日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG41] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 302 (3F)

コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、座長:高橋 嘉夫(東京大学)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

14:15 〜 14:30

[MAG41-03] 福島第一原発事故直後の大気中放射性ヨウ素の動態

*鶴田 治雄1森口 祐一2中島 映至3 (1.リモート・センシング技術センター、2.東京大学、3.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:福島第一原子力発電所、大気中放射性ヨウ素、ヨウ素セシウム比、注水の影響

東電福島第一原子力発電所事故直後における放射性ヨウ素については、地表面への沈着量分布は多くのデータベースがあるが、大気中での観測データは非常に限られていたので、その動態はまだよくわからず、呼吸による内部被ばく量の評価の不確実性は大きい。一方、大気中の放射性セシウム(134Cs, 137Cs)は、事故直後のSPMテープろ紙中の分析により、その時空間分布が解明されてきた(Tsuruta et al., 2014)。そこで、131Iの時空間分布の復元を目標に、事故直後に独立に測定された大気中の131Iの公表データを、137Csとともに総合的に解析し、新たに明らかになったことを報告する。解析に用いたデータは、JAEA-原子力科学研究所(NSRI:Ohkura et al., 2012)、文部科学省(MEXT, 2012)、米国エネルギー省/国家核安全保障局(USDOE/NNSA, 2011)、東京電力(TEPCO, 2011)などで、福島県東部と関東地方で独立に測定された。なお131Iは、その半減期が約8日間と短いので、すべてのデータを原発が停止した3月11日午後に半減期補正して用いた(131I*と表記した)。(1)多くの機関では、大気中の粒子状の放射性物質を第一段目のフィルター(HE-40TあるいはHE-40TA)で採取し、揮発性物質を第二段目のフィルターカートリッジ(CHC-50、ガス状ヨウ素の採取効率を高めるために10%のTEDAを添着)で別々に採取された。NSRIでは、これらのフィルターの分析も別々に実施され、第二段目のフィルターにも137Csが測定されたので、この原因を詳細に検討した結果、主に放射性プルームの到達により測定/採取システムが汚染されたためと推定した(Ohkura et al., 2013;Tsuruta et al., to be submitted)。そこで、別々に分析された地点では、137Cs濃度は第一段目のフィルターのデータだけを使用し、131I濃度は両方のデータをそのまま使用した(粒子状とガス状のヨウ素は各131I(a)と131(g)と表記)。(2)高濃度の放射性プルーム中の131(a+g)*/137Csは、3グループ(A, B, C)に大別され、各10、75、360だった。また、131(a)*/131(a+g)* も同様に3グループで異なった。(3)これらは、測定地域に関係なくプルーム毎に異なった。グループAは、3月15日(プルームP2)と3月20日(P7、P8)および21日の午前中(P9)で、これらの比(10)はNishihara et al. (2012)の2号機と3号機のインベントリデータの比(9.7と9.2)に近かった。グループBは関東地方で3月16日(P4)に測定され、グループAより比が大きかった。グループCは3月21日午後から3月25日まで連続的に測定され、低濃度を示した137Csに対して131I(a+g)*が非常に高濃度だった。(4)グループCは、3月21日の午前中に炉内での何らかの変化により、相対的に高濃度の131(a+g)*を含む放射性物質が放出され、少なくとも数日間継続されたと推測される。その原因の一つとして、注水作業の影響(例えば、Hidaka & Ishikawa, 2014)が考えられるが、この現象はこれまで注目されておらず、炉内事象を含めた詳細な検討が必要である。
謝辞:この研究の一部は、文部科学省科研費「ISET-R」および環境省推進費「5-1501」と「1-1802」および「S-12」で実施した。