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[HQR05-05] 房総沖掘削コアC9010Eに介在するテフラ層序-速報として-
キーワード:掘削コアCK09-03、C9010E、第四紀後期、新島、神津島、大室ダシ
現在、我々は伊豆諸島北部の火山活動史や島嶼部の高精度テフラ編年確立をめざし、各島のテフラの理化学的特性のデータベース化を進めつつある(青木ほか、2019)。また、房総半島沖で掘削されたコアC9010E中に介在する伊豆諸島の火山起源と考えられるテフラ層序研究に取り組んでいる。本発表では、本コアの上位30m中に介在する過去約2万年間分のテフラの岩石学的特徴、化学的特性および層序について報告する。
深海掘削コアC9010Eは、地球深部探査船「ちきゅう」のCK09-03次航海で、房総半島南方40 km沖の34°33.46'N、139°53.38'E、水深2027.25 mで掘削され、コア長は190.38 m、船上での岩相記載で161層のテフラ層が介在していることが報告されている(Tsuchiya et al., 2009)。この情報をもとに、高知コア研究所に保管されていたコアから314のテフラ分析用試料を採取した。これらの試料はすべて水洗・風乾後に250㎛、 125㎛、63㎛サイズで篩った。実体微鏡下で観察後、岩石学的特徴を記載し、63-125㎛サイズの試料について高知大学海洋コア総合研究所所有のEPMAを用いて火山ガラスの主元素組成分析を進めている。
最初に、広域テフラに対比される可能性が高い細粒でガラス質なテフラ試料を分析した結果、深度149.08 mbsfにAso-4(MIS 5b、87.1 ka;Aoki, 2008)、158.244 mbsfにOn-Pm1(MIS 5c、95.7 ka; 青木ほか、2008)でその下位25 cmにAso-ABCDに対比される可能性が高いテフラ層を発見した。
次にコアの最上位から深度30 mまでの28試料(試料番号No.1~28)の分析結果について要約する。10試料はスコリア層もしくはスコリアを多く含む。残りの20試料は珪長質ガラスに富み、斜長石や石英(高温石英を含む)の他には、重鉱物として斜方輝石、角閃石類、たまに黒雲母などが観察される。これらの珪長質テフラは総じてSiO2の含有量が77.9-78.8 wt%と多い。また、No.18 (16.722-16.772 mbsf)を除いて、FeO*(0.59-0.74 wt%)とCaO(0.34-0.70 wt%)の含有量は著しく少ない一方で、Na2O(4.12-4.25 wt%)とK2O(3.45-4.15 wt%)の含有量は比較的多く、第四紀後期に新島と神津島が供給したテフラの特性によく似る。さらに、それぞれのテフラ層について、火山ガラスの主元素組成の特徴から、以下のように対比されると考えられる。最上位のNo.1 (1.15-1.17 mbsf)は新島向山テフラ(AD886)、No.2 (1.63-1.66 mbsf)は神津島天上山テフラ(AD838)に対比される可能性が高い。また、No.8 (9.367-9.48 mbsf)、No.12とNo.13(14.322-14.652 mbsf)、No.14、No.15、No.16(14.652-15.542 mbsf)のテフラはそれぞれ新島本島で確認される宮塚山南部、式根島、宮塚山イベントに相当すると考えられる(小林ほか、2019a)。No.19、No.20(19.895-19.005 mbsf)とNo.21(19.305-19.345 mbsf)、さらにNo.28(29.49-30.66 mbsf)のテフラの特徴は赤崎峰イベントのテフラと似る。No.19とNo.28の層位は上下で11m離れ、間に介在している軟泥と複数のスコリア層から相応の時間間隙があると考えられるが、小林ほか(2019a)では赤崎峰イベントは15-20 kaにわたって複数回の噴火が起きたと想定しているため、本コアで検討したテフラ層の対比とつじつまが合う。
No.18(16.722-16.772 mbsf)は淘汰の良い細粒なガラス質火山灰が主体で最大で7㎜大の灰色~ベージュ色の細かく発泡した軽石を伴う。63-250㎛サイズの試料にはスコリア粒や岩片などは含まれず、ほぼ火山ガラスからなり、軽鉱物と少量の斜方輝石が含まれる。SiO2の含有量は78.8 wt%と多く、FeO*(1.24 wt%)、CaO(1.25 wt%)、Na2O(4.76 wt%)、K2O(1.22 wt%)といった主元素組成の特徴は、新島・神津島起源テフラとは大きく異なる。本テフラは海底火山である大室ダシから13.4 kaに供給された流紋岩質テフラ(葉室ほか、1983;斎藤・宮入、2008;谷ほか、2017)に対比されると考えられる。
以上から、本コアは第四紀後期の伊豆諸島北部における火山活動史を詳細に記録していると考えられ、今後はコア下位のテフラ層序解明を進める予定である。
深海掘削コアC9010Eは、地球深部探査船「ちきゅう」のCK09-03次航海で、房総半島南方40 km沖の34°33.46'N、139°53.38'E、水深2027.25 mで掘削され、コア長は190.38 m、船上での岩相記載で161層のテフラ層が介在していることが報告されている(Tsuchiya et al., 2009)。この情報をもとに、高知コア研究所に保管されていたコアから314のテフラ分析用試料を採取した。これらの試料はすべて水洗・風乾後に250㎛、 125㎛、63㎛サイズで篩った。実体微鏡下で観察後、岩石学的特徴を記載し、63-125㎛サイズの試料について高知大学海洋コア総合研究所所有のEPMAを用いて火山ガラスの主元素組成分析を進めている。
最初に、広域テフラに対比される可能性が高い細粒でガラス質なテフラ試料を分析した結果、深度149.08 mbsfにAso-4(MIS 5b、87.1 ka;Aoki, 2008)、158.244 mbsfにOn-Pm1(MIS 5c、95.7 ka; 青木ほか、2008)でその下位25 cmにAso-ABCDに対比される可能性が高いテフラ層を発見した。
次にコアの最上位から深度30 mまでの28試料(試料番号No.1~28)の分析結果について要約する。10試料はスコリア層もしくはスコリアを多く含む。残りの20試料は珪長質ガラスに富み、斜長石や石英(高温石英を含む)の他には、重鉱物として斜方輝石、角閃石類、たまに黒雲母などが観察される。これらの珪長質テフラは総じてSiO2の含有量が77.9-78.8 wt%と多い。また、No.18 (16.722-16.772 mbsf)を除いて、FeO*(0.59-0.74 wt%)とCaO(0.34-0.70 wt%)の含有量は著しく少ない一方で、Na2O(4.12-4.25 wt%)とK2O(3.45-4.15 wt%)の含有量は比較的多く、第四紀後期に新島と神津島が供給したテフラの特性によく似る。さらに、それぞれのテフラ層について、火山ガラスの主元素組成の特徴から、以下のように対比されると考えられる。最上位のNo.1 (1.15-1.17 mbsf)は新島向山テフラ(AD886)、No.2 (1.63-1.66 mbsf)は神津島天上山テフラ(AD838)に対比される可能性が高い。また、No.8 (9.367-9.48 mbsf)、No.12とNo.13(14.322-14.652 mbsf)、No.14、No.15、No.16(14.652-15.542 mbsf)のテフラはそれぞれ新島本島で確認される宮塚山南部、式根島、宮塚山イベントに相当すると考えられる(小林ほか、2019a)。No.19、No.20(19.895-19.005 mbsf)とNo.21(19.305-19.345 mbsf)、さらにNo.28(29.49-30.66 mbsf)のテフラの特徴は赤崎峰イベントのテフラと似る。No.19とNo.28の層位は上下で11m離れ、間に介在している軟泥と複数のスコリア層から相応の時間間隙があると考えられるが、小林ほか(2019a)では赤崎峰イベントは15-20 kaにわたって複数回の噴火が起きたと想定しているため、本コアで検討したテフラ層の対比とつじつまが合う。
No.18(16.722-16.772 mbsf)は淘汰の良い細粒なガラス質火山灰が主体で最大で7㎜大の灰色~ベージュ色の細かく発泡した軽石を伴う。63-250㎛サイズの試料にはスコリア粒や岩片などは含まれず、ほぼ火山ガラスからなり、軽鉱物と少量の斜方輝石が含まれる。SiO2の含有量は78.8 wt%と多く、FeO*(1.24 wt%)、CaO(1.25 wt%)、Na2O(4.76 wt%)、K2O(1.22 wt%)といった主元素組成の特徴は、新島・神津島起源テフラとは大きく異なる。本テフラは海底火山である大室ダシから13.4 kaに供給された流紋岩質テフラ(葉室ほか、1983;斎藤・宮入、2008;谷ほか、2017)に対比されると考えられる。
以上から、本コアは第四紀後期の伊豆諸島北部における火山活動史を詳細に記録していると考えられ、今後はコア下位のテフラ層序解明を進める予定である。