日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] Science of slow earthquakes: Toward unified understandings of whole earthquake process

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、波多野 恭弘(東京大学地震研究所)

[SCG48-P27] 地震計アレイデータの逆投影による紀伊半島下の深部低周波微動の震源決定

*寒河江 皓大1中原 恒1西村 太志1今西 和俊2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.産業技術総合研究所)

キーワード:深部低周波微動、地震計アレイ解析、逆投影、MUSIC法、紀伊半島、震源決定

地震計アレイ解析では,位相がそろっていれば微弱な信号でも検出することが可能である.北米のカスケード地方では,大規模稠密地震計アレイを用いた解析により,深部低周波微動の高精度震源決定が行われている (e.g. Ghosh et al.,2012).日本では四国西部の地表地震計アレイを用いて,高角度分解能のMUltiple SIgnal Classification (MUSIC) 法 (Schmidt,1986) に基づく解析を行った先行研究がある (e.g. Ueno et al. ,2010).しかし,ノイズを分離してイベントを検出するための定量的な指標は考えられていない.寒河江・他 (2018 SSJ) では,産業技術総合研究所 (産総研) によって紀伊半島に配置された地表地震計アレイを用いて,アレイ観測点間の波形のコヒーレンスに基づく閾値を設定し,これまで捉えることができていなかった微動を検出することに成功した.検出した時刻のデータにMUSIC法を適用し,入射波動場のスローネスと到来方位角を高い分解能で推定したところ,それらの時間変化は微動のマイグレーションを示唆した.しかし,震源決定は行っていなかった.そこで本研究では,推定したスローネスと到来方位角を用いた逆投影により微動の震源決定を行う.
 紀伊半島に配置された産総研の地表地震計アレイは,口径約1.5 km で,ほぼ十字型に50~100 m 間隔で配置された39点の3成分速度型地震計から構成される.地震計の固有周波数は2 Hz であり,サンプリング周波数は200 Hzである.本研究では,地震計の数が安定している2013年7月〜2014年7月の1年間のデータを用いて解析を行う.
 深部低周波微動の卓越周波数である2~10 Hz のうち,低周波数側の3Hz に着目し,以下の手順で解析を行った.(1) 地震計アレイの全観測点ペアに対して,微動が活発な時期とそうでない時期のコヒーレンスの平均値 (平均コヒーレンス) を計算する.(2) この平均コヒーレンスをもとにイベント検出閾値を設定し,微動の検出を行う.(3) 微動を検出した時刻のデータにMUSIC法を適用し,スローネスと到来方向を推定する.(4) JMA2001 (上野・他,2002) のS波速度構造を用いて,スローネスと到来方向をプレート境界面上 (Hirose et al.,2008) に逆投影することで微動の震源決定を行う.
 1年間の中で,微動活動が活発な5つの期間を検出することができた.本研究で決定した微動の震央分布を,エンベロープ相関法で決定された産総研の微動カタログの震源と比較した結果,微動源の時間変化は産総研のカタログと概ね一致していた.さらに,本研究では産総研のカタログよりも約2.5倍も多くのイベントを検出することができた.また,時間分解能が向上したことにより,微動源の時間変化を詳細に確認できるようになった.
 本研究の震源決定の結果をもとに微動のマイグレーションを調べた.数日間スケールの微動活動は,プレート走向方向に卓越し,その速度は6.0~9.3 km/day であった.一方,数時間スケールの微動活動では,プレート傾斜方向のマイグレーションを多く確認できた.微動の開始時付近では,約1.0 km/hr の速度で徐々に浅部へ移動するup-dip 方向 (プレート浅部方向) のマイグレーションが見られた.これは主に地震計アレイの北東側で確認された.
 本研究では,地表地震計アレイを用いたイベント検出閾値を慎重に評価したことにより,従来の手法では検出できなかった多くの微動の震源決定を行うことができた.さらに震源決定の時間分解能が従来の1分から本研究では10秒まで向上し,一連の微動活動の時間変化を捉えやすくなった.
 本研究では,Hirose et al.(2008) のプレート境界モデルを使用させていただきました.産総研のカタログをSlow Earthquake Database (Kano et al.,2018) からダウンロードいたしました.記して感謝申し上げます.