日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 同位体水文学 2019

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

[AHW24-P05] 群馬県藤岡市浄法寺地域の河川水の塩化物イオン濃度とその起源について

*長谷川 武俊1安原 正也2李 盛源2 (1.立正大学大学院地球環境科学研究科環境システム学専攻、2.立正大学地球環境科学部)

キーワード:河川水、塩化物イオン、負荷量、酸素・水素同位体比、八塩温泉、深部流体

群馬県藤岡市浄法寺地域(神流川左岸)の八塩温泉には自然湧出する源泉(冷泉)が8箇所存在する.高瀬(1963)によると源泉の水質はNaCl型(塩化物イオン濃度:7,670~12,560 mg/L)であり,松葉谷ほか(1985)はその水の起源を新第三紀の海水(化石海水)としている.三波川帯でしばしば認められる,地下深部から上昇してくるこのような塩化物イオンに富んだ「深部流体」の湧出経路,浅層地下水系や地表水系への混入地点,さらにそのフラックスについてはいまだに不明の点が多く,事例研究に基づく知見の集積が待たれている.本研究では,八塩温泉の脇を東流する南沢川と周辺の9つの小河川(いずれも全長1 km程度;最後は神流川に合流)を対象に,河川水の塩化物イオン濃度の測定と負荷量の算出,ならびに塩化物イオンの起源について検討を行った.エンドメンバーとなる八塩温泉源泉の調査を含む現地水文調査は,2018年8月と12月の二回実施した.

2018年8月の八塩温泉源泉の塩化物イオン濃度は4,798mg/L~11,892 mg/L,また同年12月のそれは5,162 mg/L~11,032 mg/L,一方,2018年7月の南沢川の塩化物イオン濃度は4.1 mg/L(源流部)~632.5 mg/L(最下流部),同年12月には4.0 mg/L(源流部)~213.7 mg/L(最下流部)であった.7月と12月の神流川合流前の南沢川における塩化物イオン負荷量はそれぞれ約44 kg/day,約45 kg/dayであり,季節による負荷量の大きな変化は認められなかった.南沢川を含む浄法寺地域のすべての河川の神流川合流前の塩化物イオン負荷量の合計は,12月には50 kg/day程度(温泉排水を除く)であったことから,同地域の河川の塩化物イオン負荷量の90%を南沢川が担っていることになる.一方,全長1 km程度の短い河川であるにもかかわらず,12月の南沢川の水素同位体比(δD)は源流部で-54.5‰,最下流部で-46.7‰と1 kmの間に約8 ‰大きくなり,また酸素同位体比(δ18O)も源流部の-8.0 ‰から最下流部の-7.3 ‰と0.7 ‰大きくなった.これは河床を通じて同位体的に重い深部流体(八塩温泉源泉:δD=-29.8~-10.8 ‰,δ18O=-1.4~4.3 ‰)が大量に混入するためと考えられる.さらに,Li/Cl比(八塩温泉源泉:Li/Cl比=0.0018~0.0020)をみると,南沢川ではほとんどの流路区間で12月のLi/Cl比は0.001以上の値を示し,かつ流下に伴い値が大きくなる傾向が認められた(最下流部では0.0018).これも,八塩温泉源泉に代表される高いLi/Cl比を有する深部流体が河床を通じて河川水中へ混入していることを強く示唆している.このように,三波川帯に位置する浄法寺地域の河川,特に南沢川には河床を通じて大量の深部流体が混入し,その結果,河川水が高い塩化物イオン濃度を呈するものと推定される.発表当日には,深部流体の混入箇所(流路区間)の地質学的な特徴や深部流体混入量の推定結果,さらに同じく深部流体の浅層地下水系への混入が発生している神流川対岸の埼玉県神川町渡瀬地域の現状についても紹介し,議論する予定である.