日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 活断層と古地震

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SSS15-P14] 濃尾地震の被害から検証する岐阜―一宮線

*松多 信尚1,2木股 文昭2 (1.岡山大学大学院教育学研究科、2.東濃地震科学研究所)

キーワード:濃尾地震、岐阜ー一宮線、地表地震断層、全壊家屋、犠牲者

地震時に出現する地表地震断層の断層運動が建物被害に与える影響は未だに十分に解明されたとは言えない.2016年熊本地震でにおいて周期3秒の大きな揺れ幅を持つパルス状の地震動が観測され、建物に被害が生じた。鈴木ほか(2018)は,益城町において地表地震断層から 120m 以内の範囲に 全壊家屋の 94%が集中し,その範囲内においても断層に近づくほど被害率が上昇しているとし,地表地震断層 に沿って極めて強い震動が発生し,局所的に激しい建物倒壊を招いたとしている.このような現象は地表地震断層全域でみられるわけではないことから,断層浅部での被害につながる地震動の原因を究明することは包括的な新たな強振動モデルを作るうえで重要だと思われる.

過去に発生した地震において地表地震断層が出現した地震で家屋に対して多くの犠牲者が出る。三河地震や北丹後地震などで犠牲者数と全壊家屋数の比をとると、地表地震断層のごく近傍では一軒当たり複数の犠牲者が出る家屋が集中するという特徴がある。その理由は不明であるが、地表地震断層極近傍において被害を拡大させる自然現象が存在することが示唆される。

このことは、観測記録のない歴史地震の被害の特徴を分析することで、自然現象としての地震を評価できる可能性を示しており、犠牲者数と全壊家屋数の比が地表地震断層の出現を判断する指標となると考えた。

濃尾地震は1891年10月28日6時38分に発生した地震で、震源は岐阜県本巣郡西根尾村(現在の本巣市)付近とされるマグニチュ ード8.0の地震である.この地震により北北西―南南東走向に約76kmにわたり,根尾谷断層,梅原断層,温水断層などで地表地震断層が出現した.この地震は被害の集中域は根尾谷断層から梅原断層にかけての断層沿いのほか、平野部に3列確認することができ、その中でも、地震前後の水準測量の改測結果から1m余りの緩やかな地殻変動(東側0.7mの隆起、西側0.3mの沈降)が認められた岐阜―一宮線は地表地震断層が出現した可能性を指摘されている。しかし、その有無は多くの地下構造調査を経ても結論が出ていない。

そこで、岐阜県岐阜測候所(1892)および愛知県警察部(1892)のデータの市町村データをもとに全壊家屋数と全戸数の比および犠牲者数と全壊家屋数の比をもとに濃尾平野内の地表地震断層の有無について検討した。

その結果、全壊家屋数の全戸数の比である倒壊率は根尾谷断層沿いで大きな値を示すこと、本巣から安八の揖斐川・長良川に沿った地域、羽島市から笠松にかけての地域、木曽川左岸の岐南市付近などで100%の倒壊率を示す。推定される岐阜―一宮線付近では値は高いものの、それを境に倒壊率が下がる。また、梅原断層の出現した地域では周辺と比較して倒壊率が高いことが確認できる。それに対して、犬山市、江南市、小牧市などでは倒壊率は低く、東側に急激に被害が小さくなる。

 全壊家屋数と犠牲者数の比では、その値が大きい地域は根尾谷断層周辺と、縁辺部である。また岐阜から一宮にかけての区間も比較的高い地域となり、全壊率で高い値だった西側の地域の値はそれほど高くはない。ただし、被害地域の縁辺部ではその値が高い地域がみられる。これは全壊家屋数も犠牲者も少なく、たまたま1-2人が犠牲になったため高い値を示している。また、火災が発生した地域ではこの値は大きくなるが、岐阜―一宮線に沿った被害をすべて火災で説明することには無理がある。

これらの結果から、岐阜―一宮線に沿って地表地震断層を伴う地殻変動があった可能性が高いといえる。