日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG02] 自然資源・環境の利用・変化・管理:社会科学と地球科学の接点

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 102 (1F)

コンビーナ:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、古市 剛久(北海道大学理学研究院)、佐々木 達(宮城教育大学)、座長:大月 義徳上田 元

16:15 〜 16:30

[HGG02-04] 自然資源・環境としての土砂と土砂移動

*古市 剛久1若狭 幸2水垣 滋3布川 雅典3 (1.北海道大学大学院農学研究院、2.秋田大学大学院国際資源学研究科、3.土木研究所寒地土木研究所)

キーワード:土地、農業、生息地、選鉱くず、土砂災害、土砂収支

1.はじめに

森林や水などに比べて,土砂が自然資源であり環境を作り出している重要な要素であることは一般的にあまり認識されていない.本発表では,土砂の自然資源および環境としての価値と問題について整理してフィールドでの具体例として紹介し,分析上有用なアプローチの一つをレビューする.その上で今後の研究へ向けた展望を議論する.

2.土砂とは

「土砂(sediment)」とは粘土から巨礫まで様々な粒径の粒子の,基本的に非固結状態での集合を表す用語であり,その粒子には岩石砕屑物,火山噴出物,風化残留物,生物遺骸などが含まれる.吸着や析出などによって粒子の表面が他の起源の物質で覆われている場合もある.「debris」も「土砂」と訳されるが,大小の礫が混入している場合に使うことが多い.「堆積物(sediment)」の用語は運搬プロセスに馴染まない語感があり,そのため「堆積物」には「deposit」の訳語が当てられることもある.ここでは,粒径組成によらず,運搬プロセスにも違和感無く使える用語として「土砂(sediment)」を用いる.

3.自然資源および環境としての土砂の価値と問題

土砂は,建築物や土木構造物の材料として,また有機物を含んだ土砂は肥料として利用され,堆積した土砂は国土や農地としての地形(平地,河岸・河床,海岸・海浜)を作り,その地形が動植物の生息地(生息環境)を形成するなど,人間活動や生態系に対して便益を与えている.その一方,土砂が様々な問題を生じさせている場合もある.1) 日本を含め世界各地で発生している土砂災害は最も重大な問題の一つであり,その他にも,2) ミャンマーの湖での急激な埋積に伴う水質変化や水上交通障害,3) オーストラリア・グレートバリアーリーフ沿海での浮遊土砂(水質)問題,4) セルビアの鉱山での選鉱くず(土砂)流出に伴う重金属汚染,5) 日本を含めた世界各地での土砂不足による河床低下や海岸侵食,6) そうした地形の変化や粒径の変化による動植物の生息場環境の劣化など,様々な事例が報告されている.このように,土砂が引き起こしている問題の多くは人間活動を原因としており,また極端な大雨(気候変動にも関連)や地震が原因となる場合もある.

4.分析の枠組みとしての「土砂収支」

土砂が引き起こす問題の多くは,急激な侵食(流出)や堆積(流入)によって引き起こされる場合が多い.その侵食(source)と堆積(sink),および対象地域外部への流出(output)の3者をリンクさせ,包括的かつ量的に土砂移動の実態を示す分析上の枠組みが提案され活用されているが,それが「土砂収支(sediment budgets)」と呼ばれるものである.一種のフローチャートである土砂収支は,問題が発生しているサイトでの土砂移動の実態を平易に説明する手段でもあるため,問題への対応へ向けた基本情報としても大いに活用できる.

5.展望

土砂は自然資源であり環境の一部だという認識を,研究界を含めて,より広めていく必要があるように思われる.そして,土砂移動の変化が引き起こす多様な影響を,便益と問題の両面から多面的に科学の立場で分析していくことが求められている.その分析には地球科学,生態科学,社会科学といった多分野の協力が一層必要になるだろう.