとなった。