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[MIS10-08] 天然アルカリ環境において生成した低結晶質マグネシウムケイ酸塩の観察とフロースルー実験
キーワード:マグネシウムケイ酸塩、透過電子顕微鏡、速度論、神居古潭帯、蛇紋石、熱力学的計算
はじめに
低温環境(25-200℃)におけるマグネシウムケイ酸塩の生成は、今日様々な分野において注目されている。低温でのMgO-SiO2-H2O系における反応において、従来はセピオライトや蛇紋石といった結晶質のマグネシウム粘土鉱物の生成が考えられてきたが、近年では低結晶質なマグネシウムケイ酸塩の生成が考えられるようになってきている[1]。この種の低結晶質ケイ酸塩は多くの研究者や技術者によって精力的に研究されてきた。例えば、低結晶質カルシウムケイ酸塩はC-S-H(カルシウムシリケート水和物)として、アルミニウムケイ酸塩はアロフェンやイモゴライトとして既に知られている。これらは天然で産出される鉱物と実験的合成物の両面から研究されていたが、一方で、マグネシウムに関する低結晶質ケイ酸塩の研究はまだ始まったばかりであり、その地球化学的性質の理解は不十分であると言える。従って、低結晶質マグネシウムケイ酸塩の生成しうる多種多様な工学的場面(石油増進回収[2]、CO2地中貯留[3]、地熱発電[4]、コンクリートの配合[5]、放射性廃棄物地層処分[6]、環境汚染処理[7]など)では、その生成自体が、業界の度肝を抜いた事件であり、工学技術の向上のためにその地球化学的性質の理解が喫緊の課題である。少し毛色の違う分野としては、惑星科学の分野でも、火星の表層環境[8]や星間ダストの水質変成過程[9]においても生成されることが知られているため、この研究は幅広い学術的分野において応用できると考えられる。
フィールド調査
本研究においては、始めに、天然環境において低結晶質マグネシウムケイ酸塩が生成することを確認した。北海道神居古潭帯の赤岩青巌峡の蛇紋岩の表層より流出したアルカリ地下水の作用で生成された沈殿物を採取して分析を行った。バルクで分析したX線回折プロファイルからは生成物に関する明確なピークは見られなかったが、電子顕微鏡(電界放射型走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡;TEM)での観察から低結晶質マグネシウムケイ酸塩の粒子を確認することができた。TEMのエネルギー分散型X線分析よりその粒子はMg, Si, Oから成ることが判明し、電子線回折図よりブロードなハローリングが得られたため、低結晶質のマグネシウムケイ酸塩であることが証明できた。更に、採取した溶液試料の分析より、それらはアルカリ性(9.50 < pH < 10.67)であり、低結晶質マグネシウムケイ酸塩相(マグネシウムシリケート水和物[10])に飽和であった。
フロースルー実験
次に、上記の天然での沈殿反応を実証し速度論的考察を深めるため、開放系でのフロースルー実験を行った。溶存シリカ1.5mMのアルカリ水溶液を反応容器中の粉末状MgOに定流量で供給した。反応後の固体物質からは、TEM観察より同様に低結晶性マグネシウムケイ酸塩を確認した。更に、反応後の採取した溶液濃度から、マグネシウム鉱物(初期物質)の溶解速度とマグネシウムケイ酸塩(二次生成物)の生成速度を算出した。マグネシウムケイ酸塩の生成速度はマグネシウム鉱物の溶解速度よりも遥かに大きい結果を得たことから、溶存シリカが十分にあればマグネシウムケイ酸塩は瞬時に生成し、マグネシウム鉱物の溶解が律速過程となっていることがわかった。本実験ではマグネシウム鉱物としてMgOのみを使用しているが、MgOの溶解速度は他のどのマグネシウム鉱物(橄欖石や輝石など)の溶解速度よりも大きい為、上記の考察は一般的に全てのマグネシウム鉱物に対して適用できる。即ち、本実験は、赤岩青巌峡だけでなく、岩石や土壌中の鉱物からのマグネシウムの供給により低結晶性マグネシウムケイ酸塩が生成するあらゆる場所において、その生成に関する速度論的理解の一助となることがわかる。
引用文献
[1] Roosz et al., 2015, Cement and Concrete Research
[2] Olajire, 2014, Energy
[3] Carroll et al., 2011, Energy Procedia
[4] Spinthaki et al., 2018, Geothermics
[5] Brew and Glasser, 2005, Cement and Concrete Research
[6] Ramirez et al., 2002, Applied Clay Science
[7] Nozawa, Sato, and Otake, 2018, Minerals
[8] Gainey et al., 2017, Nature Communications
[9] 松野ら, 2013, Photon Factory Activity Report
[10] Lothenbach et al., 2018, Cement and Concrete Research
低温環境(25-200℃)におけるマグネシウムケイ酸塩の生成は、今日様々な分野において注目されている。低温でのMgO-SiO2-H2O系における反応において、従来はセピオライトや蛇紋石といった結晶質のマグネシウム粘土鉱物の生成が考えられてきたが、近年では低結晶質なマグネシウムケイ酸塩の生成が考えられるようになってきている[1]。この種の低結晶質ケイ酸塩は多くの研究者や技術者によって精力的に研究されてきた。例えば、低結晶質カルシウムケイ酸塩はC-S-H(カルシウムシリケート水和物)として、アルミニウムケイ酸塩はアロフェンやイモゴライトとして既に知られている。これらは天然で産出される鉱物と実験的合成物の両面から研究されていたが、一方で、マグネシウムに関する低結晶質ケイ酸塩の研究はまだ始まったばかりであり、その地球化学的性質の理解は不十分であると言える。従って、低結晶質マグネシウムケイ酸塩の生成しうる多種多様な工学的場面(石油増進回収[2]、CO2地中貯留[3]、地熱発電[4]、コンクリートの配合[5]、放射性廃棄物地層処分[6]、環境汚染処理[7]など)では、その生成自体が、業界の度肝を抜いた事件であり、工学技術の向上のためにその地球化学的性質の理解が喫緊の課題である。少し毛色の違う分野としては、惑星科学の分野でも、火星の表層環境[8]や星間ダストの水質変成過程[9]においても生成されることが知られているため、この研究は幅広い学術的分野において応用できると考えられる。
フィールド調査
本研究においては、始めに、天然環境において低結晶質マグネシウムケイ酸塩が生成することを確認した。北海道神居古潭帯の赤岩青巌峡の蛇紋岩の表層より流出したアルカリ地下水の作用で生成された沈殿物を採取して分析を行った。バルクで分析したX線回折プロファイルからは生成物に関する明確なピークは見られなかったが、電子顕微鏡(電界放射型走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡;TEM)での観察から低結晶質マグネシウムケイ酸塩の粒子を確認することができた。TEMのエネルギー分散型X線分析よりその粒子はMg, Si, Oから成ることが判明し、電子線回折図よりブロードなハローリングが得られたため、低結晶質のマグネシウムケイ酸塩であることが証明できた。更に、採取した溶液試料の分析より、それらはアルカリ性(9.50 < pH < 10.67)であり、低結晶質マグネシウムケイ酸塩相(マグネシウムシリケート水和物[10])に飽和であった。
フロースルー実験
次に、上記の天然での沈殿反応を実証し速度論的考察を深めるため、開放系でのフロースルー実験を行った。溶存シリカ1.5mMのアルカリ水溶液を反応容器中の粉末状MgOに定流量で供給した。反応後の固体物質からは、TEM観察より同様に低結晶性マグネシウムケイ酸塩を確認した。更に、反応後の採取した溶液濃度から、マグネシウム鉱物(初期物質)の溶解速度とマグネシウムケイ酸塩(二次生成物)の生成速度を算出した。マグネシウムケイ酸塩の生成速度はマグネシウム鉱物の溶解速度よりも遥かに大きい結果を得たことから、溶存シリカが十分にあればマグネシウムケイ酸塩は瞬時に生成し、マグネシウム鉱物の溶解が律速過程となっていることがわかった。本実験ではマグネシウム鉱物としてMgOのみを使用しているが、MgOの溶解速度は他のどのマグネシウム鉱物(橄欖石や輝石など)の溶解速度よりも大きい為、上記の考察は一般的に全てのマグネシウム鉱物に対して適用できる。即ち、本実験は、赤岩青巌峡だけでなく、岩石や土壌中の鉱物からのマグネシウムの供給により低結晶性マグネシウムケイ酸塩が生成するあらゆる場所において、その生成に関する速度論的理解の一助となることがわかる。
引用文献
[1] Roosz et al., 2015, Cement and Concrete Research
[2] Olajire, 2014, Energy
[3] Carroll et al., 2011, Energy Procedia
[4] Spinthaki et al., 2018, Geothermics
[5] Brew and Glasser, 2005, Cement and Concrete Research
[6] Ramirez et al., 2002, Applied Clay Science
[7] Nozawa, Sato, and Otake, 2018, Minerals
[8] Gainey et al., 2017, Nature Communications
[9] 松野ら, 2013, Photon Factory Activity Report
[10] Lothenbach et al., 2018, Cement and Concrete Research