14:00 〜 14:22
[MIS19-08] 生物源炭酸カルシウムのホウ素同位体分析に基づく海水pH・大気中CO2濃度復元
★招待講演
キーワード:ホウ素同位体、サンゴ、有孔虫、炭素循環、石灰化、二酸化炭素
造礁サンゴや有孔虫に代表される生物源炭酸カルシウムには微量元素や同位体の形で様々な海洋環境情報が記録されている。中でも、ホウ素同位体(δ11B)は海水のpH、さらには大気中CO2濃度を記録する代替指標として古気候・古海洋学研究で大きな関心を集めている。近年の人為的なCO2排出のもたらす環境問題(地球温暖化、海洋酸性化など)への関心の高まりとともに、過去の炭素循環研究が盛んに行われており、その中でもホウ素同位体指標は中心的な役割を果たしている。同指標は1980年代にその適用可能性が予見されたものの、当時は微量かつ高精度にホウ素同位体を分析することは困難であった。ホウ素は身の回りにありふれた元素であり(代表的なものはホウケイ酸ガラス)、また生物源炭酸カルシウム中のホウ素の含有量が極めて小さいことから、クリーン環境の向上とともに分析技術が進化して来たという経緯がある。表面電離型質量分析計(TIMS)を用いた測定技術が最初に開発され、現在までにマルチコレクター型ICP質量分析計(MC-ICPMS)、二次イオン質量分析計(SIMS)、レーザーアブレーション型ICP質量分析計(LA-ICPMS)を用いた測定が可能になっている(他にも多数)。それぞれの分析法で測定可能量・達成できる精度・空間分解能が大きく異なるが、現在なおより微量・より高精度に同位体を測定するための技術開発努力が世界中の研究機関で続けられている。海洋研究開発機構高知コア研究所においては、TIMSとMC-ICPMSの二種類を用いた測定が可能になっており、前者は世界最高精度、後者も世界に引けを取らない測定精度・測定可能量を実現している。本講演では、海洋生物の炭酸カルシウム骨格のホウ素同位体が海水pHの指標になる原理と各分析法の特性を説明するとともに、発表者がこれまでに高知コア研究所において行なってきた研究・現在継続中の研究計画について簡単に紹介する。近年、サンゴや有孔虫の石灰化母液のpH可視化技術の進展とともに、ホウ素の取り込みに関するメカニズムの理解もより精緻化しつつある。造礁サンゴについては、ホウ素同位体は石灰化母液のpHの直接指標になる可能性が指摘されており、一方で有孔虫に関しても微小領域のpH変化がホウ素同位体に影響していることが明らかになりつつある。いずれにしても、様々な試料(飼育実験・最近野外で採取された個体・化石試料など)に対して、ホウ素同位体と海水pHとの間の明瞭な相関が確認されており、経験則を正確に把握することで古気候・古海洋学研究に応用されているのが現状である。