[HQR05-P12] 濃尾平野内陸域のコア堆積物にみられる沖積層の特徴
キーワード:堆積環境、放射性炭素年代、氾濫原、完新世、濃尾平野
濃尾平野は、主に木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)の土砂供給により形成された、東西約35 km、南北約50 km、面積約1,300 km2の沖積低地である。地形は上流から、扇状地、氾濫原、三角州に区分され(井関 1983)、臨海部には干拓地や埋立地がみられる。近年、濃尾平野ではオールコア堆積物を用いた研究が数多くなされ、海退期の堆積システムであるデルタの発達過程が把握されるようになってきた(山口ほか 2003;大上ほか 2009;Hori et al. 2011など)。河川から供給された土砂は、相対的海水準上昇期には潮間帯から陸側を中心に堆積し、海水準上昇期の終わりには上方へ累重しながら海側にも堆積する(斎藤 2011)。しかし、オールコア堆積物を用いた既存研究の多くは、プロデルタ堆積物が分布する範囲を対象としており、海水準上昇期の堆積中心である内陸域の堆積過程の十分な議論がなされておらず、海進から海退に転じる前後の堆積システムの発達過程を詳細に把握するまでには至っていない。本発表では、濃尾平野内陸域(現氾濫原内陸側)において機械ボーリングにより採取したオールコア堆積物の特徴を報告する。
2018年1~2月に木曽川左岸側の氾濫原2地点でコア堆積物(以下、KGコア、OZコア)を掘削した。コア堆積物については、半裁後、岩相の記載、湿潤・乾燥かさ密度測定、色調測定、泥分含有率測定を実施した。堆積物中の木片や植物片について、DirectAMSに依頼し、加速器質量分析(AMS)法による放射性炭素(14C)年代測定を行った。さらに、一部の細粒堆積物に対し、パレオ・ラボに珪藻分析を依頼した。
2本のコア堆積物について、それぞれ3つの堆積ユニット(KG1~3、OZ1~3)に区分した。以下に各ユニットの特徴を述べる。KG1とOZ1、KG2とOZ2は、それぞれ共通の特徴がみられるため、まとめて記す。
KG1およびOZ1:礫径数十mmの円礫~亜円礫を主体とする砂礫層である。KG1の上部には有機物等を含まない細粒砂~中粒砂がみられる。本ユニットは河川流路を充填する堆積物と考えられる。また、砂礫層は沖積層基底礫層(井関 1983)に対比される。
KG2およびOZ2:植物片や生痕化石、マッドクラストが認められるシルト~中粒砂を主体とする。KG2の最下部で8.0 cal kyr BP、上部で7.1 cal kyr BP、OZ2の最下部から上部にかけて8.5~7.8 cal kyr BPの14C年代値が得られた。珪藻化石については、KG2の最下部で多くの海水干潟指標種群が認められた。OZ2では、最下部で海水藻場指標種群や海水干潟指標種群、中部および最上部で海水砂質干潟指標種群が数多く検出された。本ユニットは河口に近い潮間帯から潮下帯において堆積したと解釈される。
KG3:植物片や植物根、有機質な層準がみられ、ところどころに砂層を挟むシルトが主体である。最下部および中部の14C年代値は、それぞれ5.5 cal kyr BPと2.2 cal kyr BPを示す。最下部では、湖沼沼沢湿地指標群の珪藻化石が多産した。コアの掘削地点が現在の後背湿地にあたることを踏まえると、本ユニットは後背湿地堆積物と推定される。また、挟在する砂層は破堤堆積物の可能性がある。
OZ3:植物片の混入が相対的に少ない中粒砂~粗粒砂主体であり、上部では極細粒砂主体となる。最下部および中部では、それぞれ5.2 cal kyr BPと1.0 cal kyr BPの14C年代値を示す。上方細粒化がみられるとともに、コアの掘削地点が現河川流路から50 m程度離れた滑走斜面側の微高地に位置することから、本ユニットは河川流路からポイントバーへと変化する中で堆積したと考えられる。
KG2およびOZ2の堆積速度はそれぞれ約5 mm/yr、7~27 mm/yrと上位のユニットに比べて大きく、これらの堆積時期は汎世界的な海水準上昇期(Lambeck et al. 2014)にあたる。濃尾平野において海退が開始した時期は7.8~7.3 cal kyr BPと推定されている(大上ほか 2009)。したがって、対象地域は海水準上昇期の堆積中心であり、KG2およびOZ2の中に海進・海退境界が存在する可能性が高い。
謝辞 本研究には科学研究費補助金(課題番号:17H07151)を使用した。
文献 井関 1983. 東京大学出版会. 大上ほか 2009. 地学雑誌 118: 665-685. 斎藤 2011. 第四紀研究 50: 95-111. 山口ほか 2003. 第四紀研究 42: 335-346. Hori et al. 2011. Journal of Asian Sciences 41: 195-203. Lambeck et al. 2014. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 111: 15296-15303.
2018年1~2月に木曽川左岸側の氾濫原2地点でコア堆積物(以下、KGコア、OZコア)を掘削した。コア堆積物については、半裁後、岩相の記載、湿潤・乾燥かさ密度測定、色調測定、泥分含有率測定を実施した。堆積物中の木片や植物片について、DirectAMSに依頼し、加速器質量分析(AMS)法による放射性炭素(14C)年代測定を行った。さらに、一部の細粒堆積物に対し、パレオ・ラボに珪藻分析を依頼した。
2本のコア堆積物について、それぞれ3つの堆積ユニット(KG1~3、OZ1~3)に区分した。以下に各ユニットの特徴を述べる。KG1とOZ1、KG2とOZ2は、それぞれ共通の特徴がみられるため、まとめて記す。
KG1およびOZ1:礫径数十mmの円礫~亜円礫を主体とする砂礫層である。KG1の上部には有機物等を含まない細粒砂~中粒砂がみられる。本ユニットは河川流路を充填する堆積物と考えられる。また、砂礫層は沖積層基底礫層(井関 1983)に対比される。
KG2およびOZ2:植物片や生痕化石、マッドクラストが認められるシルト~中粒砂を主体とする。KG2の最下部で8.0 cal kyr BP、上部で7.1 cal kyr BP、OZ2の最下部から上部にかけて8.5~7.8 cal kyr BPの14C年代値が得られた。珪藻化石については、KG2の最下部で多くの海水干潟指標種群が認められた。OZ2では、最下部で海水藻場指標種群や海水干潟指標種群、中部および最上部で海水砂質干潟指標種群が数多く検出された。本ユニットは河口に近い潮間帯から潮下帯において堆積したと解釈される。
KG3:植物片や植物根、有機質な層準がみられ、ところどころに砂層を挟むシルトが主体である。最下部および中部の14C年代値は、それぞれ5.5 cal kyr BPと2.2 cal kyr BPを示す。最下部では、湖沼沼沢湿地指標群の珪藻化石が多産した。コアの掘削地点が現在の後背湿地にあたることを踏まえると、本ユニットは後背湿地堆積物と推定される。また、挟在する砂層は破堤堆積物の可能性がある。
OZ3:植物片の混入が相対的に少ない中粒砂~粗粒砂主体であり、上部では極細粒砂主体となる。最下部および中部では、それぞれ5.2 cal kyr BPと1.0 cal kyr BPの14C年代値を示す。上方細粒化がみられるとともに、コアの掘削地点が現河川流路から50 m程度離れた滑走斜面側の微高地に位置することから、本ユニットは河川流路からポイントバーへと変化する中で堆積したと考えられる。
KG2およびOZ2の堆積速度はそれぞれ約5 mm/yr、7~27 mm/yrと上位のユニットに比べて大きく、これらの堆積時期は汎世界的な海水準上昇期(Lambeck et al. 2014)にあたる。濃尾平野において海退が開始した時期は7.8~7.3 cal kyr BPと推定されている(大上ほか 2009)。したがって、対象地域は海水準上昇期の堆積中心であり、KG2およびOZ2の中に海進・海退境界が存在する可能性が高い。
謝辞 本研究には科学研究費補助金(課題番号:17H07151)を使用した。
文献 井関 1983. 東京大学出版会. 大上ほか 2009. 地学雑誌 118: 665-685. 斎藤 2011. 第四紀研究 50: 95-111. 山口ほか 2003. 第四紀研究 42: 335-346. Hori et al. 2011. Journal of Asian Sciences 41: 195-203. Lambeck et al. 2014. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 111: 15296-15303.